小説「洋介」 6話
次の日の学校。女子に話しかけられた。
「なぁ、昨日河原おらんかった?」
ギクリ。なんとなく嫌な気持ち。
河原の練習のことを知られたら自分の世界に集中できなくなる。
「いやまぁ帰り道やし」
ちょっとぶっきらぼうになってしまった。
「ふーん。なにしてたん?」
「べ、別に。ただ河原すきやねん」
「そうなん?!私も!」
いきなりテンション上がるやん。
クラスで話すときは関西弁になるんだ。
そのときちょうど授業開始のチャイムが鳴り、その子は僕の方を振り返りながら自分の席に帰っていった。
この子はクラスでも目立つ、明るいつり目の女子だ。
そもそも女子に話しかけられるのが得意じゃない。
なんだかふわふわするからだ。
自分が自分でいられるように生きていきたいのに、
女子はその邪魔をする。
でもなんか嫌じゃないから余計に困る。
普段別に話すことなどない彼女がどうして話しかけてきたのかがよくわからなかった。
ただ目の前でニコニコしていた彼女のせいで、心の凝りが一つ増えた気がした。
なんとなくその日は河原にはいかなかった。
次の日、学校に行くとなぜか彼女は怒っていた。
「なんで、昨日こんかったん?」
意味が分からなかった。
「河原やん!来ると思って待ってたのに!」
意味が分からなかった。
「え、そんな話したっけ?」
「いや、してないけど……」
またチャイムに助けられた。
「今日はきてよ!」
そう言って自分の席にもどっていった。
あまりの急展開にしばらく呆然としていた。
一つ一つ整理しようとしても頭がうまく働かない。
いつもの静まるときの脱力とは、また違った感じの力の抜け方だ。
なんて強引なんだろう。
でも悪い気はしない。
不思議だ。
帰り道、あの日のように思わず笑いそうになって止めた。
なんとなく走りたくなった。
その日は、ときどき走ってときどき歩いて河原に行った。
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