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夏で鬱で美少年

 税務署から届いた手紙の封は切ることができなかった。
 役所から郵便物が届く、これは精神衛生上非常に良くない。嫌な被害妄想で頭がいっぱいになる。中の書類には一切目を通さずにいるから書かれている内容については分からないけれど、税金やら様々な社会保険料やらの滞納を重ねている私のもとに素敵なお知らせなんて届くはずもない。おおよそのところ、これらの郵便物に記されているのは、お前は人間のクズだと罵るような内容に違いなかった。それはたとえば、こんな文面で。
 「親愛なる世田谷区民Aさま
 ハロー、納税もできない社会のゴミ。
 今日ものうのうと暮らしていらっしゃいますか。良いご身分です。
 この度は、支払いの遅れている税金について注意・勧告の旨をお伝えするためにお手紙を送らせていただきました。
 国民の義務も果たさず、洋服やメイクなどの装飾品および酒やタバコなどの嗜好品にお金をかけるような生活をしていて、あなたは恥ずかしくないのでしょうか。ラブホテルのご休憩代を払う余裕があるのなら、滞納している住民税を早く納めていただきたいものです。
 このお手紙の切手や便箋もタダではないのですよ。骨身を惜しまず働き、血税を納めているまっとうな人たちに足を向けて眠ることのないようにしてくださいませ。
 あなたが一刻も早く健全な社会人生活を送られることを切に願っております。
 LOVE.世田谷税務署」
 ごもっともだ。はよ終われ、私の人生。

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