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2020年12月2日 イスラエルの就職事情

はじめに

日ーイで習慣が違うこと、そしてお互い説明されてもなかなかピン!とこないことは多々ありますが、そのうちのひとつがこの就職にまつわる出来事です。
私はイスラエル人に日本の「就職」について説明する時、そして日本人にイスラエルの「就職」について説明する時、二つの社会におけるこの事象の位置に果てしない遠さを感じます。

就職にまつわる社会の仕組み


イスラエルは、社会全体が宗教、民族、文化などの面で均一でないために様々な例外がありますし、日本社会はどちらかというと均一だとは思いますが、近年は社会の仕組みが大きく変わっていく過渡期でもあるため、やはりこちらも全員が全員同じ状況ではありません。
そんなわけで「多数派」から一番近いと思われる「一般的」な現象を説明することになるのですが、日本とイスラエルでは「仕事」に対する前提がまず違い、そして社会の仕組みそのものが大きく異なります。
そんなわけで、まず「社会の仕組み」を、個人の時間軸を取って俯瞰してみましょう。
ゆりかごから墓場まで、仕組み的には成人(イスラエル18歳、日本20歳)になるまでの期間は、日本もイスラエルも大きな違いはみられません。
少し違うことと言えば、イスラエルの義務教育は幼稚園年長から高校3年までの13年間。そして、イスラエルの子供たちは高校卒業まで、一般的に「受験」というものを経験せずに過ごします。

成人になると


日本とイスラエルで大きな違いがみられるのはイスラエルで義務教育が終わった時点です。
イスラエル国民は基本的に18歳になると兵役義務が生じ、高校卒業後、多数の進路は兵役となります。
アラブ人、ユダヤ教徒正統派で「イェシバー」という宗教学校に在籍する者、既婚女性など、一部兵役義務を免除されている人もいますが、基本は男女問わず全員就役です。
こういわれると、日本人の私などは、イスラエルで新年度の始まる9月1日から、同じ年代の兵隊さんたちが一斉に就役するようなイメージを持つのですが、これもまた、ちょっと状況が違うのです。
まず、入隊の時期は人によって全然ばらばらであるということ。もちろん、新兵の入隊時期というのは大体皆似たような時期ではありますが、それでも同じ学年で一緒に学校を卒業しても、配属部隊によっては入隊日が半年近く違うことも珍しくありません。
さらに、義務兵役期間は男性3年、女性2年となっていますが、全員が全員義務終了と同時に一斉に除隊するわけではありません。
職業軍人として定年を迎える人もいれば、義務期間を終了すればさっさと除隊する人もいるし、将校となって何年かを職業軍人として過ごした後除隊する人…など、兵役についている期間は人によって本当に様々です。
さて、いったいいつになったら「就職」の話が出てくるのか、すでにしびれを切らしてしまった方もいらっしゃるのではないでしょうか?私もしびれてきていますが、実はこの時点ですでに「就職」している人たちのグループがあるということに気づかれましたでしょうか?
そうです、まずは職業軍人。そして、イェシバーに在籍するもの達は、一般的な「就職」とはかけ離れていますが、彼らには独特な生活様式があるため、私たちの考えるような「就職」はどちらにしろ、しないでしょう。
それからアラブ人や既婚女性など、兵役義務を免除された人たちの中には「就職」した人たちも大勢いることでしょう。

兵役終了後は


さて、引き続き、兵役についた「イスラエルの一般的な人々」の時間軸を追っていくと、一定の期間を軍人として過ごした後、それぞれの時期にそれぞれが除隊していきます。そしてこの先はもう、通常の「市民」として過ごすわけで、国家や社会も、個人の進路に対して口出しはなくなります。除隊の時期も1人1人バラバラで、除隊後の進路ももう、人それぞれなのです。そんな仕組みになっているのです。
さて、20代前半~後半あたりで「市民」となり、バラバラと社会に出た若者達は、もちろん生活のために今後は仕事にも励むのですが、自分の人生を自分のために、社会のために使うにはどうすればよいかと考えるようになります。
このように「個人主義」も徹底してもいるのですが、ユダヤ人であれば「ユダヤ人の国のために尽くす」という教育も子供のころからされているので、自分の残りの人生を「仕事だけして過ごそう」という風に思う人は少数派でしょう。
「仕事」はあくまでも生活の手段もしくは夢の実現、自己実現のための手段であり、人生そのものではありません。
上記の仕組みから、一斉に新入社員が入社してくることもないので、就職時期は人それぞれ。魅力的な仕事があれば、「年に一度新卒の時のみ」だけでなくいつでも就職の可能性はあるので、その分、魅力を感じなくなれば現在の職場を離れる人も、普通にいます。同じ会社で10年も務めている、という人は少数派だと思います。
自分の仕事に対して不満があったり、もっとキャリアアップさせたいと思う人は、スキルを磨いたり、新しい職場を探したり、採用試験で行われるチームワーク試験や筆記試験のための勉強をしたり、イスラエル人も「就活」をするにはするのですが、日本の学生の様な、リクルートスーツの着方や履歴書の書き方、履歴書に張る写真の撮り方…といったことを学ぶ機会はありません。面接試験なども、専門的なことを聞かれることが多いですし、問題行動がある人かどうかは前職からのレコメンドなどで判断することも多いので、面接の際の受け答え方法やお辞儀の仕方なども、話題になることもありません。

学歴よりも軍歴重視?


