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報酬としての脆いエクイティ

2日前に記述した以下の続き。顧客の話。

また、一応このあたりも参考に。これらの理屈を前提に、議論を進める。

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スタートアップへの役務提供の利点として、エクイティ報酬を挙げた。金銭による報酬と比べて、それが実現した際のリターンは文字通り桁違いだ。ベンダサイドに留まる専門家が非連続な資産増加を目指すには、悪くない手だと思う。

ただし、請求書に記載した金額が預金口座に振り込まれて完結する金銭報酬と異なり、エクイティは、法令と実務慣行が複雑で、個別性が強く、さらに、発行体の将来性がその期待値を支配している。ようするに、ややこしい。そのややこしさを紐解くには、それこそ、会計士の修了考査に合格する程度の知識をアタマに携え、磯崎・山岡両氏の書籍を記憶しつつ、過去に行われた実際の資本政策を公開情報からよく分析し、相当量の実務研鑽を専門家側で積む必要がある。よほどの自信がない限りは、信用の置ける専門家にきちんと相談するべきだと思う。自分事だからといって、自分で処理するには危険が大きい。僕は外科医に自分の身体を手術してほしい。自分でハラを開きたくはない。

エクイティ報酬について、いくつか論点を挙げる。いつものように、簡単なエッセイ式で。

①数値計画とスケジュール
会社が想定している、エクイティが実現する際の、想定株価・その時期・付与量を事前に把握する。それがつまり”報酬”となる。それなしに判断はできない。

既に記述したことがある。以下、引用する。文章の利点を生かした省力化!

エクイティインセンティブ方式による僕の実入りは、「Exit時株式価値 × 持分割合」により計算される。得られる時期は、「当該Exit時」である。Exitとはエクイティインセンティブが現預金へ換金可能な状態になることをここでは意味する。したがって、Exit時株式価値が示されなければ、僕は自分の報酬がわからない。Exit時期が示されなければ、報酬を手にする時期がわからない。少なくともこの2点がわからない状態で、参加可否を検討することは不可能だ。
スケジュールを携えて人を誘え』20211116

②事業の成功確度
希望ではなく懐疑心を携えて事業が成功するが見極める。ほんどのスタートアップは失敗する。あらゆる事業計画はお花畑だ。その中で成功する、つまり付与されたエクイティインセンティブに価値が宿るのは一握り。

それではどのようなスタートアップが成功するのか。nagabot氏の評価方法はいかに。それは...まあまたどこかで。いくつか要素があるけれど、1番大切なのは、創業経営者の誠実性。次点はチームの守備力。とくに脆弱で不確実な創業期・ピンチなときほど、この2つに成否は支配される。人が良ければ、事業は最終的には成功する。ゆえに事業内容それ自体にそこまでの興味はない。

③生株でもらう
一般的な日本式SOは、上場・M&A時、もしくはそれから一定期間経過後に権利が確定する。M&A時の取り扱いが不明瞭な設計も散見される。当然に召し上げ、分配は会社側の匙加減、という記載が多い。適格であればさらに厳しい条件が課され、条件が積み上がるたびに経済的な期待値は下がる。専門家として関与していながら無節操なことを言うが、SOは非常に危うい資産であって、僕はあまり評価していない(メガネをかけているレーシック担当医のようなもの)。したがって、僕のエクイティインセンティブは、基本的には生株だ。カネを払って、創業者たちから割安で譲渡してもらう。割安であることは税務上問題がないのか、という指摘については、僕は税理士でもあったので、いわゆる”資本政策有識者”よりは幾分か詳しい。会社としては生株の譲渡に抵抗があるだろうけれど、離脱時の返還条項をきちんと定めておけば、大した問題ではない。もちろん、前述のようなSOの不安定性は、生株保有者にとっては利益であるから、その観点に基づく利益確保の主張は、一定の合理性がある。

④期間経過によるべスティングを付ける
上場やM&AなどExit事由の発生を権利確定の条件とした場合、インセンティブの実現可能性は相当低くなる。関与及び付与から5年経って契約解除して、その半年後に上場したとしても、当然、一切の経済価値は得られない。SO、もしくはインセンティブ目的で株式を付与された者が締結する株主間契約には、この形式が見られる。少なくとも、僕がスタートアップ経済社会で働いていた2010年代後半は過半を占めていた。

権利確定条件は、時の経過を要件に用いるべきだ。たとえば自身のコミット期間を5年間とすれば、毎年1/5ずつ権利が確定するように設計する。ちょうど3年が経過した翌日に契約解除すれば、付与の3/5が確定し、残りは、SOならば失効、生株ならば原価もしくは簿価純資産での買取となる。

「みんなで夢を追っているのに途中離脱してエクイティがもらえるのはおかしい」、という反論が思いつく。会社の夢は創業者の夢。それぞれには人生があり、目的がある。仕事の目的はカネ稼ぎ。役務提供の対価としてエクイティが選択されたわけだから、期間に応じ取得することに理由がある。

会社としては、資金的余裕のない時期に、低価で有能な人員を確保する策として、エクイティは悪くない選択だ。将来のExitを目指すから、この手法を採ることができる。人員確保市場における、スタートアップの優位性。逆に、エクイティを付与しておいてさらに金銭報酬を充分に払う姿勢は、あまり理解ができない。そこは緩いトレードオフにあるべきだ。
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あ、字数。まだ書き足りないけれど、今日はこのあたりで。中小企業を顧客にする際の論点には触れることもできなかったぞ。

また次回だね。

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