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2023/03/17 インターネット最高

インターネットクリエイターのにゃるらがプロデュースするゲーム「NEEDY GIRL OVERDOSE」のイメージソング・2曲目が公開された。

公開されてから、もうかれこれ10回以上はMVを再生している。だって良すぎるから……。

まず、そもそものゲームについて少し説明したい。

NEEDY GIRL OVERDOSE(以下、NGOD)はちょっといろいろ不安定な女の子「あめちゃん」が「超絶最かわ天使ちゃん」というガワで配信活動を行うのを「ピ」としてサポートするマルチエンディングADVだ。
超絶最かわ天使ちゃん、通称「超てんちゃん」はインターネットエンジェルとして登録者数100万人を目指しているが、いろいろ不安定な彼女のプロデュースは前途多難。たまに危ないオクスリピとのエッチな荒療治をしながらも、ピと一緒に最強の配信者を目指していく、という物語。

なんとなくのイメージは下の動画を見てもらえたら掴めると思うが、結構サイケデリックな感じだからちょっと注意が必要。
でもこのゲームにはずっとサイケデリックさが付き纏っているのでこのPVは正しい。こういう雰囲気が好きな人は多いので、ターゲットのハートをガッチリ掴んで離さない。


Vtuber・剣持刀也の大ファンである友人の薦めで彼のNGODのゲーム配信を見たのが、このゲームプロジェクトに興味を持ったきっかけだった。
配信以前からにゃるらがなんかゲーム作るんだ〜お久しぶりさんがキャラデザ担当なんだ〜くらいの関心は持っていたものの、ちゃんと触れてはいなかった。

友人は剣持刀也について知って欲しかったのかもしれないが、結論私はNGODそのものにめちゃくちゃ惹かれてしまった。

ヴェイパーウェイヴ的なデザインから平成の懐かしさを感じるグラフィック。とにかく可愛い主人公、「これにゃるらやりたかったんだろうな……」と思うほどの細かい【病み】の描写。
その中でも特に惹かれたのが、このNGODのテーマソングだ。

「INTERNET OVERDOSE」、間違いなく2021年のインターネットを彩った音楽に数えられる一曲だろう。

作曲はにゃるらの友人のAiobahn。歌唱はKOTOKO。ちょっとインターネットにかぶれたオタクなら「マジで!?」となる布陣だ。
そして私も例に漏れずインターネットにかぶれたオタクなので「マジで!?」となった。

最初私は「KOTOKO」の文字を見落としていて、てっきり超てんちゃんのイメージに近い歌手が歌っているのかと思ったら全然イメージと違う声が聞こえてきたのでビックリした。
しかし聞いていけばどこか聞き馴染みがある。そして「いいね よくないね 君にとっては毒だね」のパートでとうとう「KOTOKOじゃん!!!!」と気付いたのだ。

電波ソング・アニソンの女王、というか、なんと言えばいいのか分からないが、彼女はとにかく平成のアニメを代表する歌手なのである。
平成らしさを感じるポップでノスタルジーなメロディをKOTOKOが歌っている。インターネットエンジェルという実在性の薄いキャラクターの歌を、KOTOKOが歌っている。

これ、本気(ガチ)だ……。

自分の浅はかな思考を悔いた。この曲を歌えるのはKOTOKOしかいない。

一時期毎日聴いていた。今日の日記はこの曲がメインではないので程々にしておきたいが、この「INTERNET OVERDOSE」の良さを語らねば次の「INTERNET YAMERO」には繋がらない。
アイオバーンの作るメロディ、どこかで聴いたことあるような気がする懐かしさを彷彿とさせるのに、どこで聞いたのかは微妙に思い出せないような不思議さがある。新しさと懐かしさの塩梅が完璧だ。

そして、今作「INTERNET YAMERO」。

にゃるらがこんなことを言い始めた頃からもうワクワクドキドキが止まらなかった。独り占めすんな、早く見せてくれ! そう思いながらMV公開の時を今か今かと待ち侘びていた。

そして3/17 0:00、新曲公開。

マジで良い…………!!!!!!

