影ひたす 水さへ色ぞ 緑なる 四方(よも)の梢の 同じ若葉に 藤原定家『拾遺愚草』 おぼつかな いつか晴るべき わび人の 思ふ心や さみだれの空 源俊頼『千載集』
六月を きれいな風の 吹くことよ 子規 来る風を 涼しく受ける すだれかな 井月 見たくなき 世もこの頃の 若葉かな 荷風
風に乗り 軽くのし行く 燕かな 漱石 のし行く=遠くまで行く 浮き草の 中に動くや 亀の首 子規 雨晴れて 街の人出や 夏やなぎ 荷風
洪水の あとに色なき 茄子かな 漱石 山吹の 花の雫や 夜辺の雨 子規 宵ごとに 傘の重さや さつき雨 荷風 梅雨晴れの きらめく花の 眼に痛く 犀星
川端の 淀みにとまる 流れ木の 浮き橋渡す さみだれの頃 西行『山家集』 さみだれに 水まさるらし あやめ草 末(うれ)葉隠れて 刈る人もなし 末(うれ)葉=葉の先端 源実朝『金槐集』
かきつばた 似たりやにたり 水の影 芭蕉 宵々の 雨に音なし かきつばた 蕪村 田から田の 段々水を 落としけり 犀星 宵ごとに 傘の重さや さつき雨☔ 荷風
私の詩は 一つの着手であればいい 私の家は 壊れやすい家でいい 一日ひとひに失はれる ああこの旅のつれづれの 私の詩は 三日の間もてばいい 昨日と今日と明日と ただそのかたみであればいい 三好達治『枕上口舌』
極楽は 遥けきほどと 聞きしかど 勤めていたる 所なりけり 空也上人『千載集』 嘆かれず 思ふ心に 背かねば 宮も藁屋も おのが様々 藤原定家『拾遺愚草』 世の中は とてもかくても 同じこと 宮も藁屋も 果てしなければ 蝉丸『新古今集』
袖の香は 花たちばなに 残れども 絶えて常なき 夢の面影 藤原定家『拾遺愚草』 惜しみこし 花の袂も 脱ぎ替えつ 人の心ぞ 夏にありける 源実朝『金槐集』
ひとつ脱ぎ 後ろに負ひぬ 衣替え 芭蕉 きぬ替えて 座ってみても ひとりかな 一茶 薫風や 本を売りたる 銭のかさ 百閒 深川や 低き家並み さつき空 荷風
花は根に 鳥は古巣に 帰るなり 春のとまりを 知る人ぞなき 崇徳院『千載集』 暮れて行く 春は残りも なきものを 惜しむ心の 尽きせざるらむ 藤原隆季 同 宇宙天体自然の永劫回帰に
目には青葉 山ほととぎす 初鰹(はつがつお) 素堂 若葉して 籠りがちなる 書斎かな 漱石 さみだれの 晴れ間急ぐや 人の足 荷風 晴れたり降ったり青田になった 山頭火
つくづくと 軒のしづくを 眺めつつ 日をのみ暮らす さみだれの頃 西行『山家集』 さみだれに 水まさるらし あやめ草 末葉(うれは)隠れて 刈る人もなき 源実朝『金槐集』 皆様、良き1週間を〜 Bonne semaine à tout le monde.
見送るや 春の潮(うしほ)の ひたひたに 漱石 陽炎に もみ消されたる 蝶々かな 龍之介 行く人や 袂にいつの 草の花 犀星 春行くや 緩む鼻緒の 日和下駄 荷風
神と言ひ 佛と言ふも 世の中の 人の心の ほかのものかは 源実朝『金槐集』 極楽は 遥けきほどと 聞きしかど 勤め(生き)ていたる 所なりけり 空也上人『千載集』
白鳥は かなしからずや 海の青 空の青にも 染まず漂ふ 若山牧水 わが捨てし 言葉は誰か 見出さむ 浮巣の陽射し 流さるる川 寺山修司
