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少女の夢。

 藤咲美玲は高校2年女子。
幼い頃から両親の勧めで空手、合気道、柔術、柔道など、一通りの格闘技に親しんできた。勉強も学年で一、二を争う才媛だ。
現在柔道部に所属している美玲は身長も170センチに届こうかというほどの長身で、そのルックスは柔道部にしておくには惜しいほどに整っていて優しい性格が滲み出た綺麗な顔をしている。歴代柔道部にはあり得ない事態だったが、彼女のファンクラブまで学内には発足している有様だった。
だが、その戦績は芳しくない。

「もう、美玲は優しすぎるからぁ!」

その日も同い年で幼馴染の星野加奈子に文句を言われていた。
星野加奈子は幼い頃から一緒に柔道の道場に通う仲だ。
星野加奈子がもう今年2年生にしてインターハイを狙えるほどの戦績なのに対して藤咲美玲はまだ一回戦や二回戦で燻っている。

「美玲、本当は私より強いし技術あるはずなんだけどなあ。」

加奈子は皮肉っぽくそう話す。
実際、打ち込みや投げ込みなど型を重視する練習において藤咲美玲の右に出るものはいない。技の正確さや、速度、華麗さは全国レベルと言ってなんら過言ではない。だが、試合や練習になるとそれが出ない。

美玲の優しすぎる性格が災いしているというのは誰の目にも明らかだった。

美玲もそう言われて、へへと笑って返すことで精一杯だった。

「ねえ美玲、なんでいっつも乱取りでも試合でも調子出ないんだろうね。」

加奈子は帰り道で美玲にしんみりそう言った。

「う〜ん。。わかんないけど。。。やっぱり考えすぎちゃうってか。向いてないんだろうなって思うよ。私・・・・。」

藤咲美玲も夕闇の中をトボトボと歩きながらそう言って返す。
それほど強くない柔道部ということもあり、男女混合で練習をしている。
なかにはこの春始めたばかりの一年生男子もいるが、美玲はその白帯の一年生ですら投げることができない。

「だって、投げると痛いじゃん。。」と伏し目がちに語る美玲にはどこか諦めたような虚しい笑顔があった。

「いやいや、そういう競技だよ!」加奈子が思わずツッコミを入れるも、
美玲は「そうなんだよね。わかってるんだけど・・・さ。。。」と言葉がしり切れになる。

「も〜〜歯がゆいなあ!!美玲は!!」竹を割ったような性格で男子相手でもボコボコ投げ飛ばす加奈子は地団駄を踏みながら、実際であれば自分などが敵う相手ではない美玲に向かって歯噛みした。

「ありがと、加奈子くらいだよ。そんなこと言ってくれるのは。。じゃ、私、こっちだから。。」

もうとっぷりと日の暮れた夜。寂しそうに背中をこちらに向けて去っていく美玲を見て加奈子は「なんとかならないものかなあ。。」と独り言を言った。

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