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団体戦。

とある秋。

長かった夏がやっと終わって、世界が新しい次元に飛び込んでいったような気がする季節だ。息をするのも楽しい、そんな涼しさの中で、それは行われた。


かつて雅章は20名ほどのサークルを作っていた。
学生時代に格闘技に勤しんだ人たちが集まって各々の技術を別のジャンルの人に伝え合う異文化交流格闘技サークル。

空手をやっていた人もいれば、柔道の人もいる。
キックボクシングもいれば柔術もいる。
最初は交流会なんていってワイワイ楽しくやっていたそれも、
実際に動き出してみると次第に熱くなって、
いつしかサークルというには熱を帯びすぎた格闘集団になっていた。
立ち技も寝技も、打投極全てを網羅した格闘の最終形態は自分たちだ、
という行き過ぎた思想にまでたどり着いた。
雅章は少しずつ変容していく自分たちのあり方に気づいてはいたけれど、
やはり学生の頃にその道を目指した人間としては追求することにのめり込んでいくのは仕方のない事だった。

その間に抜けていく者もあった。

気がつけば6人が日々その自分たちで作った新しい格闘技の形に傾倒し、修練に励んだ。世界中どこの誰とやっても負けない自信があった。
本当の総合格闘技という意味を込めて雅章たちは自分たちの格闘技に、
『統道』と名をつけた。

統道に関するホームページも作り、協賛を募ったり新弟子の募集をしたりもしたし自分たちがそこにたどり着いた経緯やその思想などを克明に記した。
もしかすると軌を一にする同士が同じように新しい格闘技の形を目指して発信しているところに繋がれるかもしれない。
日本の中で同時多発的にこういう取り組みが生まれれば、これから先の発展に大いに期待が持てる。

そんなことを期待していた。

そんなある日、ホームページを辿って対外試合の申し込みが送られてきた。
あろうことか送り主は韓国の団体だった。

「あなた方のウェブサイトを見て、とても感銘を受けました。私たちもまだ誰も到達していない格闘技を開発しそれを極めています。よければ私たちと闘ってください。お互いの発展と交流を目指して。私たちはあなた方と戦うために日本へ行く準備があります。会場を手配してください。お返事期待しています。」

簡素な文章だったが、雅章は俄然やる気を出していた。

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