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2021年2月28日 イスラエル首相、コロナ予防接種を国民に呼びかける

はじめに

今、日本で一番良く知られているイスラエルに関する話題は、コロナワクチン接種についてではないかと思います。
イスラエルでも、コロナワクチンの接種は国民の大きな関心ごとの一つではありますが、その接種の速さについてとか、それを可能にするデジタル化された保険システムなどについては、特に話題として取り上げられていません。
イスラエル人にとってはそれが「当たり前」で「日常」だからでしょうか。
すでに人口の約半数が第1回目の接種を終え、2回の接種を終えた人やコロナから回復した人にスポーツ施設や一部の文化施設の利用を許可する「グリーンパス」制度が始まったイスラエル。
最近はワクチン接種希望者はほとんど接種を済ませた様で、今後の政府の課題は、ワクチン接種に無関心な人たちと、正統派などといった一部の接種反対派をどのように「接種希望者」へと動かすことができるのか、ということにあるようです。
ネタニヤフ首相は「世界では、人々がワクチンを待っているが、イスラエルでは、ワクチンが人々を待っている」と言ったといわれます。
イスラエルは今、「プリム祭」という、ユダヤ教のお祭りの時期で、普段ならばこの時期は仮装をした人々がパレードをしたりパーティーを開催したり…とユダヤ教の祭りの中では珍しく「誰が誰だかわからなくなるまで喜ぶ」という、楽しいものなのです。
けれどこの週末は未だ収まらないコロナパンデミックのため、夜8:30~翌朝5:00の夜間外出禁止令が発出されました。

首相が動画で予防接種を呼びかける

そんなプリムの祭りに、イスラエルの首相であるビニヤミン・ネタニヤフ氏、通称「ビビ」のツイッターアカウントに、一つの動画がアップされました。
動画はこちらで、ビビがコロナワクチン接種会場でメガホンを手に、「プリム祭、おめでとう!さあ、皆、腕をまくって!予防接種をうけてください!」と声を張り上げるところから始まります。共演者はヘン・ミズラヒというスタンド・アップ漫談家。
ビビは「おお、ヘン君、どうだい、君はちゃんと予防接種したかい?」と語りかけます。
それに対して、プリム祭らしくピエロの仮装をしたヘン君は「そんな、何から出来ているのかわからない様なワクチンを体内に入れるなんて、僕は怖いし、いやだね」。
ビビ「そんなピエロみたいなこと言うなよ(ヘブライ語の表現で物事を真剣にとらえない人や、いいかげんな対応をする人のこと)。このワクチンは世界の最高の専門家たちの手によって確認されているんだ。FDA(アメリカの食品医薬品局)の承認も得ているし、何100万という人々がすでに接種し危険を回避しているんだ」
などというように、ヘン君が発する様々な意見にビビが反論していくつくりとなっています。
内容はいたって真剣なものではありますが、次々と変化するプリム祭の仮装と、最初から最後までいたるところにちりばめられたダジャレの数々で、なかなかに凝った作りです。
ヘン君は、犬の仮装をしてしっぽを動かしながら「だって、そのワクチンはDNAを変えるっていうじゃないか。もし、僕にしっぽが生えたらどうしてくれるんだ」と言ってみたり、エセ科学者の仮装で「ティック・トックで調べたら、このワクチンは確かなことよりも疑問のほうが多いと言われているよ」、キーボードを叩きながら「国民全員に予防接種を受けさせて何をするつもりだ」「全員にチップを埋め込もうとしているんだろう」「一体どんなたくらみがあるんだ」など、「陰謀論」と言われる様な質問を次々にたたみかける…こんな調子で約1分半の動画で内容は盛りだくさん。
そのたびにビビは、予防接種を全国民が受ける目的は何であるのかということや、コロナは若者にも危険であることを一つ一つ簡潔に説明し、自分自身だけでなく家族を守るものであることを強調。最後には「グリーンパスがもらえて、以前のような自由な生活に戻ることができる、これがコロナと共に過ごす最後のプリム祭」であることを宣言します。

