町の日は暮れて、この使われていないはずの雑居ビルはひっそりと陰にたたずんでいる。
有名youtuberのケントはこの雑居ビルに関する噂を検証するために1人きもだめしとして動画の撮影をしにやってきた。

噂というのは誰もいないはずのフロアから男の呻き声がする、女の笑い声がする。というありがちな怪談っぽいもので、ケントは真偽などはさておき何か視聴者の気を引き再生回数が伸びる事が起これば良いなと軽い気持ちでそのビルに侵入した。

時間は夜の八時を回ったところだが、近辺は昼間から余り人通りがなく、夜になると静寂があたりを包んでしまう。
遠くのほうに町の喧騒や車の騒音などがかすかに聞こえる程度で、実に静かだ。

ケントは一階を見て回る。余りの静寂に、いつものようにかしましく騒ぎ立てることが出来ないでいるケントはじっとカメラを回しながら真っ暗で何もない部屋を次々と映していった。

なんだ、何もないじゃないか。女の笑い声が聞こえるならもう、聞こえても良い頃だ。

ケントはがっくりと肩を落としながら３階に上った。
すると表通りからは見えない奥まったフロアに明かりがついているのを発見した。

ケントは、なんだ、人が居るのか。と気の抜けた気分でかなり重い防音扉のような扉をこっそりと開けた。