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 明人は友人らと集まって海に面したとある町へ旅行に出かけた。
季節は確か夏が終わる頃だったと思う。あまり人気のある町ではないのか観光客もまばらで、男だけの寂しい夏の終わりを象徴するようなうらぶれた風景がいやに印象的だった。

とある寂れたペンションに泊まる事になった明人たちは部屋に無造作に置かれていた映画のDVDに交じっていた一枚の不気味なディスクを見つけた。

真っ白なままの無地のそのDVDは、簡単なプラケースに入ったまま、少し古い映画のDVDにもたれかかるようにひっそりと佇んでいた。


明人たちは男ばかり六人も連れ立って、その夜きもだめし代わりにその何も書かれていないディスクを再生した。もしかしたらアダルトビデオの類かもしれないぜという下卑た声も聞こえた。

だが、その期待は想像以上に裏切られてしまった。


中身の概要はこうだ。




暗闇が淀んだ空を映すように煌いている。


それは風のざわめきとも、水のせせらぎとも取れる暗闇の淀みであった。

きらりと光った何かが幾つか暗闇の中に散見される。

それが星の光か、水の飛沫かはやはり分らない。



だが明らかに何かが動いている。



しばらくその闇の淀みを眺めていると、不意に暗闇の中に光の細い柱が現れる。



その黄金色に輝く柱は宙に浮かんで、まるでそれ自体がその闇の核であるかのごとく煌き、そしてその小さな光の柱は上端と下端からキリキリと捻じれて、消えた。



また闇の淀みが画面いっぱいに広がっている。





何かの合図を待つこともなく、その闇の淀みは大きな木の映像に切り替わる。




その大きな木にはロープが一つ結わえられている。


あたかも首を吊るために設えられたように結ばれているそのロープが、


細切れにぎごちなく揺れている。背景の空は皮肉なほど青く、平和だ。




後ろの青に気をとられていると、その大きな木とロープが一つの大きな影になってしまっているのに気がつくのも遅れる。




相変わらずコマ送りのような不自然さで揺れる、主を待つ首吊りの木は、次第に葉を枯らし、ボトボトとまるで粘土を枝から垂らしているように葉を散らしていった。







後ろに広がる空はいつの間にか血ほどに赤くなっていた。







そしてほとんど無遠慮に、画面いっぱいに眼が映った。







人の眼だろうか。




それは画面いっぱいに広がっていて、すぐそこからこちらをのぞきこんでいるようだ。


リアリティがあり、怖いほどの眼だった。時折瞬きをするその眼は、画面越しに眼の水分に触れることが出来そうな、至近距離の眼だった。

瞳孔の開いたままのその目は、端を少し充血させて、こちらをじっと見ていた。





明人たちはそれぞれ、その眼と目が合って、何かすごく不吉な気分になったという。
まるでこちら側を認識されたような、突き止められたような。言いようのない不安と焦燥を覚える長いシーンだった。





その大写しになった眼はやがてどんよりと滲んで、白と黒の入り混じったまだらの世界に変わっていった。





そしてそのまだら模様の画面はゆったりと明人達が認識できる日本語の文字に変わっていった。







「三日で1人、六日で2人、九日で3人、十八日で、全員。」









明人たちは手の込んだいたずらだと言う認識を改めざるを得なくなった。

あきらかに、このディスクは明人達を認識している。

三日で1人として、その場にいるのは六人だから、十八日で全員というのは間違えではない。



明人たちは全員が言葉をなくし、いつの間にか再生を終えて淀みのない液晶由来の暗闇が画面を覆っているのに気がついた。





そしてその真っ暗になった画面には、全員の首に細くて白い腕が何重にも巻きついているのが反射して映っていた。




明人たちは一晩を待つことなく、そのペンションから逃げるように帰った。



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