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【小説】 変える、変われる。 : 85

掃除をひと通り終わらせて、紅茶など飲みながらまったりとランチとんかつのボリュームについて思いを馳せたり、大正琴の動画を見たりして過ごした。

「きょうは夕飯食べたら・・・」

いけない、また言わせようとした言い方になった。

「きょうも、夕飯食べて、それで泊まって行きませんか?」

ちょうど「千本桜」の演奏が流れていたので背中を押された気がして、スラスラっと言えた。

石黒さんが見ていた画面から顔をこちらに向けて、ニコっとして頷いた。

ありがとう、千本桜!

それと、明日まで一緒にいられる勘も、良い方に当たった。


夜になって、とんかつのパワーも落ち着いて来た感があり、夕飯を食べることにした。

美味しいパンを食べながら、ピロシキの素晴らしさを急にギアが入って熱く語ったりしてしまったけど、石黒さんはうんうん頷きながら笑って聞いてくれた。

他愛の無い話をお互いに話したり、聞いたり。

全く緊張することもなく、のんびり夕飯を食べた。

食べ終わるとお風呂を沸かして、先に石黒さんが入った。

石黒さんがお風呂に入っている間に、前に高速のサービスエリアで貰った大正琴コンサートのチラシを見ることにした。

日比谷のコンサートは行けそうだなと思って、スマホのスケジュールに久しぶりに予定として書きこんだ。

お風呂から出て来た石黒さんがチラシを覗き込んで来た。

「コンサートですか?」

「はい、日比谷のは行けそうだなと思って。」

髪を拭きながらチラシを眺めている。

「行きます・・・? 一緒に。」

「行きたい!」

破顔とはこういうことを言うのかもしれない位の笑顔で答えてくれた。


続いてお風呂に入って、寝ることにした。

「じゃ、寝ましょうか。」

先にベッドの奥にスルっと入ると、石黒さんも少し慣れた感じでススーっと入って来た。

リモコンでポチっと消灯。

自分の足に当たる石黒さんの足が少し冷たくなっている。

石黒さんの方を向いて、キュっと抱きしめた。

「あったかい」と小さな声で聞こえた。

調子に乗っているかな、そう思いつつ顔を近づけると、暗がりでも口元が笑っているのが見えた。

頬に軽くキスをして、それから唇に少し長くキスをした。

「おやすみ。」

「おやすみなさい。」

残念、きょうは一方通行でした・・と思ったら、石黒さんからグっと抱きついてきて割と強めに短くキスをされた。

「おやすみなさいっ」

少し離れたと思ったら枕に顔を隠した。

顔を見たいと思った。

けど、運が良ければ、明日また寝顔をガン見出来るではずと思ったから、きょうは大人しく寝るとします。


翌日は運が良かったので、またしばらく寝顔のガン見が出来た。

また朝兼用の昼ご飯を食べに行って、帰りは石黒さんのアパートの部屋まで送って行った。

「明日、18時に会社の前辺りに車で待っています。うちを出る前と着いたらメール入れますね。」

金曜の夜から今の今まで、ほぼ笑顔しか見なかったし、かわいい寝顔もガン見した。

けど、明日の月曜日の話をした途端、思い出したように石黒さんの表情が曇り、不安で落ち着かない雰囲気にサっと替わった。

早くも目に赤みが差し始めている。

「大丈夫。必ず行きます。」

「はい・・・」

石黒さんが小さく消え入りそうな声で、かろうじて返事をした。

「きょうは早く寝て下さい。それで明日は早く帰りましょう!」

眉間にしわを寄せて自分を見上げると、抱きついて来た。

「仕事の後は無駄話を1秒も聞かなくて良いんです。」

抱きしめた腕の中で石黒さんが、小さく頷いた。


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