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チャンスの到来。

 どんよりする毎日だ。
この塀の3メートルの高さが隔てる向こうは、およそ月よりも遠い。
青い空はつながっているというのに。
何だって毎日毎日俺たちはこんな薄暗い塀の中で暮らさなきゃいけねえんだ。

まあ、元はと言えば俺が強盗殺人なんてやったのが悪いんだけど。
誰にでもそんなことをしようと考える時があるじゃん?
俺はたまたまそれをそのまま行動に移しちゃっただけで。
それで、死刑が確定しちゃっただけで。

本当に。どんよりとしている。
生きている意味はもうこの期に及んで、ない。
ただ死ぬのを待つばかりの身であるわけだ。

そしてある日。
そんな俺たちに朗報がもたらされた。

「この中から十人を、売り飛ばすことにした。」

刑務官のおっさんがそう言った。朝礼の時のことだ。
「罪の重いものから十人だ。」
というわけで、俺もめでたくその中に入った。
他は、まあ、よく知らないけど。何しろこの刑務所で罪が重たいもの順に『売り飛ばされる』ことになった。

何だよ売り飛ばすって、人を商品みたいに。

そんなことで、何ともあっけなく俺のどんよりとした生活の紹介を終わる。500文字もかからなかったな。

しばらくすると俺たちは、刑務所からバスに乗せられて移動させられた。
どこへいくんだろうね。とワクワクしているのはどうやら俺一人らしい。隣に座っているまだ若い男なんかは震えてさえいる。
「おい。俺たち、今からどこへいくんだ?」
こっそりと聞いた。「外国か?」もしそうだとしたらちょっとやだ。
怪訝に、そう尋ねると彼は「どこって、あんた何にも知らないの?」
とほとんど泣きながら返答した。
「俺たちは・・・とある企業に売られたんだよ。今は使える税金も少なくなってきたから、こうして凶悪犯を売り飛ばして金を得てるんだ。有名な話だよ。そして凶悪犯を買い取って企業が何をするかというと、もう簡単な話さ。『地下格闘技』って、聞いたことある?」
俺は首を横にふった。
「何にも知らないんだな。おめでたいことだよ。」
殴ってやろうかこいつ。
「地下格闘技って、最近大企業が裏でやってるしのぎみたいなもので、ルールなしの金網デスマッチだよ。殴っても蹴っても投げても何しても良いんだ。俺らは、海外からとか国内のもうすごい強い格闘家の相手をそこでさせられるんだよ。つまり、そこには死闘はない。圧倒的に強い片方が、圧倒的に弱い片方をボコボコにするんだ。それを見たいっていう、趣味の悪い金持ちたちがそこに集まるんだよ。何でも最前列のチケットは、1億をくだらないそうだよ。大きなビジネスさ。」

ほおん・・・。

俺は意味不明な音を鼻と喉から吐き出して今聞いた話を必死に理解しようとした。つまり俺たちは、今からその地下格闘技の試合をさせられるってわけ?

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