見出し画像

新卒で入ったブラック会社で鬱になって8ヶ月で辞めて残業代を請求して労基を確実に動かした話。

数年前のことになる。大学を卒業した時、私は就職先が決まっていなかった。
最初の就職活動のとき、リクルートスーツを着た人たちが街や面接会場などにわんさかといて、途中で胃もたれして就職活動をやめてしまったり、受けた会社を全て落ちたまま、大学を卒業してしまったのだ。

大学を卒業してからの4ヶ月は、アルバイトをして過ごした。
アルバイトといっても、契約上は個人事業主への業務委託だった(契約書類はなし)から、どんなにブラックでも法律上はセーフだった。
あまりにもブラックな仕事だと気づいたのが新卒後4ヶ月経っていたときで、心身ともに疲弊していた。このままじゃいけないと、ハローワークで営業職の求人情報を手に入れ面接を申し込み、2回の面接ののち、人生初の内定をもらった。
当時は就職難の時代、しかも自分のようなポンコツを雇ってくれるとは全く思わず、非常に嬉しかったと記憶している。
就職した会社は創業60年以上の、特殊な業界において老舗で安定した企業だったので、これでずっと心配していた家族にも顔向けができることとなり、晴れて人生初の会社員生活がスタートした。

**

この時私は、この会社がブラック企業だということにまだ気づいていなかった。

面接の際に雇用条件についてこう言われていた。

・業務は営業職である。
・給料は年棒制である。
・年俸なので1年間の総額の給料はあらかじめ決まっていて、年俸の総額を14で割って、1/14は毎月の給料、ボーナスの6月と12月にそれぞれ1ヶ月分の給料と同額のボーナスを与える
残業代は年俸の中に含まれている
・業務時間は朝8時から夕方17時

会社に入って、違和感に気づいたのはすぐだった。
最初の社内会議が19時から始まった。
営業が帰ってくる時間を見越して毎週この時間に設定されてるということなのだが、よく考えてほしい。

定時は17時では、、、、?

他にも社内の雰囲気や指導などに軽く違和感を覚えながらも、やっと就職した会社だったので、慣れないながらもテキパキと働いた。

転機が訪れたのは入社から2ヶ月後のことである。営業部から別の部署の出向が命じられた。
もともとこの会社は、閑散期になると営業部の社員が約半年の間は別の部署で働かされることになっている。面接時には説明を受けていたとはいえ、雇用契約書には書いていない業務内容だった。
私の場合は工場だったのだが、これがマズかった。工場での商品の生産の仕事に全く慣れなかったのである。

どんな仕事をする上でも経験や技術が必要になるのが普通だと思う。
特に生産業の仕事をやっている人ならわかると思うが、機械を使うとはいえなんだかんだいっても人力の作業はある。
会社は本来営業職にもかかわらず、付け焼き刃の技術で工場の仕事をやるよう命じてきたのだ。工場の業務は深夜23時までに及んだ。
工場の仕事にも慣れず、さらにパワハラを受け始めて精神を崩してうつ状態になってしまったが、詳細は本題とは外れるので割愛させていただく。

出向してから4ヶ月、やっと仕事が慣れだした頃に社長に呼び出された。
内容をまとめると以下の通りである。

①工場所属の社員が退職した
②営業部に女性社員2人が入ったから営業部に戻る場所がない
③お前は工場に完全移籍するか、新しい人を工場で雇ってお前は会社を辞めるか、どちらかの選択を一週間で判断してほしい。工場の求人を開始して面接をしている途中だから、早く決断してほしい。

、、、改めて思う。

23歳新入社員には無茶な要求である。

また、元いた部からも、いろいろなパワハラが始まった。
私の責任ではない事に対する始末書を書く指示したり、怒鳴ったり胸ぐらを掴まれたりと、うつ状態の人に対してあまりにも無配慮であった。

