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「自動化」の前にやるべきこと

こんにちは、BYARDの武内です。
イーロン・マスク』読了しました。

イーロン・マスク本人のチェックは一切入っていないということで、ウォルター・アイザックソンの視点からテスラ、スペースX、Twitterなどでのシュラバ(本書ではあえてカタカナ記載)がしっかりと描写されており、イーロン・マスクの悪魔モード時の暴君ぶりはすさまじいものがあります。

私たち凡人には全く想像することもできないような視座を持っているので、共感はできませんし、全く一緒に働きたいとは思えませんが、テスラやスペースXが成し遂げた成果を考えると、こういう人がいることで文明は進化していくのかもしれません。

今回のnoteは自動化に取り組む際の手順についてです。『イーロン・マスク』の中でも、テスラの工場の自動化についての言及もあったので、そこも引用しながら私の考えを書いていきます。


1.いきなり自動化はできない

(1)業務は結構複雑

人間がやっている多くの業務は単純で簡単に周囲からは見えたとしても、(やっている本人もほぼ無意識に)結構複雑な判断をしたり、複数の情報を組み合わせたりして処理をしているものです。

もう少しかみ砕いて言うならば、処理(作業)そのものは簡単であったとしても、その手前の判断や準備などはかなり複雑なことをしている、ということです。

周囲から見えているのは、処理(作業)の部分です。そこだけを見て「あの業務は簡単だから誰でもできるだろう」などと考えて、経験が浅い担当者に替わった途端にトラブルが頻発するという事例は枚挙に暇がありません。

RPA(Robotic Process Automation)が一時期盛り上がりましたが、ソフトウェアロボットが処理できるのは画面上の処理(作業)だけであることは説明するまでもありません。「CSVをダウンロードして、スプレッドシートに貼り付ける」というような作業を担ってもらう、以上のことはできません。

単純作業の処理スピードや正確さでは人間はシステムには全く歯が立ちません。しかし、それらはきちんとお膳立てがされている特定の条件下におけるものに限られます。環境や前提条件が(ほんの少しだけ)変わってしまったことを判断して、処理を変えるという人間であれば難しくないことが、システムではほぼ不可能なのです。

業務とは処理(作業)するだけではありません。判断し、調整し、処理をするという一連の流れを人間がほぼ無意識にできるぐらいの内容であっても、あらゆるパターンを網羅しようとするとプログラムが途端に複雑になってしまうのです。完璧に動作させたり、エラーを修正するためのコストを考えると、費用対効果の点でも「システムが代替できるのは業務のほんの一部」というのが現実解です。

なお、ファースフードやコンビニなどのマニュアルは、それらの判断するポイントを極力排除し、環境変数も最小限になるように調整した上で「誰でもできるマニュアル」として提供されています。

そういう調整ができない多くのホワイトカラーの業務について、「誰でもできるマニュアル」の作成は不可能であり、マニュアルの行間を担当者の知識や経験、スキルが埋めているのです。同じ「マニュアル」という名称でも中身はまるで別物であり、ここに「マニュアルが更新されない」「マニュアルがあっても業務ができない」要因があります。

(2)まずは業務の構造化から

RPA、AI、DX・・・これらのバズワードとセットで紹介される各種ITツールが見せる未来には、現状の業務がカオスな人ほど心引かれるようです。しかし、現時点でのテクノロジーが代替できる業務範囲は非常に狭く、かつ、勝手にITツールが業務の定義書を構築してくれるわけでもありません。

テクノロジーを活用して業務を効率化したいのであれば、まずやるべきは現状の業務を整理し、構造化した上で、テクノロジーを活用できる形に業務プロセス全体を最適化していくことです。ITツールの選択や導入は最後です。ITツールの営業担当者がどんなに「大丈夫です!」と言ったとしても、やるのは導入する会社自身であり、その覚悟や準備ができないのであれば、どんなに世間で優秀だと言われているツールであっても、効果はでません。

アメトークの人気コーナー「家電芸人」で、宮迫博之さんが家電を見にいった際に店員さんから「(洗濯機を)置くスペースはどれぐらいですか?」と聞かれて「そうですね〜、これぐらい(両手で幅を示す)ですかね〜」と言っていたVTRを見た家電芸人たちから「有り得ない!」と怒られているシーンがありました。(かなり前の「家電芸人」でのワンシーンです。古くてすいません・・・)

「どの洗濯機がいいか」を考える前に、自宅の洗濯機を置く場所のスペースや入口のドアの幅などをきちんと確認しておくのが当然であり、置けもしない洗濯機を買うかどうか悩むのも時間の無駄です。

業務も同じことなのです。感覚値ですが、多くの企業できちんとした業務の手順書やマニュアルが用意されない状態であり、用意されていてもその手順書やマニュアルが実態と乖離している(最新ではない)企業も含めると、約8割の企業で「これはどういう処理や判断、情報が必要な業務なのか」ということが客観的に分からない状態のまま放置されています。

そんな状態でどのITツールがいいか情報収集し、機能比較表を作ったところで、それが現在、そして将来ありたい自社の業務にフィットするかどうかの判断ができるわけもありません。

