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小説『洋介』 15話

 春休みが終わり二人は6年生になった。
去年に引き続き、彼女と同じクラスになった。
と言っても、そもそも2クラスだけしかないので、確率は50%。驚くほどのことでもない。
発表の時に小さくガッツポーズはした。

 新しいクラスでも彼女は人気者だった。
わいわいと楽しそうに、囲まれている。
やっぱすごいな。
その光景を眺めながら、僕は教室の隅でぼーっとしていた。
時々、前の席の洋ちゃんが話しかけてくれた。
春、ゆったりと時間は流れていった。

 洋ちゃんこと洋介は、落ち着いていて、言葉数を要せず理解し合える数少ない男友達だ。
時々すごく面白いことを言う。
そんなところが大好きだ。

 洋ちゃんが前の席になってすごく嬉しかった。
最近、ラッキーが周りに集まってきている気がする。
へへへ。


 そういえば一年半ぐらい前のこと。
ふと不安の心がふくらんで、居ても立っても居られない時があった。
 ニュースで日本にミサイルが飛んでくるかもしれないと騒いでいた時期だ。

「今、外国からミサイルが飛んできて学校が爆破されたらみんな死んでしまうやないか。
 どうして、みんなそんなに明るく笑ってられるんや。死ぬのは怖い」

 そう思うのが止められなくて、ずっと気分が沈んでいたことがあった。
どうしようもなく苦しかった。
考えないようにするしかないのか、いやや、そんなことできへん。

死にたくない。
死ぬのが怖い。
不安が止まらない。
人は死が怖いのだ。
死にたくなくて頑張るのだ。
死ぬのが怖くて死にたくなるのかな。
闇に続くスパイラルを延々と降っていった。

どんどん心は重くなっていって、広い空を見ても広く感じることができなくなった。
それが何日も続いた。

 しばらく経つと、そんなことは自然と考えなくなった。
知らぬ間に楽になっていた。
答えをあきらめたとかではなく、なにか楽しいことがあって忘れてしまったのかもしれない。
自然とスパイラルから抜け出していた。

 秋には人を深く考えさせる力があって、人は試されるのかもしれない。
解決できるか、じゃなくて、その時期を乗り越えられるか、を。

 その後、また来た秋に、夕日の力に出会えた。
今、その不安はない。
夕日の力に包まれたからかもしれない。
守られているって感じるんだ。不思議と。

苦しかったあの時に求めていた答えは、
あのときの願いは、
忘れた後に叶えられて、
それで今の喜びに繋がってるのかもしれない。
あの時のモヤモヤは無駄じゃなかったってことかもなぁ。

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