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初歩的なミス。

 今考えれば、まあ、それが実に初歩的なミスだったことがわかる。
僕はその日、初めての「任務」についていた。つまりこう、国の大事な組織の間を行ったり来たりするような、そういう任務だ。なんというかこう、スパイ的な、結構喫緊な仕事だ。

もちろん、理解していた。
この仕事をするにあたって敵対勢力が強い力を持って圧力をかけてくることを、というかスパイを狙う組織もあるということを理解していた。

だけど仕方ないと思わない?

僕はてっきり、黒服でガタイが良くて目つきの悪い革手袋のおっさんがやたら銃身の長い鉄砲で遠くから狙ってくるものだとばかり思っていたんだから。

裏路地でグスグスと泣いている女子高生が自分を狙ってそんな小芝居をしていると、思う方がおかしいってもんだよ。

僕は渋谷の駅から少し外れたところを歩いていた。その辺りの駐車場に車を停めていたからね。周りは工事中の現場ばかりで銀色の鉄でできた柵というかそういうのがたくさんあった。

彼女は、道の端でしゃがみ込んでいた。
近づくと、「ぐすん。」と言った。
僕はもうなんの疑いもなく、彼女に「ど、どうしたの?」と声をかけた。
時間帯は夜。女の子がそんなところで一人でしゃがみ込んで泣いているなんて普通じゃないから、声をかけた。

「なんか、あった?警察呼ぼうか?」

僕は彼女の顔を覗き込むようにして、一緒にしゃがみ込んでその鉄の柵に手をかけつつ声をかけた。
「へへ♪引っかかった。」
あまりにも急速な展開を見せる物語に僕自身取り残されたように呆然と、
顔を上げた女子高生の、まるでアイドルみたいに綺麗に整った顔に見惚れた。短い短いスカートから伸びる太ももの光沢に、見惚れて彼女が手に持っているハンカチをスッと僕の顔に伸ばしてきたことに対応できなかった。

「えっ・・・?」

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