CMやLPを見ていると「このITツールを入れればなんとかなるかも」と思ってしまう気持ちも分かりますが、そんな魔法のようなことは起こりません。

いい感じに、今やっている通りに、なんていうものは業務要件ですらありません。ここにショートカットはないので、きちんと業務設計をしましょう。

2.「自動化」=効率化ではない

そして、きちんと現状の業務を可視化・構造化したとして、それを効率化・改善していくための最善の打ち手が「自動化」なのかという部分についても考える必要があります。

自動化(Automation)という言葉には近未来的な響きがあり、自動化すれば最も生産性が高い業務プロセスが作れると考える人が多いのですが、それは幻想です。

例えば、コンビニのおにぎりやサンドイッチ。ほとんどの製造工程が機械化されていますが、中の具材を入れる工程はかなりの割合で人が対応しているようです。具材はひとつひとつが形状も重さも異なるため、どこにどの向きで置くべきかという判断をし、適切な場所に置くということを実行するスピードやそれが実施できるシステムを開発するコストを考えると、現状では人件費がかかっても人が対応した方が良いからです。

イーロン・マスク 上』でもテスラのフリーモント工場の製造ラインの生産性を上げるにあたって、イーロン・マスクが自動化の使徒であることをやめた過程が詳細に描写されています。

自動化のやりすぎは自分の責任だとマスクは認めている。公にもしているほどだ。「テスラは自動化を進めすぎた。あれはまちがいだった。正しくは、私のまちがいだった、だ。人間をみくびってしまった」

イーロン・マスク 上』ウォルター・アイザックソン より

イーロン・マスクは「アルゴリズム」と称する5つの戒律を定めています。

第1戒──要件はすべて疑え。
第2戒──部品や工程はできるかぎり減らせ。
第3戒──シンプルに最適にしろ。
第4戒──サイクルタイムを短くしろ。
第5戒──自動化しろ。

イーロン・マスク 上』ウォルター・アイザックソン より抜粋

上記は、5つを紹介するための抜粋なのですが、第4戒と第5戒については、全文を以下に引用します。

第4戒──サイクルタイムを短くしろ。工程は必ずスピードアップが可能だ。ただし、第1戒から第3戒までが終わったあとにやること。テスラの工場では、なくすべきだったとのちに気づく工程をスピードアップするのにかなりの時間を使うという愚を犯してしまった。

第5戒──自動化しろ。これは最終段階だ。ネバダでもフリーモントでも、一番のまちがいは、ステップの自動化から始めてしまったことだ。要件をすべて洗い直し、部品や工程を減らせるだけ減らし、バグをつぶし切るまで自動化は待たなければならない。

イーロン・マスク 上』ウォルター・アイザックソン より

イーロン・マスクほどの頭脳を持っていても、「自動化」に幻想を抱き、誤った意思決定をしてしまったので、様々なITツールの「自動化して工数○○時間削減!」みたいな事例を見せられたら信じてしまうのも仕方がないことかもしれません。

しかし、DXブームも下火になり、多くの企業が「自動化をするだけでは、全体の生産性の向上にはならない」ということに気づき始めています。時間とお金をいくばくか無駄にしてしまったかもしれませんが、自動化に対する誤った認識が払拭できるなら、必要な授業料だったというべきでしょうか。

イーロン・マスク 上』には具体的な記述がありますので、それも紹介します。

ネバダ州のバッテリー工場で生産増強を押し進めた際、ごく簡単なものなど、ロボットより人間がやったほうがいい作業があることをマスクは学んだ。人間なら、あたりを見回すだけで必要な工具をさっとみつけられる。そして、そこまで、ほかのものを踏まないように進んで工具をつかむと、使うべきところを見据えて道具をあて、使うことができる。なにも難しいことはない。これをロボットにやらせるとなると大変だ。カメラの良し悪しといった問題ではない。組立ライン1本に1200台のロボット機器を採用しているフリーモント工場でも、マスクは、ネバダの工場と同じことを考えていた。自動化を進めすぎることの危険性だ。

イーロン・マスク 上』ウォルター・アイザックソン より

「自動化」は目的ではなく、業務効率化のための手段の1つに過ぎません。完全自動運転のような領域に到達するためには、「どうやって自動化するか」を考える必要がありますが、そのようなケースは例外的でしょう。

また、「自動化」した工程がボトルネックになり、全体の生産性を落としてしまうケースも多々あります。その工程を処理するためのお膳立て(データの加工など)に手間がかかってしまったり、処理に融通がきかないために例外処理を人が対応することによって工数が増えたり、スピードが遅くなったりするのです。

業務プロセスが未来永劫変わらなければいいのですが、そんなことはあり得ません。製造工程とは違って、ホワイトカラーの業務プロセスはより柔軟に対応するべきだからこそ、PDCAサイクルを高速で回し、改善し続ける必要があるのです。

「自動化」という青い鳥を追い求めても誰も幸せにはなりません。

まずは業務プロセスをしっかりと可視化・構造化した上で、無駄なプロセスを排除したり、やり方を改善したりした上で、必要なITツールを導入したり、場合によっては開発したりしつつ、「ここはどうしても一定量の作業が避けられない」かつ「パターン化が容易」である部分についてのみ自動化を実施するべきなのです。

BYARDのご紹介

BYARDはツールを提供するだけでなく、初期の業務設計コンサルティングをしっかり伴走させていただきますので、自社の業務プロセスが確実に可視化され、業務改善をするための土台を早期に整えることができます。
BYARDはマニュアルやフロー図を作るのではなく、「業務を可視化し、業務設計ができる状態を維持する」という価値を提供するツールです。この辺りに課題を抱える皆様、ぜひお気軽にご連絡ください。

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