見出し画像

文末に「のだ」はいらないのだ 文章上達のために「不要な言葉」を省く


新聞記事で文章を学んだ私は、できる限り言葉を削って簡素な文にする習慣がついている。新聞の限られたスペースで可能な限りの情報を載せて内容を充実させること、そして素早く内容を把握してもらうため、新聞記事は無駄な語句を省いて書く。

そのため「素っ気ない」「味気ない」などの批判は受ける。広告記事を書く部門に属していたときは、よくクライアントから「あっさりし過ぎている」とクレームを受けた。

だから、簡素な文章が「正しい」と断言するつもりはないが、文章力の向上に「簡素な文章を書く訓練」は欠かせないと思っている。簡素な文章が書ける技術を身に付け、その上で必要な飾り言葉を付け足せばいい。

①重なり言葉を削る

文章でもっとも不要な記述は「重なり言葉」だろう。知らず知らずのうちに、同じ意味の言葉を繰り返してしまう。
 
・違和感を感じる
・違和感を覚える
 
・壇上に上がる
・登壇する

 
同じ文字が続いた場合は要注意である。前者は同じ文字数だが、後者は言い換えるだけで2文字少ない。日本語は便利で、「登壇する」のように言い換えられる語句がたくさんある。

次はプロ野球の記事で頻出する重なり言葉を例に出そう。
 
・大谷の逆転2ランで試合をひっくり返した。
・大谷の2ランで逆転した。

 
「逆転」と「ひっくり返す」は同じ意味。日常会話で神経質になる必要はないだろうが、文章では修正した方がいい。簡素な文章は読みやすいと同時に、前項にある具体的な記述をするスペース作りにもなるからだ。
 
・カットボールという球種は、空振りを取るための球種ではなく、ゴロを打たせてアウトにするための球種だ。
・カットボールは、空振りではなくゴロを打たせてアウトにするための球種だ。

 
前者は1文に「球種」が3回出てくる。これを1つにまとめると、グッと文章がスリム化される。

この例も実際に現場記者から出稿されてきた記事だ。新聞作りは常に締め切りに追われており、現場記者はゆっくり校正する時間はない。社内で校正するデスクは、こうした部分を修正し、行数を整えていく。
 
・巨人という球団は、数年に一度優勝すればいいという球団ではなく、毎年結果が求められる球団である。
・巨人は数年に一度の優勝ではなく、毎年結果を求められる球団である。

 
前者は1文に「球団」が3回出てきてしつこいので、これを1つにすると、意味を変えることなく文が短くなり、なおかつ分かりやすくなる。

私は「文章のシェイプアップ」と呼んでいて、自分で書いた記事でも読み直すと「文章の贅肉」が多い。シェイプアップすれば、より多くの情報を読者に伝えることができる。限られたスペースを有効に使えば、より充実した紙面になる。
 
他にも、ありがちな重なり言葉を羅列してみる。
 
・まず第一に
・次の後継者
・すべてを一任する
・~だけに限る
・各チームごとの
・あらかじめ予定して
・いまだ未完成
・思いがけないハプニング
・最後のラストスパート
・はっきり断言する
・約1時間ほど
・まだ時期尚早

②不要な語を削る

不要な語句も削っていきたい。「個人的には」「基本的には」「ということ」「のだ」などは不要なケースが多い。
 
・私は個人的に、強いということは、優しいということだと思う。
・私は、強いとは優しさだと思う。

 
主語が「私は」である以上、書き手の意見であり「個人的に」は不要である。「個人的には」「一般的には」「私としては」などと付け足し、断定を弱めておきたい意図があるのだろう。言い切りたくない、言い訳の余地を残しておきたい気持ちは分かるが、書き手が思うほど効果はない。

「個人的には、と書いてあるから間違っていても仕方がない」という免罪符にはならない。

また、「ということは」という表現は、ほとんどの場合で不要である。原稿が長く、削りたいと思ったとき、私は「こと」を探す。
 
・来季の契約を結ばないということを発表した。
・来季の契約を結ばないと発表した。

 
・値下げを敢行するということを発表した。
・値下げを発表した。

 
・販売することができるようになった。
・販売が可能になった。

 
・体重が落ちたのだ
・体重が落ちた

 
最後に記した「のだ」を付けたがる人もいる。「強調」の効果はあるが、多用すると意味がなくなってしまう。

記者ハンドブックによると、次の語句は削った方がすっきりすると書かれている。

「なお」「また」「そして」「一方」「例えば」「あるいは」「一面」「さらに」「いわば」「いわゆる」「具体的には」「このため…である」「…のこと」「…といわれる」「…期待される」

「記者ハンドブック」

すべてを自動的に削る必要はないだろう。あった方が読みやすいと思えば書いていいと思う。ただ、不要である可能性が高いので、必要な否かをチェックする対象の語句と認識しておいた方がいい。

私も「また」「さらに」は何度も書いてしまう。放っておくと記事内に3つも4つもある。この癖は自覚しており、読み返す際にチェック対象の語としている。「なくても通じるかな?」と考え、通じるなら削る。ただ、チェックした上で「必要」と判断すれば、そのまま残している。

冒頭に書いたように、簡素な文章がすべて正しいわけでもない。味気なくなってしまう場合もある。ただ、シンプルな表現ができるよう練習しておくことは、文章力の向上に役立つだろう。