松本英子『初老の娘と老婆と老猫 再同居物語』(1)

松本英子氏『初老の娘と老婆と老猫 再同居物語』を読んだ。

氏のことを初めて知ったのは、1997年くらいの雑誌「散歩の達人」だった。まだB5版のアジロ綴じの頃。氏は紙面で「プロジェクト松」という連載を持っていて、その容赦ない描写が好きだった。氏と担当編集が都内で気になるけれども立ち入れない(色々な意味で)店に取材するエッセイだったが、特に印象に強いのは、愛猫のハナちゃんによる「愛のギザギザ袖」だった。エルメスだかどこかを取材するのに編集者と思い思いに「オシャレ」をして行くのだが、氏のブラウスの袖がかぎ裂きになっているのだが、それは飼ってるハナちゃんによるものという。「おっ、エイコの服じゃんか、オシャレにしてやれ」というハナちゃんの心遣い……と想像する氏に共感を禁じえない。ネコはいいよね……。
それから氏の著作を追っては脱落し追っては脱落していたのだが、なