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闘魂ロード。

小学生の頃だったか。
父親が好きでプロレスが家のテレビでよく流れていた。
今考えれば、すごい世界だとわかる。
常軌を逸した大男、しかもいい年をした大男が覆面をかぶったり、顔に色を塗ったり、口から毒霧を吹いたり、コーナーポストから飛び跳ねたり、を真剣な顔をしてやっているのだ。

でもそんな四角いリングの中のファンタジーに、僕も知らない間にどっぷりとはまってしまっていた。あんなに声援をもらいながら戦えればさぞかし楽しいだろうなあ。そう思っていた。

しかし、その後プロレスは下火になった。
もっともっとリアリティのある格闘技にその役割は取って代わられてしまったのだ。まるで見せしめのようにプロレスラーもその格闘技のリングに上げられて血祭りに上げられた。ひどい有様だった。

なんだ、結局プロレスはやらせの格闘ショーだったのかよ。

きっとみんなわかっていたことだったけれど、
僕はレスラーたちが格闘技のリングの上で倒れていく無様な姿を見て
どこか、こう、裏切られたような気持ちになってしまった。
これまでは楽しく、熱中して見ていたプロレスも
弱者の傷の舐め合いみたいに見えた。

ドロップキックも、フライングボディプレスも、毒霧も、
どれもこれもその世界でしか通用しないもので、
実際にはレスラーは強くなんかないのだ。

その絶望は僕を、文字通り絶望的に格闘技から遠ざけた。

それが中学の終わり頃だったっけ。

高校に入って、それなりに彼女もできて、
まあこんなところだろうな、と目した大学にもスムーズに進むことができた。いっちょまえにギターなんて初めて、学生のうちになんでもやっとくものだと思ってバンドを組んで、ライブに出たりもした。

きっとこのまま就職をして、いわゆる平凡な人生を送るんだろうと考えていた。ある程度適齢期になれば結婚もするだろうし、少し無理して家を買ったりして。そのうち親に孫を見せて親孝行をして、賑やかになった正月なんてのも、いいなあと感じる頃が来るんだろう。

そんな風に人生を眺めていた。

が、僕は就職に失敗した。
折しも時代は就職氷河期。
まさか、順調だった自分は適当なところに就職して平々凡々たる人生を歩むのではないのか。と、絶望した。
『就職浪人』という不名誉な肩書きが思わず手に入ったことに動揺した僕は、しばし気を落ち着かせるために自室にこもった。

そんな時。

父親が、死んだ。

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