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birthday

今日、ひとつ、歳をとった。

立派なアラサー、20代ももうすぐ終わり。「若いねえ」と言われなくなる日はもうすぐだ。ずっと、生き急いできたような気がする。なんでも欲しがり、なんでも捨てた。欲は無限の使い捨て、若さをもてあますうちに消費してしまう。大人が言う「今を大事にね」なんて、聞こえないふりして走ってきた。

けれど、今になるとよく分かる。自分が若さを無駄遣いしていたことや、向こう見ずだったこと。危なっかしくて見てられなかっただろうことも。今思えば恥ずかしいことは、それはもうたくさんあるし、時々思い出してはウッ…と情けない声をあげている。若さって怖いなあ〜とつぶやく夜も。

それでも、あの頃が無駄だったなんてひとつも思わない。やっぱり、どんなにくだらなくても、どんなに恥ずかしくても、わたしが生きてきた証だから。

誕生日に特別なことはなにもなかった。空から蛙は降って来なかったし、薔薇の花束をくれるひともいなかった。そしてまた、当たり前のようにどこかでは人が死に、人が生まれている。戦争の足音は遠くで聞こえるし、悲しくて泣き止まない赤子の声もする。それと同じくらい、平和を願うひとの声も、公園の笑い声も。

わたしたちが生きる人生という名の道は、はるか昔から続いている地続きの道だ。昨日の延長線、明日がやってくる"普通の今日"。ただの日常は、なにより愛おしくて、なにより奇跡だ。

「執着」や「自意識」みたいなものを毎年脱ぎ捨てて、身軽になってゆく。それは、いつか迎える道の終わりへ走ってゆくためなのかな、なんて思う。たくさんつけていた鎧を捨て、傷だらけになりながら振り回していた刃物を捨てて。ひとつひとつ脱ぎ捨てて、自分らしくなってゆく。道の途中で出会えるたくさんのひとから得た愛だけが、わたしの腕の中に。そうしていれば、いつかたどり着くゴール。その頃には愛と感謝で包まれて、幸せに眠れる。今はそんな風に思う。

痛みも傷も、たくさん味わってゆきたい。その度に優しくなれる気がするから。だから、これからもたくさん傷ついてゆこう、たくさん悲しんでゆこう。そして、いつかあなたに会えたらあなたを力いっぱい抱きしめよう。

ずっと世の中に立てていた中指を、そっとしまって開いた手のひらで。自分を抱きしめて、あなたを抱きしめたい。なにかを憎むんじゃなく、愛せるように。

こんなことばかり言っていると、説教くさくて昔のわたしに笑われそうだ。つまんない!なんて蹴飛ばされてしまいそうだけど、歳を重ねることは愛の数を知ることだから。いろんな形がある愛を、無数にある愛を。

あなたに教えてもらった愛を抱きしめて、わたしは明日からもこの世界で生きてゆこう。いからせていた肩を下ろして、時々孤独に溺れながら、絶望と踊りながら。孤独は消えることはないけれど、愛も消えることはないから。ひとりぼっちではないことをいつも教えてくれてありがとう、そうあなたにいつか伝えよう。そのために、わたしは駆け抜けてゆこう。

あなたが生まれてきてくれたこの時代に、わたしも生まれることができて、ほんとうによかった。伝えきれない愛と感謝を、心から込めて。

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