インターネットの過剰摂取だった前作に対し、今回のテーマはインターネットからの断絶。けれどインターネットエンジェルである超てんちゃんは、最後の最後で「インターネット最高!」と高らかに歌うのだ。

めちゃくちゃ良い……。
正直前作が好きすぎて「アレは越えられないだろうな」と思っていたところがあった。けれどなんのその、簡単に飛び越えてきやがった。いやこの曲を作りあげるなんて決して簡単では無かっただろうけど。

まず歌詞について。

インターネットエンジェルという現象は
仮定された有機交流電燈の
かわいい虹色の照明です ぶいっ
(あらゆる透明なアカウントの複合体)

これは歌い出しの歌詞なのだが、文学が好きな人はすぐにピンと来るだろう。
宮沢賢治の詩集「春と修羅」序文のパロディだ。

わたくしといふ現象は
仮定された有機交流電燈の
ひとつの青い照明です
(あらゆる透明な幽霊の複合体)
宮沢賢治『春と修羅』序文より

講義でこの「序文」の解説を学んだのだが、うっすら朧げにしか覚えていない。
たしか、「わたくし」とは「わたくし」の心象が組み合わさって成り立つもので、そこから生まれる「わたくし」の現象はこの世界に仮定された心象の一つを照らす青い照明……みたいな感じだったと記憶している。とにかく、自分というものは確かに存在しているのではなく、ただの透明な幽霊が複合したものの現象でしかないという概念的な考えだ。
けど、この講義を受けてから随分時間が経ったのでかなり自分の解釈も含まれているような気がする。全く見当違いなことを言ってたら恥ずかしいな。

私は宮沢賢治の詩が好きなので、なんだか嬉しくなった。もしかしたら、こうやってすぐに「ははん、あの作品のパロディだな?」と気付くことができるように勉強をしなくてはならないのかもしれない。
しかしなぜ賢治の詩を?にゃるらのnoteにその答えはあった。

インターネットやめろと言っているのだから、ネットと正反対のことを言うべきだ。では、インターネットの真逆の概念とはなんだろう。と考えた先に出てきたのが宮沢賢治でした。賢治なんて絶対にインターネットのカオス感と相容れないものでしょう。雪細工のように繊細な詩情性とSNSは最も遠いものだと直感した。もちろん、こんな感覚を正しく言語化できないし、しない方がいい。とにかく僕にとっては、スマートフォンを遠くに置いて賢治の詩を諳んじる時間が一番「インターネットをやめている」清らかな瞬間なのです。

わ、わかる。
そしてこの詩は石川啄木でも荻原朔太郎でも三好達治でもダメだ。東北のしんと透き通った空気を感じる、自然を愛した賢治の詩じゃないとダメ。そう思ったらなんだかこの曲を少し深く理解できているような気持ちになって、ちょっと嬉しくなった。


歌詞について触れたい部分はもっとたくさんあるのだけど、とりあえずあと一つだけ。「マイスリー」という言葉の使われ方だ。

マイスリーとは睡眠薬のことだ。曲の中で、マイスリーは二度登場する。

かけめぐるエクスタシー
融けるマイスリー
画面光り出すの
不安止まらないよ
ほとばしるエクスタシー
甘い夢を見せてマイスリー
指先で感じる
踊る電子の海 インターネット・ボーイ

前作の「INTERNET OVERDOSE」でも薬の名前は登場した。しかしそれはマイスリーではなく、精神安定剤の「デパス」だ。

まるで天使のように微笑む
強めの幻覚 Internet girl
そして悪魔みたいにささやく
アナタだけのデパス Needy girl

前作、超てんちゃんはオタクにとっての「デパス」だった。つらかったことを全部忘れさせて上書きしてくれる、まさに「アナタだけのデパス」な存在。
しかし今作は違う。超てんちゃんは躁鬱患者なのだが、その様子が歌詞にも表れているだろう。かけめぐる、ほとばしるエクスタシー。けれど融けていくマイスリー。
超てんちゃんはオタクに甘い夢を見せるデパスだけど、同時に彼女にも甘い夢を見せるマイスリーが必要なのだ。

う、上手い。前作と今作の結びつけ方が上手い。前作は超てんちゃんがオタクに夢想的なインターネットを照らし過剰摂取させるような曲だったけれど、今回は超てんちゃんの内面にグッと踏み込んだ一曲になっているのだ。


