見出し画像

スケジュールを携えて人を誘え

前回、事業にはスケジュールが必要だ、という話をした(雑なまとめ)。その続きから。

今回は主語を広くとらず僕自身の話をしよう。ありがたいことに、公認会計士登録を抹消し森の中でひとりのんびりと暮らしているのにも関わらず、未だに多くのプロジェクトから誘いの連絡をもらう。よほど近い関係でない限り、反射的に断る。近い方であれば話を聞くこともあるが、もちろん最終的には断る。送られてくる資料を読んだり話を聞く経験のなかで、不思議だな、と思うことをここでは記述する。

そこに、スケジュールがない。

僕にとって仕事とはカネ稼ぎである。カネの貰い方は、雇用・委任・業務委託契約に基づく金銭支給か、もしくは株やストックオプションによるエクイティインセンティブ方式の2通り。いまの僕をわざわざ誘う会社は、いわゆるスタートアップばかりだ。そこでの報酬は、エクイティインセンティブ方式に重きを置いている。この方式による僕の実入りは、「Exit時株式価値 × 持分割合」により計算される。得られる時期は、「当該Exit時」である。Exitとはエクイティインセンティブが現預金へ換金可能な状態になることをここでは意味する。したがって、Exit時株式価値が示されなければ、僕は自分の報酬がわからない。Exit時期が示されなければ、報酬を手にする時期がわからない。少なくともこの2点がわからない状態で、参加可否を検討することは不可能だ。

「nagabotさんに是非参画していただきたく。エクイティインセンティブを付与します」「あぁ、そうですか...。いつ・どの程度のExitなのですか?」「えっと...えっと...」というやりとりでは、僕は何も考えられない。

「3年内に上場し、5年内に時価総額3000億円を達成します」と叫ばれることもある。なるほど。否定はしないが、事実・データに基づく根拠が欲しい。どのスタートアップをリファしているのか。なぜあなた方にはそれが可能なのか。

スタートアップ最大の罪は、スケジュールに絵空事を描き、有能な人を騙し、そこに縛り続けることだと思う。Exit時期を偽れば、人はその会社に縛り付けられる。動けない。人生設計が乱れる。もちろん、スタートアップの将来は不確実で混沌としている。それを甘受し契約を受け入れた者に責任がある。ゆえに、前段の議論に戻る。Exit時の株式価値と時期に根拠が欲しい。それを見て、追加的に自分で調べ判断する。

「スタートアップは仲間と共に夢を追うものだ。そんなカネカネ言うな」という指摘がある。なるほど。そう言われても、僕はカネのために働いているので議論にならない。スタートアップの夢は、創業者オーナーの夢である。偶然、その夢を共有する者がいれば幸せだが、それでも後入りの者に同値の持分が分配されることはない。Exit発生時、創業者オーナーが数十億の換金可能資産を得る一方で、彼/彼女の夢を一緒に追った自分は数百万円に留まる事態に理屈の整理は可能なのか。最初からカネのために働くという前提を置く僕には想像がつかない世界だ。僕は僕の道を生きる。他者とは夢を共有しない。

「株式価値も時期もわからない。そこをまさに考えてほしい」という指摘がある。なるほど。僕がそれらを把握するためには、同社が属するマーケット・他社・資本政策事例と株価推移、事業仔細とそのポジション、経営メンバの技量、それらを含むあらゆる経営要素の過去の把握と将来へのシミュレーションが必要となって、自分で構築するのは単純に面倒だ。さらにそれを踏まえて分配エクイティインセンティブ量の交渉がはじまる。多くの場合、僕の要求する量が過大だという話になる。このとき、創業者オーナーは、その知人・友人・顧問のような人間へ相談を持ち込む。そして「却下」に至るというのが往年のお馴染みのパターンである。いま思い出せば少々可笑しい。

なんだか資本政策ど真ん中の話をしているが、これは仕事エッセィではなく思いついたことをボソボソつぶやくいつもの日記のつもりで書いている。誰かを説得しようとか、そんな気はさらさらない。ようするに言いたいことは「スケジュールを携えて人を誘え」かな。経済社会では明らかに少数派と思われる意見だ。嘆かわしい(僕にとっては)。

外気温は氷点下2℃。寒い。今日もおでんにしよっと。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?