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屈辱的5分間。

 「はじめ!!」

威勢の良い掛け声がかかると、僕はいつも別のゾーンに入るような感覚になる。周りの音が聞こえなくなって、自分の息遣いと相手の気配だけを探るような世界。

茹だる様な暑さでさえ、そうなれば僕には関係がなかった。
いつもそうだ。冬であろうが夏であろうが、集中すればそれはただ僕の世界であり、それは誰にも邪魔されない聖域であった。

今日は練習試合だった。

だけど、それだって試合は試合。殺し合いだ。
僕はその覚悟を携えていつでもやっている。
試合のスタミナを養うために、今日は試合時間を5分とする。
と宣言した監督には申し訳ないがすぐに勝つ。

しかも僕の相手は軽量級の女子だった。
黒帯ではあるが、高校生にもなると女子と男子では力の差は歴然としている。インターハイを視野に入れている僕にとって彼女は相手ではない。
さっさと足払いか何かで転ばせてこの茶番劇みたいな試合を終わらせてやる。

僕はそう考えて、少し低く構えて彼女の襟をとりにいく。
手加減はしない。
僕が襟を取って、耳の下辺りを押さえ、引手を取りに行こうとすると彼女は体落としを仕掛けてくる。僕が右組、彼女は左だから組み手を切ろうとする動きだろう。僕は引き手を切られたがしかし釣り手はしっかりと襟を掴んだままだ。女子の力で切れるような握力はしていない。

が、想定外だったのは彼女のそれがただ単発で引き手を切るだけの動きではなかったことだった。すぐさま彼女は体を内側に振り直して巴投げの形を取る。まるで猫のような俊敏性は一瞬の間隙をつくが、僕は冷静にそれを捌いてそのまま体重を乗せて潰した。真正面からすると蹴り上げられてしまうことも考えて、少し中心から右にずれた箇所から巴投げを外した。

彼女はあどけない顔をしていた。
まだ一年生だというから僕の一つ下だろう。高校の一学年の違いは大きいし、何より男女の差がある。彼女もそれなりに工夫を凝らしているが、やはりそれでも一年生の女子の工夫だ。

右にずれて彼女に覆いかぶさろうとした僕の胴体を彼女の脚が絡んだ。
グッと重たいその絡みに、違和感を覚えたが僕はそれを力で押し切ろうとした。そして不用意に畳に付いていた手を彼女は見逃さない。シュルッ・・・と蛇のように躍動した彼女の脚は一気に腹を飛び越えて頭の近辺に絡みつく。

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