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五味太郎『正しい暮らし方読本』

最初の大学の卒論は、のちの自分に案外大きく影響している。
この本もそうだ。

その卒論では子どもの遊びを指標とした環境評価を試みたのだが(上手くはいかなかった)、そのためには遊び場遊びのほか、噂話や流行りなどの子どもの世界観を把握する必要だと考えた。
なので、都市計画や遊び場を作るコンセプト、教育関係の業界紙などにも手を広げて調べていた。
その中の一つの雑誌に子供の遊びや噂話などを集めた教育雑誌があった。そこに五味太郎氏の「正しい暮らし方読本」のコーナーが連載されていた。
五味太郎氏は知っていた。書店の絵本売り場で目を引く絵本が並んでいて、その作者が五味太郎氏だった。絵柄が特徴的なので、その連載を見てすぐわかった。
そのコーナーは毎号様々なことに「やり方」を紹介していた。箸の持ち方だの走り方だの本の読み方だのを、要するに型にはまらず自由に自分がやりやすい方法を取ればいいという紹介だった。
とこらがある号は「正しい電柱の登り方」だった。「電気関係の勉強をして、電力会社に電柱に登りたい旨を申し出て就職して、電柱に上る資格試験に合格して、電柱に上る部署に入る。これ以上正しい電柱に登る方法はありません」とあった。それまでの自由な発想と一転して窮めて常識的な記述であった。電柱に登ることの危険性まで透けて見えて、実に見事な伝え方だった。

後年子供が生まれて絵本を与えるに当たり、どうしてもこの本を求めたかった。どうやら絶版らしく一般の本屋では見つからず、古本屋でようやく購入できた。

内容は記憶に違わずすばらしかった。

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