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とあるヒーローの絶望。

 授業が終わるチャイムが鳴り、すこしかったるそうに肩からカバンをぶら下げて下校してくるのは、結城正。高校2年。少し年の離れた小学六年生の弟がいる。今日は、弟の優と待ち合わせをして近々誕生日である母親のプレゼントを買いに行く計画があるのだ。

午後四時、時間通りに待ち合わせ場所の公園に着いた正はすぐに優を見つけ出し声を掛けた。「おーい。優、ほら行くぞー」優は「あーん、お兄ちゃんちょっと待ってよー!」と後を追いかけてくる。二人は大の仲良しだった。
正しのあとを少し息を切らせてついてくる優が「ねえおにいちゃん、なんかまたモンスターが出てるみたいだね」、正は生返事で濁す「ん、ああ。」
今、世間で騒がれている話題に連続殺人事件がある。奇妙な変死体が複数発見されているのだ。一人は体中の骨を砕かれ、一人は首の骨だけを断絶され、一人は頭骨を物凄い力で潰されて死んでいた。被害者はどれも男性。そのほかに共通点はなし。正は弟以外に秘密にしている事があった。それは正は『VC-3』という名のモンスターハンターであり、日本政府が極秘裏に運営する害獣外敵駆除部隊の筆頭メンバーである事だ。
弟の優は兄がVC-3である事を相当誇りに思っているらしく、いつも変身した兄がモンスターを倒すのを物陰から見ている。今日も優は新たに巷を賑わしている話題のモンスターに出くわさないかと密かに楽しみにしているのだ。
それを見咎めた正は諭すように優に言う。「あのなあ、優。モンスターなんて出ない方がいいし、出会わない方がいいの。そもそもお前が近くに居ることだって危険すぎるんだからな。」優は唇をとんがらせて「だってーー。」と駄々をこねる。「さあ、さっさと買い物済ませて帰るぞ!」正が言うと優も嬉しそうに「うん!」と答え、そのあとをついてゆく。

暗い話題が色濃く出る世相にあってあまり聴こえては来ないが、明るい話題もじつはそれなりに充実している。とくに学生を色めき立たせているのがアイドルユニット「e-kans」である。このユニットは容姿端麗、歌もダンスも素晴らしく、ここのところテレビに出ない日はないといっても良い人気だ。メンバーは3人。最年長が20才の高野愛美、肩までの綺麗な髪と最年長らしくない愛らしい童顔と最年長らしい体つきのよさが人気だ。そして18才の月野琴音、セクシー担当といわれる月野はクールに見える端麗な顔立ちと、細身ながら出るところは出ているスタイルのよさが世の中の男子学生や中年あたりまでを狂わせている。そして17才、渡辺渚。渚は最年少らしい無邪気な妹キャラで人気があるがひとたびグラビアになると琴音や愛美に引けをとらない凄まじい色気を現すことがある。正は硬派を気取っているため、あまりあからさまに興味を示したりはしないが優はまだ小学生なのでキラキラ輝く少し年上のお姉さんたちに対してとても興味を抱いている。ちなみに推しは最も年齢が近い渚だそうだ。優は何度か握手会にも通っている。
この日も買い物に寄った駅前のオーロラビジョンに歌い踊る三人の姿が大きく映し出されていた。

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