見出し画像

小説 創世記 11章a

11章a

カイ(4章参照)の組織『バビロン』は隆盛を誇っていた。
組の構成員も数百になり、幹部は大きな金を動かしていた。幹部は一緒に住んでいた家族たちだ。
エノが二番手である。

暴力と混沌の世界を生きるカイの日々は、
ソラが死んでから何も楽しくなかった。
それに反して成功は積まれていった。
今や、カイに逆らう者はいない。
バビロンよりも前にあった組織も金と力で黙らせた。

カイの目は灰色に濁った。
あれからたくさん女を抱いた。
恨んでいた貧乏も、もうボコボコにしてやった。
それでも虚しさは晴れなかった。

もういいじゃないか。
おれの家族ももう幸せじゃないか。

「おい、おれたちの塔を建てよう。
 どっからでも見えるようなでっかいの。
 日本中の人間が平伏すぞ。
 名をあげようや」
そう命じたカイは優しい目をしていた。

バビロンは建設業にも手を広げていた。
武器製造には倉庫が必要で、運送業にも倉庫が必要。広告には芸能界が使えた。
街の人たちは怖がってはいたが、平和に店をやれるのは彼らのおかげと感謝もしていた。

一帯の土地を買い占め、
『バビロンタワー』の建設が始まった。
人々は戦後、これほど胸を躍らせることはなかった。
大阪に塔が立つ。それも日本一の。
これでバビロンの名は揺らぐことのないものになる。カイは思った。

「もう、死んでもいいか」
心から声がした。

「この塔がおれとソラの墓や」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?