天野つばめ

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君じゃない誰かに微笑みを

「おはよう。私、諦めないから」  朝登校して一番に元カレのアキラに挨拶をする。一限の必修はアキラと同じ授業だ。 「もう彼女面すんなよ、お前とは終わったから」  アキラは冷たい目を私に向けた。  アキラの浮気相手は同じ学部の菱川蘭だった。体育会バスケ部の蘭は背が高く大人びていて、私とは正反対の人間だった。  一昨日、蘭とキスしている現場を目撃したときはあまりの衝撃に、よくこんな狭いコミュニティで二股できるなとか、誠実に見える人ほど浮気するって本当なんだなとか、そういえば最近一

    • 白を告げる

       俺は昨年、日本人として初めて全米チェス大会を制覇した。気恥ずかしいものだが、盤上のサムライ・マサという二つ名で呼ばれている。  十数年ぶりに日本に帰って来たのは、日本のプロとの親善試合のためだ。対戦相手は、日本のタイトル戦を総ナメにした若き天才・土浦薫という選手だ。その正確無比な指し筋から「浪速のAI」と呼ばれている  青春時代をずっとアメリカで過ごしたので、日本の文化には詳しくない。けれども、日本の漫画を読む限り日本には大事な試合に勝った後に「告白」をすることが多いらし

      • 約束の絵を見ることはないとしても

         3月31日。ニューヨークの高級ホテル最上階スイートルーム。ルームサービスの御馳走が並び、外には自由の女神。日本人美大生、望(ノゾム)と優絵(ユエ)は窓の外を見ながら話している。 「子孫を残す目的ってさ、自分が死んだ後も生きた痕跡を残すことなんだよな。絵を描くこともまた、自分の死後も生きた証を残すことなわけで……。つまり作品のことを我が子って言うのはそういうことなんだろうな」 「何それ、もしかして賢者タイムってやつー? ウケるー」  優絵はけらけらと笑った。 「意味分かって言

        • 夢破れて讃歌あり

           駅から徒歩15分、オートロックなし、築30年。何かと物騒なこのご時勢に24歳の女性が住むのは防犯上やや心もとないアパートで、聖來は一人暮らしをしている。窓や壁は薄く、冬は寒いうえに、外や隣の音がうるさい。狭いワンルームの壁には、古びたアイドルのポスター。詰めればギリギリ2人で食事できる程度の小さなテーブルには写真立てが置かれていたが、倒れて写真は見えない。いつから倒れたままになっているのか分からないほどに埃をかぶっていた。部屋の片隅には小さな引っ越し用段ボール箱。「大切なも

        君じゃない誰かに微笑みを

          クリスマス三連詩とその後の2人

          *****2009/12/23***** 「夜が好きなんです、特にこの時期の夜が」 夜空と地上が逆転した世界 オリオンもサンタクロースも 木々の星々に目を細める 「そうですね」と「私もです」 煌めきの前には どちらの答えも野暮だから 12月だけの銀河を映す 貴方の瞳を見つめて頷くの 私たちは今 星の間を羽ばたく比翼の鳥 *****2019/12/4***** 卒業アルバムを眺めても 十年前のクリスマス 何をあげたかも 何をもらったかも もう覚えていないんだ

          クリスマス三連詩とその後の2人

          自己紹介

           皆様はじめまして。天野つばめと申します。作詞家をしております。オリジナルソングは主にSPOONというラジオアプリにて配信しております。 SPOONへのリンクはこちら https://www.spooncast.net/jp/profile/311999370/cast?t=all 作品一部紹介 Gear~東京の歯車~ https://www.spooncast.net/jp/cast/1972275 モミジノ呪イ https://www.spooncast.net/jp/