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南アフリカが教えてくれる「特権階級者が差別・貧困問題を解決できない理由」

南アフリカ共和国の現状


南アフリカ共和国は、アフリカ諸国で経済発展が進んでいる国のベスト3に確実にランクインする国です。
金融、法的、通信、エネルギー、交通インフラが非常に発達しています。
多様な産業と比較的高い一人当たりのGDPを持っており、アフリカで最も発展した国の一つです。

GDP:4,199億米ドル(2021年:世銀)=アフリカ大陸内ベスト3
一人当たりGNI:6,440米ドル(2021年:世銀)=アフリカ大陸内ベスト5
経済成長率:4.9%(2021年:世銀)
物価上昇率:4.6%(2021年:世銀)
失業率:33.6%(2021年:世銀)

しかし一方で、南アフリカ共和国は貧富の差が激しい国です。
これは、約0.67という非常に高いジニ係数によって反映されています。

「ジニ係数」
ある国や地域における所得または富の分配の不平等さを測定するために使用される統計的指標。この係数は、0から1までの値を取り、値が低いほど所得分配が平等であることを示し、値が高いほど不平等であることを示します。ジニ係数は、所得格差や社会的不平等を分析する上で重要なツールですが、この指標には限界もあります。例えば、貧困の深刻さや国民の全体的な生活水準を反映していない、または異なる国や地域間での所得水準の違いを考慮していない点などです。それにもかかわらず、ジニ係数は国際的に広く認められた不平等測定の標準的な方法の一つです。

所得と富の分配の上位に顕著な集中

  1. 上位10%が総富の86%を所有し、上位0.1%が約3分の1を所有

  2. 人口の上位0.01%(約3,500人)が家計純資産の15%を集中しており、これは下位90%全体よりも多い

  3. 典型的な黒人家庭は、典型的な白人家庭が保有する富の5%未満を保有

この所得と富の分配のパターンは、アパルトヘイト後も持続していて、場合によっては悪化しています。

まずは、南アフリカ共和国の発展事例を見てみましょう。

ソーラーエネルギー革新

「Kathu Solar Park」

「Kathu Solar Park」プロジェクトは、南アフリカの再生可能エネルギー計画の一環として開発されました。
南アフリカ北ケープ州に位置する集光型太陽光発電(CSP)プロジェクトで、約100MWの発電能力を持ち、およそ18万世帯の電力需要を賄うことが可能です。

集光型太陽光発電(CSP)は、太陽エネルギーを熱として蓄積できるため、日照がない時間帯や曇天時でも電力供給が可能です。

「Kathu Solar Park」は、南アフリカが直面するエネルギー課題への対応策としてだけでなく、世界的な気候変動対策においても模範となるプロジェクトです。

ヘルスケアイノベーション

「MomConnect」

南アフリカ国立保健省によって2014年に立ち上げられた革新的なプログラムです。このプロジェクトは、モバイル技術を活用して妊娠中の女性と新しい母親に重要な健康情報を提供し、妊娠期間を通じて、登録した女性は自分の妊娠週に応じたカスタマイズされた健康情報やアドバイスを受け取れます。

例えば、予防接種や健康診断のスケジュールに関するリマインダーが送られ、医療サービスに関するフィードバックも提供します。
SMSベースのサービスであるため、スマートフォンを持たない女性でも利用でき、広範な地域にわたって情報とサポートを提供することが可能です。

MomConnectの成功は、他の発展途上国における類似のヘルスケア・イニシアチブのモデルとなっており、モバイル技術を活用した公衆衛生介入の有効性を示す事例として国際的にも注目されています。


教育技術の進展

「GetSmarter」

「GetSmarter」は、南アフリカのケープタウンに本拠を置き、オンライン教育プラットフォームを運営する企業です。
主に短期間で完了するオンラインコースを提供して、ビジネス管理、マーケティング、ファイナンス、法律、デザイン、テクノロジーなど、多様な分野のコースを提供して、専門知識の向上や新しいスキルの習得を目指す個人に適しています。

MIT、ハーバード大学、オックスフォード大学、ケンブリッジ大学など、世界的に有名な大学との強力な提携関係を築いていて、学習者は最先端の知識と実践スキルを身につけることができます。

2017年に、米国の大手オンライン教育企業である「2U, Inc.」によって買収された後も、「GetSmarter」はそのミッションを継続し、世界中の個人に対して価値ある学習機会を提供し続けています。


フィンテックの革命

「Yoco」

「Yoco」は、南アフリカにおける急成長を遂げているフィンテック企業で、特に小規模事業者を対象にした決済ソリューションを提供しています。
銀行口座を持たない事業者や、従来の銀行サービスにアクセスできない地域の事業者に対しても、決済ソリューションを提供することで、金融包摂を促進していて、小規模事業者が市場での競争力を高めるのを助けています。

