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500位-451位を振り返る:ローリングストーン誌が選ぶ「歴代最高のアルバム」500選(2020年版)

  このnoteでは2020年に、2003年版、2012年版に続き8年ぶりに改訂されたローリングストーン誌が選ぶ「歴代最高のアルバム」500選本家サイトに載っているアルバム解説文の日本語翻訳をしています。

2020年10月22日に、500位のArcade Fire 『Funeral』の翻訳から始めたこちらの企画ですが、先日12月26日に451位のRoberta Flack 『First Take』までの最初の50枚を終えたので、このタイミングで500位-451位の振り返りをしてみたいと思います。

まず、500位-451位のリストは以下です。

500. Arcade Fire - Funeral - 2004
499. Rufus - Chaka Khan - Ask Rufus - 1977
498. Suicide - Suicide - 1977
497. Various Artists - The Indestructible Beat of Soweto - 1985
496. Shakira - Dónde Están los Ladrones - 1998
495. Boyz II Men - II - 1991
494. The Ronettes - Presenting the Fabulous Ronettes - 1964
493. Marvin Gaye - Here - My Dear - 1978
492. Bonnie Raitt - Nick of Time - 1989
491. Harry Styles - Fine Line - 2019
490. Linda Ronstadt - Heart Like a Wheel - 1975
489. Phil Spector and Various Artists - Back to Mono (1958-1969) - 1991
488. The Stooges - The Stooges - 1969
487. Black Flag - Damaged - 1981
486. John Mayer - Continuum - 2006
485. Richard and Linda Thompson - I Want to See the Bright Lights Tonight - 1974
484. Lady Gaga - Born This Way - 2011
483. Muddy Waters - The Anthology - 2001
482. The Pharcyde - Bizarre Ride II the Pharcyde - 1992
481. Belle and Sebastian - If Youre Feeling Sinister - 1996
480. Miranda Lambert - The Weight of These Wings - 2016
479. Selena - Amor Prohibido - 1994
478. The Kinks - Something Else by the Kinks - 1968
477. Howlin Wolf - Moanin in the Moonlight - 1959
476. Sparks - Kimono My House - 1974
475. Sheryl Crow - Sheryl Crow - 1996
474. Big Star - #1 Record - 1972
473. Daddy Yankee - Barrio Fino - 2004
472. SZA - Ctrl - 2017
471. Jefferson Airplane - Surrealistic Pillow - 1967
470. Juvenile - 400 Degreez - 1998
469. Manu Chao - Clandestino - 1998
468. The Rolling Stones - Some Girls - 1978
467. Maxwell - BLACKsummersnight - 2009
466. The Beach Boys - The Beach Boys Today! - 1965
465. King Sunny Adé - The Best of the Classic Years - 2003
464. The Isley Brothers - 3 + 3 - 1973
463. Laura Nyro - Eli & the 13th Confession - 1968
462. The Flying Burrito Brothers - The Gilded Palace of Sin - 1969
461. Bon Iver - For Emma - 2008
460. Lorde - Melodrama - 2017
459. Kid Cudi - Man on the Moon: The End of the Day - 2009
458. Jason Isbell - Southeastern - 2013
457. Sinéad OConnor - I Do Not Want What I Havent Got - 1990
456. Al Green - Greatest Hits - 1975
455. Bo Diddley - Bo Diddley/Go Bo Diddley - 1958
454. Can - Ege Bamyasi - 1972
453. Nine Inch Nails - Pretty Hate Machine - 1989
452. Diana Ross and the Supremes - Anthology - 1974
451. Roberta Flack - First Take - 1969

それでは、500位-451位の50枚についていくつかの角度から整理してみます。


<年代ごと>

まず、リリース年代ごとで見てみると以下になります。

☆アルバムのリリース年代分布
1950年代:2枚
1960年代:8枚
1970年代:11枚
1980年代:5枚
1990年代:8枚
2000年代:7枚
2010年代:6枚


ベスト盤などの編集盤のうち、収録曲の年代の幅が複数に跨るものが3枚あったので、上とは別で下記に書いておきます。
1940-70年代:Muddy Waters 『The Anthology:1947-1972』
1950-60年代:Phil Spector and Various Artists 『Back to Mono』
1960-70年代King Sunny Adé  『ほThe Best of the Classic Years』

リリース年代の分布を見てみると、70年代以前(50~70年代)と80年代以降(80~2010年代)の作品数が大体半々、25枚ずつになっています。年代間のバランスは均等に近くなるよう配慮されている印象を受けますが、作品数が最も多い70年代(11枚)と最も少ない80年代(5枚)で結構差が開いているのは意外です。70年代=ロックの時代、80年代=ポップの時代と単純化して考えた時に、アルバムというフォーマットとの相性の良さで70年代ロックが評価されやすいことは一因だと思いますし、またロックの中でも80年代のハードロックやメタルが批評的に軽視されているのも要因としてあるのかなと思います。また2010年代のアルバムがしっかり6枚もリストに入ってきてるのは驚きました。この辺りの評価はまだ定まっていない筈なので、後の時代から振り返ってどんどん顔ぶれは変わってくるでしょう。

