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【ツバメroof④】(半分フィクション半分ノンフィクション)石井‐珈琲係

何かが何も決まらないまま、どんどん土壁は埃を舞き上げながら、パラパラと壊れていった。
 あぁ…と思いながらも、もう止めるのは馬鹿らしく思えた。(第一穴はもう修復できるような大きさではない)
『夕子もやってみたら』とハンマーを渡された。ずっしりと重いのはハンマーか私の心か…。躊躇いながら夕子も壁をたよりなく叩いてみた。   
 コツン…パラパラ…と申し訳なさそうに土がこぼれていく。(私の心の響きの様)
 同罪だ…と思ったが、やってはいけない事をやるというのは、子どもの頃障子に穴を開けた時の快感を思い出させた。よし、何も考えずに、壁を叩こう。次第に夢中になって…いや、ヤケクソになって夕子も息を切らせながら、壁を壊した。
 どんどん壁が壊れていくと、中から竹や藁が出てきて、それに二人は感心しながら、手を止めた。そして、昔の職人技を褒め称え始めた。全てが自然に還る素材で出来ていて、なるほど、とても理に適っていた。先人の知恵というのは本当に素晴らしくて、夕子は感動した。

しかし、アイとその子さんは手が止まる事が止まらない。
 竹の組み方や、紐の結び方、藁の種類、土の色まで吟味し出すのだった。
 豪快に叩いていたアイが、大事そうに丁寧に土壁を触り出す。
 何も躊躇わずノリだけで叩き出したくせにうそやん…と夕子は内心突っ込んだ。 
 しばらく二人の、建築談義は止まりそうになかったので、夕子は中途半端に崩れた土壁を見ながら、ぼんやりペットボトルのお茶を飲む。
 そしてこれから何が起こるのか想像してみた。でも全くわからない。ここがどんな場所になるのか、何になるのか。もしかするとこのまま崩れ落ちるかもしれない。うん、きっと、そうだ。壊れておしまいだ。
 でもそれでもいいのかと思い始めた。出来上がりが分かる予定調和はつまらない。突発的な日常が始まるのかと思うと、何か夕子の身体にまとわりついていた膜の様な物がペロリと剥がれた。


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