TSUJINO YUKI

辻野裕紀。九州大学大学院准教授。言語学、韓国語学。文学関連の仕事も。人文学一般、医療、…

TSUJINO YUKI

辻野裕紀。九州大学大学院准教授。言語学、韓国語学。文学関連の仕事も。人文学一般、医療、アート等も関心領域。博士(文学:東京大学)。著作に『形と形が出合うとき』(九州大学出版会)など。撮影:松本慎一。 https://twitter.com/bookcafe_LT

最近の記事

スルーする力

昨今「スルー力」ということばが頻聞されますが、それは比較的最近のことではないかと思います。この「スルー力」というのは、パラフレーズすれば「受け流す力」「無視する力」ですよね。そして、スルーする対象は他者からの批判だったり、悪口だったりというのが主なものでしょう。これは多くの人がそれだけ他人のことばに傷ついているということでもあって、〈ことば〉〈言語〉を日々専門的に考えている者としては、思うところがいろいろありますが、結局、これは「他者からどう見られるか」とか「人に好かれたい」

    • わたしとはわたしの環境である

      今年の6月から音声プラットフォームVoicyで「生き延びるためのことばたち」という番組を配信していますが、Voicyでのトークは、日頃の大学の講義や学会発表、講演、対談などで話すときとは、決定的な違いがあります。それは、端的に申し上げて、聞き手の顔が見えるか見えないかという点です。美学者の伊藤亜紗氏は『どもる体』という本の中で、吃音の人は、独り言だとどもりにくく、モノローグのほうが話しやすいというようなことを書かれていて、それも感覚的に分かる気がしますが、一方で、聞き手が眼前

      • 『あいだからせかいをみる』あとがき一部公開

        10月末に生活綴方出版部より刊行された『あいだからせかいをみる』(温又柔+深沢潮+辻野裕紀)の辻野裕紀による「あとがき」の一部を版元の許可を得て公開します: ==========  最初の対談から早くも七年が経過した。そして、その間にはコロナ危機のように、社会のありようを根底から変える出来事もあった。概して〈多様性〉に対する社会の意識が高まり、マイノリティへの集合的関心が少しずつ醸成されてきたことは、この時代のメルクマールとして記憶されてよいだろう。一方で、偏頗な僻論が未

        • Voicy始めました

          先月からVoicyを始めました。活字人間でラジオには縁遠く、実はVoicy自体、最近まで知らなかったのですが、偶然にも複数の友人知人に近い時期に勧められ、これは何かのご縁だと思ってその気になって応募してみたら、すんなりと通りました(採用率約5%だそうです)。やはり何かのご縁なのだと思います。もしよかったら、視聴、フォローのほどお願いします。基本的には毎週水曜日22時に配信ですが、視聴はいつでも可能です。詳細は下記をご覧ください: https://r.voicy.jp/5P9

        スルーする力

          PASSAGE by ALL REVIEWSに出店したわけ

          神田神保町のPASSAGE by ALL REVIEWS(3階のPASSAGE bis!)に今年4月から「辻野裕紀の本棚」を出店しています。最近、販売用の書籍に加え、無料のリーフレットも本棚に置いています。ぜひ足を運んでみてください。以下、リーフレットに書いた文章より。 ========== はじめまして、辻野裕紀(つじの・ゆうき)と申します。「辻野裕紀の本棚」にお立ち寄りくださいまして、ありがとうございます。 私は言語学を専門とする大学教員です。高校時代は理系で医師や数

          PASSAGE by ALL REVIEWSに出店したわけ

          朝日出版社「あさひてらす」連載「母語でないことばで書く人びと」(辻野裕紀)がスタート

          朝日出版社のwebマガジン「あさひてらす」の連載「母語でないことばで書く人びと」(辻野裕紀)が本日スタートしました。毎月30日更新予定です。 この連載は、言語学者である著者が、自らに与えられたことば以外で創作する人びとの営みを見つめることで、言語についての考えを深めていく、創作とことばに関心のあるすべての人に贈る、思索エッセイです。(編集部記) 第1回「非母語という希望:言語論と文学の交差路へ」

          朝日出版社「あさひてらす」連載「母語でないことばで書く人びと」(辻野裕紀)がスタート

          白水社webふらんすの連載「歴史言語学が解き明かす韓国語の謎」(辻野裕紀)がスタート

          白水社webふらんすの連載「歴史言語学が解き明かす韓国語の謎」(辻野裕紀)がスタートしています。毎月10日・20日更新。 歴史言語学の視座から韓国語を腑分けし、その様々な「謎」を解き明かそうとする試みです。歴史言語学とは、言語の変化を通時的に研究する言語学の一分野。韓国語学習の過程で誰もが逢着しうる種々の疑問群を丁寧に解説しつつ、言語学という知の沃野へといざないます。 第2回:濃音と激音の起源 第1回:序論

          白水社webふらんすの連載「歴史言語学が解き明かす韓国語の謎」(辻野裕紀)がスタート

          自著を語る『日韓の交流と共生:多様性の過去・現在・未来』

          *『CROSSOVER』48(九州大学大学院地球社会統合科学府、2023年3月)の「自著を語る」というコーナーに、昨年8月に出た共編著書『日韓の交流と共生』(九州大学出版会)をめぐる文章を寄稿しました。大学の広報誌という、やや手に入れにくい媒体ですので、多くの方々に読んでいただけるよう、noteにも貼り付けておきます: ==========  『日韓の交流と共生:多様性の過去・現在・未来』(森平雅彦・辻野裕紀・波潟剛・元兼正浩編)は、九州大学韓国研究センターの分野横断プロジ

