いつか王子様が。

あれはもう随分昔の話になるが、僕より七歳年下の女の子が柔道教室の道場でころころ転がっていたのを覚えている。

とても可愛らしい子で、きゃっきゃと走り回ってはころころ転がる。
受身を覚えたばっかりの彼女は転んでも痛くないのが嬉しいのかとてもはしゃいでいた。

その頃僕は中学生になったばかりで一生懸命練習に励んでいた。練習が終わるとその子供の相手をしてやったりもしたなあ。

時はたち、僕はもう27歳にもなる。
高校まで頑張った柔道も大学へいってまでやることはなかった。
でも時たま懐かしい道場へ顔を出しては子供たちと戯れたりしている。僕にとってそこは落ち着く場所になっていた。

ある日、見かけない女の人が道場にいた。

僕は黒帯を締めているその綺麗な女性に見とれてしまった。

凛とした表情は優しさと厳しさの両面を兼ね備えており、耳の後ろで二つに結んでいる髪型はどこかあどけなく、年のころは二十歳くらいかなあ。などと予測しているとその綺麗な女性が僕の元へ駆け寄ってきた。

せんぱい!お久しぶりです!私のことわかりますか?

そうキラキラした顔をこちらに向けて話す彼女。僕がえっっっと??と困惑していると

あかねです!私がまだ子供の頃によく遊んでくれたじゃないですか!と女性。


あかね、あかね、はて。そんな知り合いいたっけなあ。。


。。。。あっっ!!!!!


あのころころ転がってた女の子か!!!

なんだ、大きくなったねえ。などと年寄りが言いそうな言葉を口にしつつ
成長すると女の子はわからないなあと忸怩たる思いでもいた。

今も大学で柔道を続けている。というそのあかねちゃんは久しぶりに話すのにまるで昨日も会って話していたように自然に振舞って天真爛漫さは変わっていないんだなあと僕を和ませてくれた。

そして練習が始まり、まずは寝技の練習だ、ということになり
僕はサボりがちな子供たちを監視したり挑んでくる中学生をいなしたりして過ごすつもりでいたが、あかねが僕のところへやってきて可愛らしく「おねがいします」というものだから僕もいいよ、なんて安請け合いしてしまった。

いくら大学生とはいえ女子だし、昔っから知っている子だし。ま、適当に流して思い出話でもして時間を潰そう。

僕はそう考えて、適当に広い場所を選び出し正座して礼をして、そのまま亀になって彼女に攻めさせようとした。

のんびりとした時間になるはずだった。

が、彼女はさっきまでとは違う声で「参ったは無しですからね。」と耳元で囁いた。
僕が、え?と聞き返そうと顔を上げた、そこに彼女はおらず、代わりに僕の頭は彼女の脚に包まれていた。

「先輩、そんな甘い亀してたら私に三角絞めしてくださいって言ってるようなものですよ?」

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