首相が国民に語りかける国、イスラエル

私は、イスラエルの国政に対する選挙権を持たないのですが、個人的にはビビを首相として支持する気持ちはありません。それでもこの動画を見て、様々な側面から「ここまでやるんだ…」と思わず感心、感動してしまいました。
国民に語りかけると言えば、日本で思い出すのは菅総理の「ガースーです」。もしくは安倍前総理の「うちで踊ろう」。私はこれらの動画を見たことはないのですが、その後の各種メディアのこれらの動画の叩き具合と言ったらひどかったので、どんなに贔屓目に見ても、これらが国民の心を掴んだメッセージだったとは言えないのだろうことは、想像に難くありません。
それでも、普通ならありえないような言葉を発し、公表することのない姿を公にさらした2人の総理大臣は、国民に対し、何らかのメッセージを発したかったことは確かだと思います。それが何であったのか、国民に明確に届かなかったことは非常に残念です。
ビビが「スピーチ上手」なことは周知の事実ですが、私がワクチン接種反対派だったとして、こんな動画でワクチン接種を呼びかけられたら、ワクチンを接種するかどうかは別としても少しはビビに好感を抱く気がします。
現に、私はネタニヤフ首相を「ビビ」と愛称で呼ぶのは好まなかったのですが、この動画の説明については彼を「ビビ」と呼びたい気持ちにかられます。
メガホンを持って、一生懸命「ワクチンを接種してくださ~い!」と呼びかける姿。
ああでもない、こうでもないと、様々な理由をつけてワクチン接種から逃れようとする、ある意味とてもイスラエル人らしい人たちに、偉ぶったところなどなく、一つ一つ、わかりやすく、筋の通った説明をしていく姿。
本物の俳優よりもちょっとぎこちなくて、演技が少しだけヘタクソな、そのあんばいすらも計算でやっているのか?と思いたくなるほど、ちょうどいい大根役者加減。そして最後に、明確なメッセージ。
とても素晴らしい動画だと思いました。(彼の政治的な方針などを素晴らしいと言っているわけではありません。)

「選挙のため」?

さて、もう一度、私は自分の国、日本のことについて考えてみたいと思います。
私は日本にはあまり帰っていないこともあり、大きなことを言えない身であるのを十分承知のなのですが、こんな動画を日本の総理大臣がつくったら、国民はどんな反応を示すかな…。ということです。
わからないですが、「選挙のためにつくってる」「そんなくだらないことをやっている暇があれば…」などと、また、叩かれるのでしょうか。それとも、ここまで明確なスピーチをされたら、「共に国を作っていこうという気持ちになった!」と、評価されるのでしょうか。
日本のメディアで私が気になるのは、このイスラエルのコロナの予防接種キャンペーンについて「選挙の票集めのため」という表現をする記事がいくつかあることです。
正直、イスラエルではそのような記事を、ほとんど見たことがありません。なぜなら、そんなことは当たり前だからです。
選挙の時期が近かろうと遠かろうと、政治は国のため、国は国民のためにあるものです。法に従いつつ、国民に「選挙でこの人に一票を投じたい!」と思わせるパフォーマンスを常に取り続けるのは、民主主義の下で政権をとりたいと思う政治家にとっては当たり前のことです。
イスラエルは今でこそ選挙まであと3週間程度となり、それこそこのコロナ予防接種キャンペーンは選挙のために行われた、と言えば日本人的にはなんとなく、「そうかもしれない!ネタニヤフ首相は裁判の件もあるし!」と思えますけれど、イスラエル政府がこのコロナワクチンを世界の他国に先駆けて買い付けたその時、選挙の予定は3年半後のはずでした。
その時、日本のメディアは誰一人としてこれを「選挙のための行動」と評したものはありませんでした。
その後、連合与党の問題が3度目に持ち上がり、4度目の選挙が確定した途端に、「コロナワクチンキャンペーンは選挙のため」という書き方をする日本メディアを見かけるようなりました。
選挙の得票のためだけに口先だけ、表面だけで行っているその場限りのパフォーマンスなら、国民もすぐに見抜きます。それは日本の国民だって同じではないでしょうか。
国民はそれを見越して誰に投票するかを選ぶし、イスラエルでは、毎回議席数ぎりぎりで連立を組む与党は、あっちをたてればこっちがたたず、よっぽど慎重に吟味しなければ、いいかげんな政治パフォーマンスではあっという間に何かしらの票を失うものなのです。
そして、常に周りに危険がいっぱい、情勢が不安定なイスラエルでは、選挙のためだけにその場限りの政治をやっているような政治家は、あっという間に淘汰されていくでしょう。

おわりに

今回は、私自身も予期しないままに、なんとネタニヤフ首相の支持キャンペーン記事の様なつくりになってしまいました。
ちょっと不本意な気持ちの部分もありますが、それでも、この動画の最後にビビが発した国民へのメッセージには感動し、日本の政治家にも、ぜひこういうふうに国民に語りかけてくれる人が現れないものかと思ったのは本当のことです。
最後のメッセージを訳して、今回はおしまいにしたいと思います。「イスラエル」の部分が「日本」だったら…。こんなふうに総理大臣が語りかけてくれたら…。ちょっと想像してみてください。
「イスラエルは、世界で一番最初にコロナ禍を脱する国になります。それはワクチンのおかげであり、国民のおかげであり、私たちのために働いてくれる医療関係者の皆さんのおかげであり、さらに、まだ予防接種をしていないけれど今ここで接種をしようと決断してこれから接種をしてくれる、あなたたち一人一人のおかげなのです。
あと少しで、私たちが愛してやまない今まで通りの生活が戻ってきます。
コロナと一緒に過ごすプリム祭はこれが最後になります。プリム祭、おめでとう!」
以上、現場からお伝えしました♡

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