ちなみに、リリース年が最も古いアルバムは1958年のBo Diddley『 Bo Diddley/Go Bo Diddley』、最も新しいアルバムは2019年のHarry Styles『Fine Line』になっています。


<初登場アルバム>

次に、このリストに初登場(=初めてランクインした)のアルバムを見てみます。今回8年ぶりに改訂されたこのリストですが、前回の2012年版と前々回の2003年版ではそれほど大きな変更はありませんでしたので、2012年版リストとの比較をしていきます。

結果、50枚中31枚が初登場のアルバムでした。年代ごとにまとめると以下のようになります。

☆「名盤500枚」初登場アルバム31枚の年代ごと内訳
1950年代:0枚
1960年代:3枚
(The Ronettes、Laura Nyro、Roberta Flack)
1970年代:6枚( Rufus & Chaka Khan、Linda Ronstadt、Sparks、The Isley Brothers、Can、King Sunny Adé)
1980年代:1枚(Nine Inch Nails)
1990年代:8枚(Shakira、Boyz II Men、Belle and Sebastian、Selena、Sheryl Crow、Juvenile、Manu Chao、Sinéad OConnor)
2000年代:7枚(Arcade Fire、John Mayer、The Pharcyde、Daddy Yankee、Maxwell、Bon Iver、 Kid Cudi)
2010年代:6枚(Harry Styles、Lady Gaga、Miranda Lambert、SZA、Lorde、Jason Isbell)

60年代の初登場組がいずれも女性アーティストであることや、80年代の初登場がほぼ90年代に差し掛かっているNine Inch Nailsの89年のデビューアルバムのみで、「80年代の名盤」のアップデートが見られていないことは興味深いです。また、90年代の初登場アルバムは半分以上が北米以外(Shakira:コロンビア、Selena:メキシコ、Belle and Sebastian:スコットランド、Sinéad OConnor:アイルランド、Manu Chao:フランス)にルーツを持つアーティストになっているのも注目すべき点なような気がします。でも、まだアジアのアーティストによる作品は入っていませんね。ただこれは近年の日本のシティポップやニューエイジの再評価や、K-Popのメインストリームでの人気などを経て次回の改訂版ではまた変わってくるような気がします。


<大きく評価を落としたアルバム>

では、2012年版のリストから継続して500位内にランクインしているのの、前回から評価(順位)を大きく落としていたアルバムについても見てみたいと思います。

☆評価(順位)を大きく落とした5枚
1. Muddy Waters 『The Anthology』(2001)【-445pt】
38位(2012年版)→483位(2020年版)
2. Phil Spector and Various Artists『Back to Mono』(1991)【-424pt】
65位(2012年版)→489位(2020年版)
3. Al Green 『Greatest Hits』(1975 )【-404pt】
52位(2012年版)→456位(2020年版)
4. Jefferson Airplane 『Surrealistic Pillow』(1967)【-325pt】
146位(2012年版)→471位(2020年版)
5. Howlin Wolf 『Moanin in the Moonlight』(1959)【-323pt】
154位(2012年版)→477位(2020年版)

マディー・ウォーターズやハウリン・ウルフといったブルースの巨匠の評価が大きく下がっているのはメモしておきたいです。今回の2020年の改訂によって全体的にアフリカ系アメリカ人による作品への評価が上昇する傾向にある中、あらゆるポップミュージックの源流でもあるブルースへの評価については厳しくなっているというのはどういう現象なのでしょう。やはりブルースにおけるミソジニー表現がネックになっているのか。
フィル・スペクターやアル・グリーン、ジェファーソン・エアプレインの評価の下降についても理由が気になります。この辺りについては50位以降の様子を見ながら、考えていきたいと思います。


<女性アーティスト>

2020年版の改訂は、やはり2003年版、2012年版のリストでは見逃されていた女性アーティストの功績を正しく捉え直そうとしていることも特徴だと思います。女性アーティストによる作品について整理してみます。50作品中、女性アーティストによる作品は15作品男女混合アーティストによる作品は4作品でした。

☆女性アーティストによる作品(15作品) 
451. Roberta Flack - First Take - 1969
452. Diana Ross and the Supremes - Anthology - 1974
457. Sinéad OConnor - I Do Not Want What I Havent Got - 1990
460. Lorde - Melodrama - 2017
463. Laura Nyro - Eli & the 13th Confession - 1968
472. SZA - Ctrl - 2017
475. Sheryl Crow - Sheryl Crow - 1996
479. Selena - Amor Prohibido - 1994
480. Miranda Lambert - The Weight of These Wings - 2016
484. Lady Gaga - Born This Way - 2011
490. Linda Ronstadt - Heart Like a Wheel - 1975
492. Bonnie Raitt - Nick of Time - 1989
494. The Ronettes - Presenting the Fabulous Ronettes - 1964
496. Shakira - Dónde Están los Ladrones - 1998
499. Rufus - Chaka Khan - Ask Rufus - 1977


☆男女混合アーティストによる作品(4作品)
471. Jefferson Airplane - Surrealistic Pillow - 1967
481. Belle and Sebastian - If Youre Feeling Sinister - 1996
485. Richard and Linda Thompson - I Want to See the Bright Lights Tonight - 1974
500. Arcade Fire - Funeral - 2004