          自著を語る『日韓の交流と共生:多様性の過去・現在・未来』

          『愛しなさい、一度も傷ついたことがないかのように』書評

          東洋経済オンラインに寄稿しました。『愛しなさい、一度も傷ついたことがないかのように』の書評と、韓国における詩の位相についてです。ご笑覧ください。 https://toyokeizai.net/articles/-/625588?display=b

          『愛しなさい、一度も傷ついたことがないかのように』書評

          新刊『日韓の交流と共生:多様性の過去・現在・未来』

          本日,『日韓の交流と共生:多様性の過去・現在・未来』(森平雅彦・辻野裕紀・波潟剛・元兼正浩編,九州大学出版会)が発売される. 中世の日韓海域交流から現代映画,ヘイトスピーチまで,日韓関係の中でも「現場」レベルの活きた交流の多様性に注目した,15名の豪華執筆者の手になる,最新の綜合的論輯である.研究者のみならず,弁護士や作家などの論攷も含まれる.交わればこそ直面するシビアな現実の中でも歩みをとめない人々の姿に光をあてた書.〈歴史〉〈教育〉〈言論・文学〉という3つの学術的パース

          新刊『日韓の交流と共生:多様性の過去・現在・未来』

          師弟関係と厳しさについて

          以前、苫野一徳氏の論考を引きつつ、「教師の仕事の本質」を〈信頼〉〈忍耐〉〈権威〉の3点を良い教師の資質とし、このうち〈権威〉が最も重要だと、拙論に書いたことがある。ここでの〈権威〉とは勿論、保身のためのさもしい夜郎自大でもなければ、学生を萎縮させるような恫喝や打擲でもない。知的な人品骨柄の中に胚胎する、相手を畏怖させる力である。学問的な鋭利さには常に威圧感が伴う。優れた研究者に接すると、その鋭さゆえに醸し出される独特のアウラに気圧されるのが常である。その深層にあるのは、自らの

          師弟関係と厳しさについて

          本を読むこと、買うこと、所有すること

          昔からそうだが、常に5, 6冊の本を平行して読んでいるので、どの本に書いてあったことかよく混乱する。一部分しか読まない本もあまたある。書評やブックトークのためでなければ、性格的にも時間的にもそういう読み方しかできない。だが、こうした多動的で複線的な読書は、本同士の緩やかな連なりを体感させてくれ、それなりに実りも多い。 背表紙しか読んでいない本も多いし、持っていないと思って買ったら持っていたり、持っているはずの本が見つからず買い直してあとから出てくることも日常茶飯事。ルーズに

          本を読むこと、買うこと、所有すること

          自著を語る『形と形が出合うとき:現代韓国語の形態音韻論的研究』

          *『CROSSOVER』47(九州大学大学院地球社会統合科学府、2022年3月)の「自著を語る」というコーナーに、昨年12月に出た拙書『形と形が出合うとき』をめぐる文章を寄稿しました。大学の広報誌という、やや手に入れにくい媒体ですので、多くの方々に読んでいただけるよう、noteにも貼り付けておきます: ==========  2021年12月、九州大学出版会より『形と形が出合うとき――現代韓国語の形態音韻論的研究――』を上梓した。第12回九州大学出版会学術図書刊行助成対象作

          自著を語る『形と形が出合うとき:現代韓国語の形態音韻論的研究』

          オンライン面接と「圧」

           昨日、今日は大学院修士課程の入試だった。言語科目、専門科目、面接、すべてがオンラインで実施された。  対面面接とオンライン面接とでは何が違うのか。それは、端的に言って、面接官の「圧」の有無である。オンライン面接には「圧」がほとんどない。いわゆる「圧迫面接」が云々という話ではなく、人間はただ現在するだけである種の「圧」を発していて(「オーラ」とか「独特の雰囲気」などとパラフレーズしてもよい)、それが力のある人物であればあるほど、眼前の人間は勝手にその「圧」を強めに感じ取ってし

          オンライン面接と「圧」

          2022年を迎えて

           明けましておめでとうございます。  昨年は我ながらよく働いたと思う。教務委員長や学会の事務局長、編集委員長など、慣れない仕事をこなしながら、単著を出し、論文や雑文も何本か書けた。頻繁な出張に加え、もろもろの雑務がとにかく多かった。トークイベントもいくつか企画し、またゲストとしても何度か登壇したりした。もちろん、日々の授業や論文指導をゆるがせにすることなく。そんな中で、新たな嬉しい出会いもあった。一方で、大人になって初めての入院を経験し、終始体調には恵まれなかった。あまり表

          2022年を迎えて

          新刊『形と形が出合うとき:現代韓国語の形態音韻論的研究』

          拙書『形と形が出合うとき:現代韓国語の形態音韻論的研究』(辻野裕紀著、九州大学出版会、2021年12月)がまもなく発売になります: 【内容紹介】  本書は、韓国語の形態音韻論的現象を研究の俎上に載せ、その態様を描出せんとするものである。音素、音節、形態素、単語――形と形――がおのおの接合すると、いかなる現象が生起し、その背後にはいかなる原理が伏流しているのか。これまで存在自体は知られていても、十分には考検されてこなかった現象群を具に剖析することによって、韓国語の興味深い様々

          新刊『形と形が出合うとき:現代韓国語の形態音韻論的研究』