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「アプリ生活者」400万人のインパクト

2013年頃から景気が悪化し、底を打ったといわれるも経済回復のペースが緩やかで、雇用統計からも労働市場の回復がほとんど感じられないブラジルでは、サービス系アプリを生活の糧とする人が実に400万人にも上るという調査結果が発表されました。

ここで言うサービス系アプリとは、Uberや99といったライドシェアサービスや、Uber Eats、iFood、Rappiといった宅配サービス(出前や商品の配送)に当たります。発注者はアプリで注文を確定する一方で、サービス提供者側は自身の保有だったり借り上げた車・バイク・自転車を用いてサービスを提供します。

その際に仲介するアプリが取引額から一定の手数料を得るもので、サービス提供側はアプリ会社の従業員としてではなく、独立した自営業者として業務を請け負うわけです。

20人に1人がアプリで生計を立てている

ブラジルにあってこの数字がどれくらいのインパクトがあるのか、少し分かにくいかもしれないので、簡単な計算をしてみました。

例えば、ライドシェアサービスでブラジル国内最大手のUberが利用可能な都市数は、ブラジル国内で100を少し超える程度です。それを参考に、人口上位100都市の人口の合計を算出してみると、8,300万人になります

ということで非常にざっくりと言えば、サービス系アプリが利用可能な一定の人口規模のある街に住むブラジル人の、実に5%弱がそれで生計を立てているということになります。

20人に1人ですから、なかなかな数字だと思います。

日本でのこのような統計や調査は見たことがありませんが、さすがに20人に1人となることはないのではないでしょうか。

アプリと不況、治安の関係

以前からこちらにも書いていますが、ブラジルの都市部ではライドシェアサービスが広く普及し、都心部ならばアプリで呼び出して数分も待たずして車がやってくるという便利な状況にあります。しかしこれは、実は不景気による失業率の高さの裏返しでもあったりします

この400万人の中には、失業して仕方なくであったり、あるいは本来の専門職で募集がない、低給与の求人に応募したくない、生活費が年金で賄えないといった理由から、サービス系アプリを通じて得る売り上げに頼らざるを得なくなった人たちの割合が少なくありません。

個人事業主として簡易法人を設立し、アプリからの売上げをその法人で立てると税制上有利になっています。そのため政府の立場から見ると、こうした人々がインフォーマル経済に入っていくことを防げるだけでなく、生産的な存在となることで税収や社会保障財源の確保にもつながるため、サービス系アプリが経済的・社会的に果たす役割は無視できなくなっています。

サービス系アプリが再チャレンジ社会の土台に

広く知られてしまっているようにブラジルの治安は悪い方だとされますが、個人的な感覚では、400万人もの所得源を創出するこうしたアプリのおかげで、これ以上の治安の悪化にも歯止めがかかっているとも感じています

政府が効果的な雇用対策を打ち出せない中で、サービス系アプリが所得を得るうえでのセーフティーネットになっているわけです。

そうして景気の低迷期をしのいで、いつか来るチャンスを待つ。

日本でも目指すべきと言われる「再チャレンジが可能な社会」の土台が、ブラジルでは少し意外な形で実現できてしているようにも見えます。


(参考)

400万人という数字がどれくらいのものかとらえやすくするために、ざっくりとブラジルの主な数字を並べておきます。

・総人口 2億700万人 
・生産人口(10~60歳) 1億6,984万人(2018年・PNAD)
・就業者 9,124万人(同上)
・失業者 1,296万人(2018年・PNAD)
・民間正規雇用者 3,293万人(2018年・IBGE)
・民間非正規雇用者 1,118万人(同上)
・連邦・州・市の公務員の総数 1,149万人(2016年・IPEA)
・連邦政府職員 120万人(同上)

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