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長屋の建替えは慎重に!


皆さん、ご無沙汰しています。コロナの影響ですっかり記事の更新が途絶えておりましたが、またコツコツ記事をあげていきたいと思っていますので、よろしくお付き合い下さい。

さて、今回は、長屋(連棟式住宅)の建替えについて考えていきます。

長屋とは、建物構造が一体となった複数の住宅のことで、外からみると屋根や壁の全部または一部が繋がっています。以下の写真のような建物ですね。

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長屋の権利関係(土地、建物の所有権など)は様々で、建物全体が一つの建物として登記されている場合や、分譲マンションのように区分所有となっている場合、住戸ごとに登記されている場合などがあります。

長屋は古くなっているものも多く、今の住人が建替えを考えることもありますし、売りに出ている長屋の一戸を購入して、取り壊した上で新築したいと考える人もいます。

ですが、長屋はお隣さんと屋根や壁、柱を共同で使用していますので、取り壊すとなるとお隣さんの住戸にも当然影響がありますし、強度が弱くなってしまったり、雨漏りが生じたりすることもあります。

そのため、お隣の所有者さんに取り壊しについて同意をもらう必要があります。お隣さんが同意してくれないと工事を進められないので、取り壊し後にはお隣さんの壁や屋根を綺麗にやり替えるから、なんとか同意していただけませんか??とお願いに行くわけです。そして、お隣さんから同意をもらえたら、一安心して、解体工事ができる!と新築に向けて意気揚々となることもあるでしょう。

ところが、長屋が区分所有になっている場合は、ここに落とし穴があります。

区分所有になっている場合は、区分所有法という法律が適用されることになり、建物を切り離して建替える場合には区分所有者の5分の4以上の賛成が必要となります(区分所有法62条)。

え!?取り壊しによって影響を受けるのはお隣さんなのだから、お隣さんの同意があれば良いのじゃないの!?と思われるかもしれません。実際に他の区分所有者に影響がなければ問題となることも少ないかもしれませんが、長屋は、壁や屋根が一体となっていることから、お隣さん以外の区分所有者にも影響が出てくることは否定できないのです。

実際に区分所有となっていた長屋の一部を切り離して建替えをした後、他の区分所有者らから訴訟提起された事件があります。


東京地判平成25年8月22日判時2217号52ページ

この事件の概要をみてみましょう。

被告が長屋の一部を所有していました。もう少し詳しく言うと、土地は分筆されて長屋の所有者各自が個別に所有していますが、土地の上の建物は区分所有建物となっています。

被告は、自らの所有土地上の区分建物を切り離して取り壊し、新たに建物を建てました。

そうしたところ、他の区分建物に亀裂が生じたり、雨漏りが生じたりしました。また、被告の区分建物が切り離された後の残りの区分建物全体が建築基準法上違法建物となってしまいました。

このような状況を受けて、他の区分所有者らが被告に対して、新築建物の除去及び被告所有地の明渡し、損害賠償などを請求しました。

裁判所の判断はやや難解ですので、詳しい説明は省きますが、判断内容を簡単にいうと、①基礎や屋根、外壁、柱などは共用部分に該当する、②それらの共用部分は、本件敷地全体にまたがって設置されており、各区分所有者は、共有部分の持分を有することにより、他の区分所有者の土地を占有している、③他の区分所有者の土地の占有権原は賃借権である、④被告が区分建物を切り離して取り壊し、新築建物を建築したことは、残存する区分建物の共用部分を失わせ、違法建築物とするととともに、将来の建替えの際の敷地を減少させるものであるから、区分所有者の共同の利益に反する行為(区分所有法6条1項)にあたる、⑤被告の切り離し工事によって、他の区分建物の雨漏り等が生じており、被告は他の区分建物に損傷を与えないために必要な措置を執る注意義務を怠ったというべきであり、不法行為責任を負う、というものです。

これにより、結論として、被告の新築建物の収去と損害賠償が認められました。

本件は、切り離し工事から13年後に提訴されており、それまで収去等が求められたことはないという事案でしたが、裁判所は消滅時効の適用を一部否定し、また、切り離し工事に関して他の区分所有者からの同意があったものとは認められないと認定しています。

被告としては、切り離し工事前に一応各所有者に簡単な説明を行っており、特段異議もなかったことから、問題なく新築工事をすることができると考えていたのでしょうが、このような結果となり、大きな不利益を被ることになりました。

いやぁ、なかなかシビアです。。。

このように、長屋の建替えを考える際には、必ず登記を確認しておく必要があります。そして、もし区分所有となっている場合は、区分所有法に則り区分所有者の5分の4以上の賛成をもらうように注意深く進めていくことが大切になります。

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