医師の仕事を弁護士さんのように外部委託で出せるか?(答えはNO)そもそも雇用ではなく委託にするメリットは?委託至上主義は本当にいいのか??から医師の働き方を考える

弁護士さんは委託(個人事業主)で働いている

 あまり知られてなかったりしますが、弁護士さんたちは弁護士事務所では雇用ではなく委託で働かれていると聞きます。
 *弁護士さんの業務委託契約って?については以下などに説明がありわかりやすいかもしれません。本論ではないので私は説明しません。
https://note.com/takeuchi_alcien/n/n4c5c838c1320

 一方で、これもあまり知られていないですが、医師は、基本的には雇用でしか働けません。弁護士さんのように業務委託契約で仕事をするということは、(産業医などごく一部の例外を除いて)認められていません(やると違法です)。これを弁護士さんに言うと驚かれますが、法律のことなのに弁護士さんにも知られていないようです。

なぜYouは雇用じゃなくて委託がご希望で?

・医者側としては・・・・給与所得じゃなくなれば、税金や社会保障費を回避することができる? 委託費から(高い車買ったりマンションの家賃払ったりゴルフ代・飲食費などで)経費相殺したりして、課税対象額を削減し、税金や社会保険料を大きく圧縮できる? 

・医療機関側としては・・・・委託にできれば、雇用主負担の社会保険料も支払わなくていいし、労災リスクもなくなる(?)ので、同じ金額でも委託の方がはるかにお得である。切りたいときも雇用に比べれば切りやすい(委託の契約書を1年ごと更新にすれば1年以内に切れる)

というWINWINの構図がそこにあるからです(というか雇用主にWINが大きいように感じる)。

 実際、プロフェッショナル職としてよく比較される弁護士さんは上述の通り委託で出しているわけで、じゃぁ医者も別に良くね?となんとなーく考えるは無理もないように思います。

 しかし現実は、、、、

医業を業務委託契約でやっていた医者が裁判で完敗している


資料
http://www.meijigakuin.ac.jp/~watax/brush-up20210201.pdf
判例は以下から。

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail5?id=89548

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/548/089548_hanrei.pdf

この方はいわゆる、フリーランス麻酔科医ですね。
この麻酔科医が

①一般財団法人B会C病院(以下「C病院」という。),
②一般財団法人D会E病院(以下「E病院」という。
③F連合会G病院(以下「G病院」という。)

との間で,それぞれ,麻酔関連医療業務委託契約を締結していた、とあります。通常ですと、麻酔科医が、この3病院と雇用契約を結んで仕事をするのですが、この方はそうではなく、「横浜市α区に保険医療機関であるAクリニック(本件クリニック)を個人で開設している医師」という立場で、病院がクリニックに対して業務委託契約を結んで、クリニックの唯一の医師である原告(かつクリニックの持ち主)が、契約先の病院で麻酔をかけた、ということですね。興味深いのが、このCLINICにはほかに従業員がおりそれは「看護師1名のみ」とあること。このビジネスモデルなら看護師は必要ないように思いますが、ひょっとしたらこれは原告の妻で所得を分散させる目的で雇用していることにしていたのかもしれないなと考えました(これは根拠のない想像ですが)。

例外:産業医業務は委託でもOK

 上記にちょっと書きましたが、医業の業務委託契約が認められている分野に産業医があります。産業医は雇用でもできますが、委託でも出せます。

 なぜここだけOKなのかは謎(推測内容を後述)ですが、スキームとしては、医師が産業医事務所を開業して(個人事業主だったり株式会社や合同会社で)、複数の案件を契約していたりします。これは税理士や行政書士さんなど士業の人が事務所を構えているのに似ているように思います。おそらくこの士業の事務所開業の延長線上に、労働衛生コンサルタントの事務所もあり、彼らは産業医と近くそことの整合性をとるために、産業医業務は、例外的に委託でOKにしているのではないかと推察します。産業医業務はいわゆる臨床医業務とは全く別なので、その意味でも切り分けもクリアですので混乱も少なそうです。

・労働衛生コンサルタント

https://www.exam.or.jp/exmn/H_shikakueisei.htm

実際、委託にするって得なの?デメリットはないの?

