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耐火樹植栽は「難を転じる」リスクヘッジ

寒々とした冬の軒先に赤い光の粒を灯すナンテン。「じて福となす」との語呂あわせから厄災を除く縁起のよい木とされており、日本では古くから正月飾りに用いられ、ヒイラギとあわせ鬼門除けとして庭に植えられることも少なくありません。また、実を煎じて飲めば咳止めになることからのど飴の原料としてもおなじみで、葉には殺菌・防腐作用があるなど、昔から薬木として生活の中で重宝されています。

1属1種という珍しい植物で原産は中国ともいわれますが、日本の山地にも広く自生しています。江戸時代には品種改良が進み、100を越える園芸品種が生み出されたほど。江戸期の百科事典『和漢三才図会 灌木類』の項に「南天を庭に植えれば火災を避けられる」とあり、ひとたび火災が起きれば大火となった近世に「火災除け」として広く植えられていたようです。

防災上有効で火災に強い耐火樹といえば「東京都の木」イチョウがまず思い浮かびますが、アオギリも阪神淡路大震災で火災拡大を食い止めた例として複数報告されているようです。樹木の耐火性は、常緑樹で水分を多く含む葉の厚い植物ほどより大きいと言われており、
カシ類、シイ類等の樹種は燃えにくく、延焼を防ぐ効果があるほか、熱気流や煙の上方拡散を促したり飛火を消火する作用等もあります。逆に油分の多いマツ類や燃えやすいササ、タケ、シュロなどは防火には不向きとのこと。 

都市計画でも
特に、住宅密集地域ではこういった防火性の高い樹木を街路樹や公園の植栽に積極的に利用し、大規模災害に向けて「攻めの緑化」を図ることが望まれます。
自宅の植栽に耐火樹を取り入れるのであれば、隣家の出火場所となりやすい台所との間や、建物の窓近くにツバキやサザンカ、クチナシなどを生垣植栽すれば季節に花を楽しめ、輻射熱による延焼を防ぐのに効果的です。

 Writing / 鈴木里美


参考資料|草木花歳時記・冬(朝日新聞社刊 1999年)|和漢三才図会 巻84(寺島良安 1713年頃)|知っておきたい100の木(田中 潔 主婦の友社刊 2011年)|火災便覧第4版(日本火災学会編 共立出版刊 2018年)|ヒトと森林〜森林の環境調節作用(只木 良也、吉良 竜夫編 共立出版刊 1982年)|街路樹の機能と阪神・淡路大震災(森本幸裕 中村彰宏 佐藤治雄 1996 )


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