それから「イスラエルでは学歴よりも軍歴のほうが就職に重要」ということを耳にすることもあるかもしれませんが、これは「日本に比較したら、出身大学の名前がそれほど重要視されない」ということで、また、就職の時点で大学を卒業していない人が多いからだと私は思います。最初に就職しようとする時に、3年も4年も前の学歴を出してきても、意味がないのは一目瞭然、直近の経歴は軍歴になるのでそちらを重要視するのは至極自然なことですよね。特別な技術や研究を必要とする職業に就きたい人は、大学などに行って勉強するわけです。そうしたら、就職の際に軍歴よりも、その職業に必要な学歴を前面に押し出すでしょう。それでも、軍隊に入る際に、IDF(イスラエル国防軍)は子供たちをスクリーニングし、特別な能力を持っていると判断された若者は一定のコースに入れられるのも事実です。入隊前に大学へ通って一定の学位を収めることを課される者たちも少数ながらいます。それを考えると、イスラエルの軍歴は学歴をも包括している部分があると言っても良いのかもしれません。

「派遣」と「正社員」の違い、気になる「初任給」は?


さらにイスラエルでは仕事内容で人を雇うことが多いので、日本のように「正社員」「派遣」などといった区分けはありません。
もちろん人材派遣会社から派遣される人もいますが、労働法などで決められている保証は同じです。
それから、イスラエルは「交渉社会」なので、給料も人それぞれ。雇用者が必要とするスキルを持っていてかつ交渉上手な人が、高給取りになれるのです。
「イスラエル人の初任給の平均はいくらですか?」と質問されて、返答に困ることがあります。まず「初任給」という考え方。日本の場合は年功序列制度がありますから、初任給から順に給料があがることを前提にしていますよね。同じ年に入社した人たちは将来的にポジションで差がつくまでは大体皆同じ給料という前提ですし。それから、初任給って、一般的に新卒で就職した時の初めてのお給料のことですよね。前述したとおり、どちらもイスラエルでは仕組み的にあり得ないことなんです。
交渉でつり上げて高給で雇われれば、たとえその会社から初めてもらう給与でもそれは高いし、何十年働いたとしても低い給料で就いた職なら、何らかのアクションを起こさなければ昇給は望めません。(物価上昇率が換算されたり、国が最低賃金の改訂を行ったために、結果的に昇給することはあり得ますが。)
日本の場合は雇用者が給与を決め、労働者は「相場」や「平均値」を参考にしてそれを受け入れるかどうか決めて就職先を選ぶことがほとんどだと思いますが、イスラエル人は「相場」や「平均」にこだわりません。それはマーケティングの際も同じなので、こちらが驚くこともあるほどですが、これは「自分」を基準にして考えるイスラエル人のクセの様なものでしょうか。「自分はこれだけの価値がある」と思えば相場なんて関係なしです。実力を持った人は市場原理を利用してぐんぐんと自分を優位に持って行くしたたかさがあります。(もちろん失敗の例もたくさんありすけれど、次のチャンスもあるので良いということなのでしょう…。)
とはいえ…具体的な数字が全くないというのもよくわからないので、表記しますと、イスラエル国民保険庁の発表した2020年1月における平均月給は約10,500NIS(日本円にして約33万円) 、労働法で定められた最低賃金は、時給が約29NIS(日本円にして約910円)、 フルタイムの月給が5,300NIS(日本円にして約16万6千円)となっています。
本来はここにいろいろと細かい条件や、税金の支払いや福利厚生などがかかわってくるので、上記の数字はあくまでも参考までに、という感じです。

仕事に対する態度は「自然体」


最後に余談ですが、イスラエル人の「仕事に対する姿勢」について、実例をご紹介したいと思います。
イスラエルって、スーパーとか(パンデミック前なら)カフェに、平日の朝とかでも、働き盛りっぽい年齢の人が男女を問わず、Tシャツ短パン+ビーチサンダルみたいな恰好で、結構普通にうろうろしているんです。
日本からいらっしゃるお客様には「この人たちは、無職なの?その割には高いカフェとかで優雅に過ごしているよね」などと言われて、私も彼らの職業を知りたい…と思うくらいなのですが、彼らはカフェでも電車の中でも何でも、平気で仕事の電話を取って話しているのです。その内容ときたら、小心者の私にはハラハラドキドキなんです。
「もしもし、うん。ああ、あの件で?まだやってない。今日までだっけ?え?今?買い物に来てるんだよ。うん。あ、それはだめ。え、緊急なの?でも今日は子供もうちにいるし、妻がオフィスに行ってる日だから、そのはムリだから。別の日にして。」
こういう電話の受け答えが、スーパーでより良いトマトを探している時や、子供のお迎えに行っている時に、普通に耳に入ってくるのです。
もしかしたらその人はよっぽど偉い人なんだろうか…とも思うのですが、そうとも限りません。なぜそんなことがわかるかというと、私の主人も仕事の話を同じような感じでやっているからです!
初めてこういう感じの主人の電話のやり取りを聞いたときは、正直目玉が飛び出ました。
でも、よくよく耳を澄ましていると、こんな感じの話し方をしているのは私の主人だけではないことに気づきました。しかも身内だからと言ってえこひいきするわけではないですが、私の主人は決して責任感のない人ではありません。
相手がクライアントだったり上司だったり、同僚ということもありますけど、それでもこれが、普通の話し方なのです!本当に驚きました。
イスラエル人って、仕事の時も本当に自然体、悪く言うと緊張感がないんですけれど、そんな中でも力を出す人は出すのです。

おわりに


大変長くなりましたが、「イスラエルの就職事情」、いかがでしたか?
今後も引き続き、イスラエルの情報を発信していきますので、どうぞよろしくお願いいたします。
以上、現場からお送りしました♡

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