500-451位の50枚においては大体30%が女性アーティストによる作品、10%が男女混合アーティストによる作品、60%が男性アーティストによる作品という計算になっています。


<国ごと>

次に、50枚のアルバムがどの国のアーティスによるものかについてもまとめてみます。

☆アメリカ合衆国(36作品)
451. Roberta Flack - First Take - 1969
452. Diana Ross and the Supremes - Anthology - 1974
453. Nine Inch Nails - Pretty Hate Machine - 1989
455. Bo Diddley - Bo Diddley/Go Bo Diddley - 1958
456. Al Green - Greatest Hits - 1975
458. Jason Isbell - Southeastern - 2013
459. Kid Cudi - Man on the Moon: The End of the Day - 2009
461. Bon Iver - For Emma - 2008
462. The Flying Burrito Brothers - The Gilded Palace of Sin - 1969
463. Laura Nyro - Eli & the 13th Confession - 1968
464. The Isley Brothers - 3 + 3 - 1973
466. The Beach Boys - The Beach Boys Today! - 1965
467. Maxwell - BLACKsummersnight - 2009
470. Juvenile - 400 Degreez - 1998
471. Jefferson Airplane - Surrealistic Pillow - 1967
472. SZA - Ctrl - 2017
474. Big Star - #1 Record - 1972
475. Sheryl Crow - Sheryl Crow - 1996
476. Sparks - Kimono My House - 1974
477. Howlin Wolf - Moanin in the Moonlight - 1959
479. Selena - Amor Prohibido - 1994
480. Miranda Lambert - The Weight of These Wings - 2016
482. The Pharcyde - Bizarre Ride II the Pharcyde - 1992
483. Muddy Waters - The Anthology - 2001
484. Lady Gaga - Born This Way - 2011
486. John Mayer - Continuum - 2006
487. Black Flag - Damaged - 1981
488. The Stooges - The Stooges - 1969
489. Phil Spector and Various Artists - Back to Mono (1958-1969) - 1991
490. Linda Ronstadt - Heart Like a Wheel - 1975
492. Bonnie Raitt - Nick of Time - 1989
493. Marvin Gaye - Here - My Dear - 1978
494. The Ronettes - Presenting the Fabulous Ronettes - 1964
495. Boyz II Men - II - 1991
498. Suicide - Suicide - 1977
499. Rufus - Chaka Khan - Ask Rufus - 1977

☆イギリス(5作品)
468. The Rolling Stones - Some Girls - 1978
478. The Kinks - Something Else by the Kinks - 1968
481. Belle and Sebastian - If Youre Feeling Sinister - 1996
485. Richard and Linda Thompson - I Want to See the Bright Lights Tonight - 1974
491. Harry Styles - Fine Line - 2019

☆その他の地域(9作品)
【カナダ】
500. Arcade Fire - Funeral - 2004
【プエルトリコ】
473. Daddy Yankee - Barrio Fino - 2004
【コロンビア】
496. Shakira - Dónde Están los Ladrones - 1998
【ドイツ】
454. Can - Ege Bamyasi - 1972 
【フランス】
469. Manu Chao - Clandestino - 1998
【アイルランド】
457. Sinéad OConnor - I Do Not Want What I Havent Got - 1990
【ニュージーランド】
460. Lorde - Melodrama - 2017
【ナイジェリア】
465. King Sunny Adé - The Best of the Classic Years - 2003
【南アフリカ】
497. Various Artists - The Indestructible Beat of Soweto - 1985

やはり米メディアによるランキングのため、約70%がアメリカ人アーティストによる作品になっていますね。アメリカ人の人種で見てみると、黒人アーティストによる作品は36作品のうち14作品、メキシコ系アメリカ人のアーティストによる作品が1作品(Selena)、その他が白人アーティストによるものになっています。イギリス人アーティストによる作品が5枚だけだったのは意外でした。日本で見かけるリストだともっとブリティッシュロックが多かったりするので、やはり日本人はイギリス贔屓なのだなと改めて思います。その他の地域ではカナダ出身アーティストによる作品が1枚、南米が2、ヨーロッパが3、オセアニアが1、アフリカが2となっています。


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以上、500-451位の50枚のアルバムについて客観的に整理できる情報をいくつかまとめてみました。年代ごとのバランスが結構意識されてることや、女性アーティストや黒人アーティストの比率への配慮、北米以外のアーティストを評価していく姿勢など、結構見えてくるものがあったと思います。
もっと主観的な内容、例えば個人的に好きになった/発見があったアルバムなどについても書いておきたいと思いつつも、今回は長くなったのでひとまずここまでにしておきます。今後450位以降を聴いていくにあたり「ブルースの評価は本当に下がっているのか」や「80年代の"名盤"はどうアップデートされているか」「アメリカで評価されるイギリス音楽」など、いくつか関心をもつテーマも得られたので、これらについても考えていきたいと思います。

ここまでお付き合いいただきありがとうございます。450位以降も引き続きチェックよろしくお願いします。

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