今思うと、会社を辞めさせたかったのだろう。

、、、、この会社に私の居場所がない。

そう思って、会社を逃げる覚悟を決めた。

退職日は突然やってきた。
ある日の面談で、社長にこう言われた。

「今日で会社をやめて、あとは有休消化と長期連休をドッキングする」

あまりにも唐突な提案を聞いたとき、耳を疑った。
普通であれば1ヶ月前には退職依頼勧告などをしてから退職の準備にかかるはずであるが、まさかの即日退職依頼。
「今日で会社をやめて」というパワーワードっぷりもなかなかであろう。
どちらにしろさっさとやめるつもりであったため、こちらから会社都合退職にしてほしいとお願いして、その日の夕方に会社をやめることができた。えらくあっさりしていて拍子抜けした。
会社都合退職については後述する。

退職してからも会社とのやり取りは続く。ハローワークで提出する書類(離職票)などが会社から届くからだ。
雇用保険、健康保険や年金などの事務手続きが退職後1ヶ月もかかり、会社との事務やり取りを終えた。

会社を辞める直前、こんな本を読んでいた。

小林リズムさんの「どこにでもいる普通の女子大生が新卒入社した会社で地獄を見てたった8日で辞めた話 (リンダブックス) 」

この本の内容を端的にネタバレをする、パワハラを受けて辞めたというだけのエッセイである。
しかし、ブラック企業に対して負け戦で搾り取られるだけで負けたくないと思っていた私は、準備に取り掛かることにした。

実は、退職前から出社退社の時間の記録をつけており、入社からの労働時間を書いたタイムカードをPDFに書き出し私物のUSBメモリにコピーを取っていた。また、社内での業務指示書、労働契約書、給料明細を全て揃えていた。
さらに念の為、社長や上司との面談のやり取りを全て録音しておいた。

たくさんの証拠を持ち込み颯爽と駆け込んだのは、労働基準監督署。
そもそも会社との雇用契約自体が、合法か違法かを判断してもらった。

・給料は年棒制である。残業代は年俸の中に含まれている。
→労働基準法としてアウト
年棒制で残業代を込みにするのであれば、残業する時間を明記しなければならない。
そして、残業代とは、基本給とは「別に」残業手当という形で出さないといけないので、基本給の中に残業代を含まれているというのは駄目。
また、残業代は基本給と定時から計算した時給から25%アップの時給で計算しないといけない。

また、無尽蔵に残業代無しで残業させていいわけではなく、そもそも時給換算すると最低賃金を下回っていた

・ボーナスは年俸に込み
→残業代の計算の基礎から外してもよいボーナスとは、「支給額があらかじめ確定されていないもの」であり「支給額が確定しているものはボーナスとはみなされない」。つまり、法律上はボーナスではない。

・36協定(労働基準法第36条)「労働者は法定労働時間(1日8時間週40時間)を超えて労働させる場合や休日労働をさせる場合には、あらかじめ労働組合と使用者で書面による協定を締結しなければならない。また労働基準監督署に書類を提出しなければならない」
→一切なかった

というわけで、私が働いていたのは労働基準法的には違法の、きちんとブラック企業であった。
残業代無しというのが違法なので、そもそも雇用契約の拘束力は0だった。

しかしながら、労働基準監督署は激務である。また人材も不足していることから、大抵の場合ここまでの証拠や通報があってもすぐに動くことができない。
労働者の誰もが勘違いしやすいポイントなのだが、労働基準監督署は、労働者を救うところではなく、労働基準法を取り締まる役所である。
逆に言うと、自分で請求してみて支払いがされなかったという明確な証拠がある場合は、確実に動いてくれるのである。

というわけで、ここからが本番である。
労基法に基づいて会社に勝負を仕掛けた。残業代の請求である。

詳しい計算方法はここでは省略するが、
・1日8時間以上、週40時間以上の業務に関しては時給換算25%アップの時給で計算
・深夜22時を超えた業務は深夜手当として、さらに全て25%アップとして計算
・休みの日の業務(土日とは限らない、週6日目以降の業務)は、その日の業務を全て残業扱いとして25%アップの金額で計算。
・年棒制という給料体系は、1年間の金額が決まってるから「ボーナス(賞与)として扱わない」=本来もらえるはずの規定の金額、という 部分にも目をつけた。
会社が設定している基本給(年俸の1/14)ではなく、年棒から所定労働時間で時給を割り出し、それをベースの時給として計算した。