 業務委託契約は、税制上はお得なように思えます。が、一方で、雇用なら得られるメリットである有休・労災・育休などの福利厚生が適応されないことや、医療保険や年金を自分でしっかり対策する必要があること、退職金ももちろんないこと、また業務が契約満了での終了のリスクもあり(任期なし雇用なら切られることはない)、業務委託は別にバラ色のいいことづくめでもないように思います。自分がかなりこういうことを理解して対応できる必要があると思います。また、委託なら、やることさえやれば、時間の使い方は自由!ということがメリットとも言われますが、現実、定期的に業務をやるには、一定程度日時を固定しないと関係者との業務遂行が困難になるでしょう。毎月や毎週ミーティングの調整をするのは結構面倒だと思います。一方で、雇用であっても、労働時間を明示した契約にすればさほど問題とはならないと思いますし、信頼関係ができれば、都合に合わせて多少時間の調整ができるのが一般的ではないでしょうか。などなど考えると、委託にするメリットはそれほど大きくないのでは?とも感じます。結局はメリットはお金(税金を減らすこと)のメリットくらいしかないのではないかと思います(まぁお金は大事とは思いますが・・・)。

委託にしたい人ってどんな人?

 おそらく委託にすることを希望する人って、自分が優秀で成果を残してきている・今後もできる!と強く信じている人ほど、委託を好むのではないかと思います。
 仮に今の自分がそうだとしても、5年後10年後どうなるかってわからないのではないでしょうか。体調が悪くなるかもしれません、家族の状況も変わるかもしれません。雇用であればしがみつくこともできますが、委託だと1年単位での更新契約であれば1年以内に解約ということもあるように思います。病気をしたら、1年以内に解約されるかもしれません。

委託はどれくらいお得なのか数字で考えてみる

具体的にどれくらい得なのでしょう。キリがいい年収2000万円で見てみましょう(また年収が大きい方が節税効果を感じることができます)。

https://www.musashi-corporation.com/wealthhack/annual-income-net-income

・病院側からすれば、160万円の社会保険料が浮く、有給やらなくていいし、労災リスクないし、退職金積み立てもないし、不要になったら委託契約満了で切れる。最高ですね。

・医師側からすれば、何もしなければ、年俸の2000万円からいろいろひかれて手元には1300万しか残らない=700万円消えるが、委託では2000万円まるっともらうことができる(あれ?消費税払う必要があるんでしょうか?)。2000万円が課税対象になるのではなく、経費でいろいろ使っているのを計上して課税所得を低くすることができます。なんならそれを自分だけではなく、従業員としている家族に分けることで、さらに税率を下げ、家族に資産を残すこともできるかもしれません。

 仮に、法人診療所としましょう。結局自分で作ったクリニックが法人の場合、自分に給料を払うとなると、年収600万円くらいに落としても年150万円くらいは飛んで行きます。もちろんいわゆるマイクロカンパニーにして月収数万円にして社会保険つけることもできますが、そうすると、法人利益が残り法人税課税対象になるし、法人の純資産にはなるけど、個人の資産にはならないですね。また法人にしていると法人の確定申告も必要で、その手間もかかるし、利益が出れば法人税も発生します。最終的に法人解散させて、課税逃れするという技もありますが、お金が手元に入るのがかなり将来になります。いやいや年度内に、出張・日当で払い出しまくり!という猛者もいるかもしれませんが、出張の交通費で消えることは無駄ですし、過剰にやれば税務署に目を付けられることは必至ではないでしょうかね。


一方で、法人ではなく個人事業主だとどうでしょう。経費計上した後に、所得税・住民税を支払います。ここはどこまで経費でつぶせるかにもよりますが、現実1000万円以上などを経費計上は結構困難ではないでしょうか(私の生活ではまず無理です苦笑)。もちろん無駄に高額なマンションや高級車をリースなどすれば月100万円以上経費計上できるかもしれませんが、リースでお金減らすことには意味ないですよね苦笑 購入して複数年で減価償却など計上したい場合は上にかいたような法人スキームが必要だと思います。なので結局、個人事業スキームではそれなりの所得税や住民税を支払うのでは?と思います。また、個人としては、国保なら年間87万円(医師国保だと安いという人もいますが、それは都道府県によっても違いますが、いうほど差はないと思いますが)と

国民年金月1.6万円=年間20万円弱

の支払いは発生します。そしてこの場合(マイクロカンパニー作戦同様)老後の年金はすごく少額になるので、別途個人で老後に備えた資産運用が必要ですね。小規模企業共済制度などを利用したらいいのかもしれません。そしてやはり有給・育休・産休などの福利厚生がないのは結構痛くないでしょうか?