次は楽曲に関して。
アイオバーンの作曲センスは無限の可能性があるな……と思っていたのだけど、今作を聞いてなんだかいっそ末恐ろしくなってしまった。

前作はゲームのテーマソングとして、プロモーションの一部を担っていた。成功するか分からない、受け入れてもらえるか分からない中でこのゲームのインパクトをターゲットに植え付けるための施策の一つが、「INTERNET OVERDOSE」だった。
受け入れてもらわねばならない。だから、前作はインターネットのカオスを表現しつつも万人寄りなメロディで構成されている。人に好まれやすく、歌われやすい曲だ。

しかし今回は土台が違う。NGODは多くの人にプレイされ、大ウケしたのだ。その中で出す曲に、万人受けなど無用。にゃるらとアイオバーンが本当にやりたかったことを全力でぶちまけに来たのだと、即座に分かった。

この曲は二つサビがあるのだけど、実質的なサビはラスサビのみだ。一つめのサビはなんだかストンと落ち着かず、盛り上がりはすれど同時に聴く人のフラストレーションを高めていくメロディだ。なんかモヤモヤする。
そして「インターネット最高!」という叫びを皮切りに、極限にまで高まったフラストレーションを一気に解放するのだ。凄い。英断。

この楽曲構成はofficial髭男dismの「ノーダウト」などでも見られるものだ。一曲通して実質的なサビを一つしか用意しないのは珍しい、から面白いしだからこそできる演出がある。
例えば、先ほど「マイスリー」について触れたがあれはどちらもサビに登場したものだ。ただ、「かけめぐるエクスタシー 融けるマイスリー」よりも「ほとばしるエクスタシー 甘い夢を見せてマイスリー」の方が上位互換的なのは明らかだろう。この曲は、全てがラスサビだけにめがけてダッシュしている。

そのラスサビに向けて挟まる、超てんちゃんの叫び声が響くパート。インターネットのカオスを表現しているが、結構刺激的だなぁと思うもなんだか聞き覚えがある。何だろうと考えてみて、すぐにピンときた。

大森靖子の「ミッドナイト清純異性交友」の落ちサビ前だ。

まるで点と点がつながり線になったような感覚に陥った。だって超てんちゃんって絶対大森靖子聴いてるしミッドナイト清純異性交友もカラオケで歌ってるでしょ……。不安定な女の子は叫ぶのだ、と謎に納得がいった。私にとって不安定な女の子の象徴は大森靖子だったから。

そして一番最後、畳み掛けるように「逝ってヨシ!」「キボンヌ」「ぬるぽ」「久々にワロタ」「>>1の母です」「半年ROMれ」「禿同!」などネットスラングが飛び出す。凄い。今日日めったに見られないようなネットスラングもある。「香具師」とか、今のネットユーザーにどれぐらい伝わるのだろうか。

まるでニコニコ動画のコメントのように、ネットスラングが頭の中を通り過ぎていく。その一つ一つが懐かしくて愛おしくて、私たちも「インターネット最高……」となってしまうのだ。

そして怒涛の「好き」。完全にコレはKOTOKOの代表作「さくらんぼキッス〜爆発だも〜ん〜」を意識している。めっちゃ聞き覚えあるもん!!

オイ!! にゃるらがやりたかっただけだろ!!!!

そして曲は終わる。シークバーに目をやれば、示す時間は4:04だ。もちろんオマージュ元は有名なエラーコード「404」。どこまでもインターネットが詰まっている。


凄すぎる……。
こんなに「やりたい」を詰め込んで形にして成功させているのはシンプルに凄いとしか言えない。流石だ。MVも物凄く気合が入っていて、途中の悍ましい画像はAIが生成したものなんだそう。現代と一昔前が上手く混ざり合ってカオスを生み出している。


ちょっと凄すぎるかもしれない。本当に凄い曲を聞いた。たった一曲の話をするのに5000字も使ってしまったが、それほど凄い曲なのだ。ぜひ聞いてほしい……。

しかしこんな曲に出会うことができたのもインターネットの賜物なのだ。インターネットにはこんな風に良いカルチャーとの出会いがそこらじゅうに転がっているからやめられない。
インターネット最高! と、超てんちゃんと一緒に叫びたい気持ちになった。インターネット最高!

というわけで。
ぽまいら、読んでくれてサンガツ!w

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