クロゴマルコとシロゴマルコ(第1話)

2022年6月。

僕は、ずっとモヤモヤしていました。

チーズマルコを作らせていただき、その一番の恩人である
西村製菓所さんの社長さまはもちろん、奥様にもお会いできず、
お礼すら、直接申し上げることができていませんでした。

お電話で、初めてご連絡させていただいてから
約1年が経とうとしていました。

その日は、友人たちと大阪の枚方でゴルフでした。
ゴルフの成績は散々で、ゴルフを辞めようかと思うほど、
気が滅入っていました。

帰り際、車のエンジンをかけた瞬間、ふと思ったのでした。

(ここから西村製菓所さんって近いのかな?)

スマホで検索すると、車で4分と出ました。

(え?)

気がつくと、僕は西村製菓所さんの前に車を駐めていました。

黒いカメラ付きのインターホンがあります。

会ったこともないのに、事前の連絡もしていないのに、
こんなことして、いいんだろうか。
飛び込み営業をしていたころの感覚を思い出します。

勇気を込めてボタンを押しました。

しばらくすると

「はい。」

と奥様の声がします。

(辻と申しまして…)

そう言おうとした瞬間、

「あれ? 辻さん?」

「あ、はい。辻です」(なんでわかったのかな)

「あの、突然なのですが、ご挨拶だけでもさせていただきたくて」

「あぁ!ちょっと待ってくださいね!」

すぐに奥様が出てきてくださいました。

初めてのご対面です。

お電話での印象通り、優しそうな方でした。

その印象を受けて、僕は少しホッとしました。

「いつも大変お世話になっている辻です。
 今日、近くのゴルフ場に来ていたものですから、
 せめてご挨拶だけでもと思い、すみません急に。」

頭を下げる僕に、「いえいえ何を!」と、
急な突撃であるにも関わらず、素敵な笑顔で
明るく振る舞ってくださいます。

「主人は今、おせんべいを揚げてるので、
 あと15分ほどお待ちいただければ、
 ご挨拶させていただけますが、お急ぎですか?」

「待ちます!(何時間でも!)」

僕は叫んでいました。

15分は、とても長い時間に感じました。

どんな方なんだろう。想像がまったくできません。
急になんだ!と嫌な気持ちになっておられないだろうか。
忙しいのに無礼なやつだ、と、もうチーズマルコを
お分けいただけなくなってしまうと、どうしよう…
そんなことになると寂しすぎる。。
不安が増幅していきます。
下を向き、今日訪問したことを後悔し始めた頃、

ガラッと工場の扉が開きました。

白の上下作業服に白いマスク、頭にはギャザーキャップ
(衛生上のネット)を被っておられる方が現れました。

その姿を見て、しまったと思いました。
そしてすぐに謝りました。

「作業中なのに、本当に申し訳ございません!」

「どうもはじめまして。西村です。
 こちらこそ、いつも大変お世話になっています。」

西村社長は優しく微笑んで、ご挨拶をしてくださいました。

ゆったりとした話し方は穏和な性格を醸し出しています。

僕は感激しました。

(この方が、チーズ万月を作っておられる方なんだ・・・)

「こちらこそ突然の訪問に加え、いつもお世話になり、
 素人の私にも色々と教えてくださり、本当に感謝しています。」

挨拶をさせていただくと、西村社長は、色々と話をしてくださいました。

今、揚げているおせんべいのこと、
チーズ万月の材料の馬鈴薯やナチュラルチーズのこと、
僕が気にしていた着色料のこと、
チーズマルコを扱ってくれて面白いと感じていらっしゃること、
そして、様々なおせんべいの味にも挑戦していることなど。

10分ほどのお時間でしたが、僕にとってはかけがえのない時間になりました。

作業途中だったこともあり、社長は工場に戻られ、
奥様がお土産のおせんべいを、持たせてくださいました。

急な訪問に申し訳なさを感じつつも、
僕は帰りの運転中、ずっと幸せを感じていました。

社長と奥様に会えて、ご挨拶でき、お二人共がとても素敵な方で、
突然で申し訳なかったけど、勇気を出して伺ってよかったと思いました。

僕の顔をインターホンで気づいてくださったのは謎でしたが、
多分、SNSなどで僕の投稿を見てくださっていたのかな、
と妄想しながら難波までのドライブを楽しみました。

さっきまでのモヤモヤは一気に晴れ、
散々なスコアはどこかに吹き飛び、
ゴルフやっててよかった!と、ゴルフに感謝すら覚えました。

その2週間後でした。奥様からLINEがありました。

「主人がお食事でもご一緒にと言っております。」

僕はスマホを片手に子供のように飛び跳ね、喜んだのでした。

(つづく)

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