以上、あくまで労基法に則った請求書を作成し、社長宛の請求書を会社に郵送した。
(よく、内容証明郵便で発送すると郵便局に内容が残って確実という話は有名だと思うが、私は書留で発送した)
この時1番大事なのが「何月何日までに支払いをしてください」と請求書に記述しておくことである。支払いの意志の有無の確認のために必要な1文であり、これがないと日時が出せないので注意。

請求書を提出したあと、携帯の電波も殆ど届かない、週に船が1往復しかこない離島に一週間ほどリフレッシュしに行った。会社から連絡が来る心配もなかった。
家に帰ってきたところ、会社から手紙が届いていた。

「残業代請求に計算がかかるため、支払期日までに計算ができない。振込はしばらく待ってほしい。」

振込期限まで1週間の猶予与えたのにこの体たらく、どこまでもずさんな会社である。
その手紙を持って労働基準監督署に3度目の相談に行ったところ、強い口調で言われた。

「手紙の内容に、会社としての支払予定日を書いてないから、賃金未払いの重要な証拠。行政指導入れます。」

win.

労基署の行政指導には、いくつかパターンが有る。
経営者か責任者を労働基準監督署に呼び出す場合と、
予告して会社に立ち入り調査する場合、
予告せず立ち入り調査する場合、
今回の場合、事務の一番偉い人が労基署に呼び出され是正勧告書を渡されたようだ。
そして、私が請求してた残業代はきちんと計算された上で全額が支給されることとなった。

こうして、私は前の会社から残業代を勝ち取ることができた。うつ状態の中ここまでよくできたと自分でも思っている。
労働基準法以外にも調べた。雇用保険(失業保険)である。
今回の場合、会社の都合で退職を依頼されているので、会社都合退職である。

実は、会社都合退職と自己都合退職とで、失業保険の金額が全く違う。
自己都合退職の場合、退職後3ヶ月後から失業保険が少額支給されるのに対し、
会社都合退職の場合、退職後すぐに失業保険が支給され始め、しかも自己都合より金額が多い。
また次の会社が決まっていなければ2ヶ月間保険が延長されるという制度が当時はあったため、大きな差が出てくる。
更にいうとそれまでの給料に応じた保険料が支給されるため、今回の場合会社都合退職での失業保険が出ている上で、後から残業代が支給されたため、失業保険その分金額を上げることとなった。

また、会社を辞める前に、会社員という信用情報があるうちに、複数のブランドのクレジットカードを作ったり持っていたカードの限度額を上げた。
あらかじめ、いつでも会社をやめても困らない準備をしていたのだ。

数年前に、東大卒で電通の新入社員、高橋まつりさんが長時間労働による過労自殺したことがきっかけとなり、世の中は働き方改革をかかげてきちんと休んで仕事をするような世間の風潮になってきたとおもう。
それでも、地方だったり家族経営だったり中小企業だったりして、労務環境が最悪な職場は世の中にまだたくさん残っている。
私は労働組合のユニオンであったりなどを頼らず、ひとりで力強く生きていくために努力したが、誰もが徹底的に戦えるとは思っていない。心情的にも、お世話になった会社を裏切るような真似はしたくないと思う人のほうが大多数だろう(最初は私もその1人だった)。

それでも、日本に生きる限り「健康的で文化的な最低限度の生活」が憲法で規定されているのだから、ブラック会社に遠慮はいらない。
正常で有能な人間が搾取されて潰されて死ぬなどと、命を無駄にしてほしくない。
せっかくの人生だ。死ぬまで生きれる。

古いブロガーの有名なブログの煽りタイトルではないけれど、全ての労働者に伝えようではないか。

「まだブラック会社で消耗してるの?」

この記事が参加している募集

転職体験記

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?