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音楽の中で19歳の父と握手した話【エルヴィス・コステロ】

父がエルヴィスコステロのライブに来るのは37年ぶりらしい。今は2024年、父が前に行ったのは1987年。新聞配達で貯めたお金を全部レコードに費やしていた音楽オタクの少年は、19歳の福岡で浪人中の秋、どうしてもコステロが観たかったんだって。

そのライブに父は同僚と行くはずだったのに、当日の朝同僚が急用で行けなくなり、朝急に「来ない?」とLINEで誘われた。おおお、エルビスコステロ、、コルステロールみたいな名前だなぁとか思いながら、コステロのことはまったく分からなかったが父に会えるのは大歓迎なのでいいよーんと返事。18時に錦糸町の駅で落ち合うことになった。

正直、彼のライブを聴いても音楽のことは何も分からなかった。今流行りのキャッチーなメロディーでもなければ歌詞が綺麗に聞こえるわけでもなく、とっても難しかった。だけど、ライブのみんなが自分を解放して心から楽しんでいる空気感って本当に最高だなってことだけはわかった。最後は我慢できずにスタンディングオベーションで両手をあげて涙ぐんでる人たちを観て、なんかいいなって思った。人の人間らしいところに触れるとなぜか分からないけどすごく嬉しくなって、分からないまま私もスタンディングオベーションしてた。

そんなライブの雰囲気も良かったけど、何よりも良かったのは、父が19歳の時に行ったライブに私が19歳の時に行けたこと。37年という年月が経って、音楽の好きな19歳の少年はおじさんになり、音楽の好きな19歳の娘と一緒にライブに来た。自分の耳に音楽が届くたびに、19歳の父は同じ曲がどんなふうに聴こえてたかな、って想像した。19歳の私が、音楽の中で19歳の父と握手する、そんなイメージで。

37年。とてつもない年月のように思えるけど、父は「あっという間だったよ」って笑ってた。たしかに、地球の長い歴史の中で見たら誤差みたいな、何の意味もない時間の長さかもしれない。だけど、だから、精一杯生きたい。37年後父はもう93歳で、私は今の父と同じ歳、56歳になる。何を食べて、どんなことに笑って、どんなことに泣いて56歳になるんだろうか。ママが19歳の時に行ったんだよーとか言いながら、子供を連れてカネコアヤノのライブに行ってるんだろうか。

なんだか人生って短い。時間は流れる。しかも一回しか生きられない。やり直しが効かない。いつだって本番。You only live once、だから、37年後、私が56歳になったときに父のような立派な人にはなれなくても、せめて今の父と横にならなんでも恥ずかしくないような大人になりたい。

19歳の父へ、55歳のあなたは娘をライブに連れてってくれました。ありがとね。あなためっちゃすてきな大人になってるよ、いまは浪人してるけど次の年は受かって大学でめっちゃおもろくて賢い女の子と出会うよ。その人と結婚してかわいい娘が生まれます。よかったね。55歳のあなたに私はライブ終わってコステロの音楽全然わからんかったって言ったけど、Sheだけは耳に残ってたまに聴いてるよ。私はその歌の中でも、彼女の瞳についてNo one's allowed to see them when they cryってとこが美しくて好きです。19歳のあなたもShe好きですか?そうだといいな。あなたの音楽の血が私にも流れてることを本当に誇りに思ってます。またね、37年後にて。

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