フリ医ランスは「いい」のか?

 委託ではないですが、全部バイトだけにする(いわゆる常勤を置かない)という猛者もいます。これには①定期非常勤を複数の場合と、②スポットバイトのみ、③1と2のMIX、があると思います。これのメリットは、労働時間を明確にできるという点があると思います(そもそもいわゆる常勤が労働時間が明確じゃないということがおかしいのですが)。この方法だと、経費計上で課税対象額を減らすことはできないと思うので、社会保険の節税はできないと思いますが、一応見ておきます。

 ①は比較的スケジュールも決まります。これもあまり知られていないと思いますが、有給も付きます。
https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/faq_kijyungyosei06.html
 一方で、雇止めリスクもそれなりにあることや、経費利用ができない・健康保険年金退職金がないことなど、いわゆる常勤に比べて結構劣ります(年収額面以上にこれが大きい?)。

 ②はコロナワクチンバイトがピークの時にブームもピークであったように感じます。しかしこれは、スケジュール調整や振り込みの確認がかなり大変であるように感じます(体験談)。もちろん人にも寄りますが、毎回違うところで働くことのストレスは大きいと思います。通勤も毎日違うのは大変でしょう。独り身なら旅行感覚で楽しむのもいいですが、家族持ちには大変ではないかと思います。

 ③は1と2のミックスなので半分やや安定、半分は毎日が社会科見学。

医師の働き方を考える:結局どういう状態がベストなのか?

 私も法人運営したり、一時期、株式会社の取締役もやっていたので感じますが、こういう複雑なことをやりだすと、それを維持するための手間とお金とストレスがすごいなと感じます。本人が完璧に理解していても、相手の法人の理事長や担当者が理解して協力してくれないと現実その実行も難しいでしょう。フリ医ランスも気楽ですが、上に書いた通り大変なことも多いように感じます。それに比べていわゆる常勤で雇われってなんて楽なんだろうと感じます(個人の感想です)。全ての面倒な作業・調整が免除されますw 相手の法人の理事長や担当者が理解して協力してくれないと現実実行も難しいとか考える必要もありません。年収が上がると税金や社会保険料は確かにアップします。悲しいです。なので、無駄に年収アップを追求することなく、いわゆる常勤先の年収ははほどほどのところにしておき、むしろ、①可処分時間を最大化する(時間搾取企業を回避)、②経費利用できる枠を大きくする(例:医師会費用や書籍や学会や研修会費用を雇用されている法人経費で出してもらう)、③副業を雑所得でもらう・楽しむ、くらいが幸福度がアップするのでは・・・と思います。つまり、ゆる常勤プラスアルファです。

 もちろん何がベストなのかは個人の考えに寄るんだと思います。自分の城を作りたい、自分のやりたいことを自分の資本でやりたい、そういう人は、上に書いたどれでもない「起業(いわゆる開業)」するのがベストなんだと思います。もちろんそれは上に書いてきた「雇われる」のではなく雇う側なので全く世界が違います。有給とかあるわけないです。新規開業なら、億単位の借金を背負って、診療と経営に突き進むのだと思います。かなり小規模の訪問診療専門でない限りは、借金返済は10年くらいかかると聞きます。10年かかる、というのはこれまでの話です。これからの10年は同じように利益を出して返済できるのでしょうか。今のような保険診療が続く保証はないんじゃないかなぁと私は考えています・・・。一方で金利も人件費もどんどん上がっていくことはおそらく確からしい未来です。そうなると10年では返済できず15年20年?となるかもしれません(返せない可能性も?)。そういうことを考えると、新規開業は大変じゃなかろうかと思ってしまいます・・・。


番外編;海外の医師は雇用なのか委託もできるのか?

 明確な文献的根拠はないですが、英国のコンサルタント(病院で働く専門医)は委託っぽいとは聞いていました。以下の動画を見ると、オーストラリアやイギリスは委託ができそうですね。源泉徴収はされてそうです。


 まぁなんとなくですが、いわゆる研修医や専門医をとる前のトレーニングの人は雇用であるべきと思います。労働法が適応されるべきと思います。ここはあまり異論はないように思います(一部の老害爺除く)。問題は専門医たちでしょう。個人的には専門医たちは委託でもいいように思います。これからの日本の労働法や慣行がかわることはあるのでしょうか。

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