カードリーダー
「Yoco」のカードリーダーはを提供しており、Bluetoothを介してモバイルデバイスと接続され、店舗内だけでなく屋外のマーケットやイベントなど、どこでも簡単に決済を行うことが可能です。

モバイルアプリ
Yocoのモバイルアプリは、決済処理だけでなく、売上の追跡、取引履歴の管理、財務レポートの生成など、ビジネス運営に必要な様々な機能を備えています。

デジタル決済の普及が進む中、Yocoのようなプラットフォームは、アフリカ全体での経済発展と金融包摂の促進に重要な役割を果たすことが期待されています。


スマートシティイニシアチブ

南アフリカ政府は、ヨハネスブルグをアフリカの最初の「スマートシティ」として発展させる野心的な計画を推進しています。

市民全体が高速インターネットにアクセスできるようにすることで、デジタル格差を解消し、教育、ビジネス、ヘルスケアなどの分野での機会を拡大します。公共のWi-Fiホットスポットの設置、ファイバーオプティックケーブルの拡張、5G技術の導入などを通じて、都市全体での高速インターネット接続を促進します。

スマート交通管理システムの導入、電気バスの投入、公共交通アプリの開発などにより、公共交通の利用促進と最適化を図ります。

グリーンビルディングの推進、太陽光発電や風力発電の導入、雨水回収システムや廃棄物リサイクルの促進などを通じて、都市の持続可能性を高めます。

ヨハネスブルグが成功すれば、これを範とする他のアフリカ都市のスマートシティ化に向けた動きが加速する可能性があります。


南アフリカの高いレベルでの不平等の要因


マイノリティ側が被る『差別』の裏には必ずマジョリティの『特権』があります。

『特権』:マジョリティ性を多く持つ社会集団にいることで【労なくして】得ることのできる優位性。努力の成果ではなく、たまたま生まれた社会集団に属することで、自動的に受けられる恩恵のこと。

『特権』を持っているマジョリティには気がつきにくいのですが、『特権』を持っていないマイノリティには『特権』の凄さがハッキリ感じられます。

自動ドアは、人がその前に立つとセンサーが検知して開くが、社会ではマジョリティに対してドアが開きやすいしくみになっており、マイノリティに対しては自動ドアが開かないことも多い。マイノリティはドアが開かずに立ちはだかるため、ドアの存在を認識できるし、実際認識している。
しかし、マジョリティ側はあまりにも自然に常に自動ドアが開いてくれるので、自動ドアの存在すら見えなくなってしまう。特権をたくさんもっていても、その存在に気づきにくいため、マジョリティ側は自分に特権があるとは思っておらず、こうした状況が「当たり前」「ふつう」だと思って生きているのである。

上智大学 外国語学部 英語学科 教授:出口 真紀子


【構造的に差別を受けないですむ人】に対して、「差別はいけません」と『個人の心の持ち方を変えること』を求めたところで【構造的な『差別』】を撤廃する行動に移さないでしょう。

それは【差別を受けている人】のため手助けすることは【差別を受けないですむ人】にとっての不利益にしかならないからです。


皮肉にも「差別撤廃」や「博愛精神」が強調される社会・集団ほど「差別的な考え方」を持つ人が増加する傾向にあるそうです。

そんな社会・組織・集団の共通項は?

  • 権威主義的な人(権威主義に縋りつく人)の【パーソナリティ要因】

  • その他一般的な人にとっての【社会状況や文化といった環境要因】


南アフリカの平等裁判所は、『キル・ザ・ボーア』の歌がヘイトスピーチや扇動には当たらないとの判決を下した。
この歌は言論の自由によって保護されており、歌詞の「撃ち殺せ、ボーア人を殺せ、農民を殺せ」は文字どおりに受け取られることを意図したものではないと裁判所は述べていた。


対人間・集団に紛争は頻繁に発生して、時には深刻な問題になり、紛争解決の主要原理として『公正』であるということが挙げられますが、
『差別』『偏見』の解決策として『公正動機』だけでは、解決に導けない複雑で難しい課題が多すぎます。


1971年6月28日
イーロン・マスクは、南アフリカ人の父エロールとカナダ人の母メイのもと、南アフリカ共和国の首都プレトリアで生まれました。
マスクが9歳の時に両親は離婚。
マスクは父のもとに身をよせて、1989年まで南アフリカ共和国で過ごしました。

イーロン・マスクは、『学校での激しいいじめ』『厳格な父親との確執』については言及するものの、アパルトヘイト下の南アフリカで、白人として過ごした少年時代の経験などについては多くを語っていません。

同じ高校に通っていた学友テレンス・ベニーは次のように語っている。

「それ(語らないこと)自体が物語っている。白人の子供たちは厳しい現実と無縁でいられたから」

個人的な推論ですが
イーロン・マスクの言動から感じられる「社会的な抑圧や統制への嫌悪感」「言論の自由」は、少年時代の体験が影響を及ぼしていると考えます。


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