鎌倉佐保「荘園の基礎知識」(第一学習社「地歴最新資料」第32号)について

第一学習社「地歴最新資料」第32号が公開されている。
http://www.daiichi-g.co.jp/chireki/info/shiryo.html

鎌倉佐保「荘園の基礎知識」が収録されていて,奈良時代から室町時代にかけての荘園の変遷が概括されていて参考になる。
個人的には,平氏政権のもとでの「地頭」設置についての説明,そして,補注で「中世荘園」と「寄進地系荘園」「領域型荘園」との関係がコンパクトに説明されている点がもっとも興味深かった。
特に補注の説明を参照すると,山川『詳説日本史』が旧課程段階から,延久期以前から領域型への動きがあることを(示唆的に)記述していたように,単純に「領域型荘園」という性格だけをもって摂関期の荘園と中世荘園とを区別することの危うさがわかる。この点は,手嶋大侑「荘園制成立史研究と摂関期の荘園研究」(『摂関・院政期研究を読みなおす』思文閣)も要参照ということでしょう。勉強します。

ところで,『詳説日本史(探究)』は,延久の荘園整理令で荘園と公領の領域的区別ができあがったかのように説明しているけれども,やめにしてほしい。
荘園整理を「荘園の不入の権利を取り消すなど」と説明しているにもかかわらず,影響として「荘園整理によって,貴族や寺社が支配する荘園と,公領の区別が明確になり」と説明するのは,因果関係が混乱しているのではないか。不入の権が取り消されたら,荘園は受領・国衙の支配下にはっきりおかれるようになると理解するのが普通ではないのか。
領域的区別の明確化をもう少し後の時期,つまり院政期に設定するのが適切だと思うのですがねえ。

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