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宙から。

 緊張感。

 そして、敢なき達成感。

そんなものが、彼を戦地に赴かせていた。
真っ暗な夜の森の中では、月の光も届かない。ガサガサ、という音色が風によってもたらされるばかりで視界の範囲も驚くほどに狭い。

たった手を伸ばした指の先にすら何が触れるか知る由もない。
何もない、とたかを括るにはこの状況はいかにも危険であり無謀だった。

男は高山という名前で、どういうわけかこの異国の地でゲリラとして活動をしていた。現地の政治的な闘争に巻き込まれる形ではあったが初めて人を射撃した時の感覚を、しかし高山は忘れられないままであった。

今日も単独でこの森の中を突き進み開けた場所から要人を狙い撃つ。少しずつでも相手の弱体化を狙い、そして暴力的ではあるが抑圧に成功すればこちらの有利がより一層確定的になる。

高山は着古した迷彩柄のズボンと黒のタンクトップ、革のブーツ、そしてライフル銃を構えて身を低くして森の中を進んでいった。夜でも暑いこの国の気候ではただそれだけでも汗が滴る。息が荒くなるのを嫌って少し止まる。

その時。


ガザ・・・


すぐそばで風由来ではない音が鳴った。
近い。


一気に緊張感が張り詰める。
荒れた息を潜めて、神経を研ぎ澄ます。

ガザガザ・・・

音が動く。

軽い足音が四つ足で遠のいていくのが高鳴る鼓動の音の合間に聞こえた。
動物だろう。ふっと息をつく。

高山はようやく額に浮かんだ汗を手首で拭った。
生温い風がザワッと吹き抜けて、緊張感に動けなくなった高山を嘲笑うようにその汗をかいた体を涼しくさせた。

木々の匂いと、どこかなつかしい土の匂いがふわりと鼻先をくすぐった。
見上げるとしかし木の影に隠れてうっすらと月の位置がわかる程度だ。
世界は依然として暗い闇の中に覆い尽くされている。

その瞬間だった。

背後に、人の気配があった。

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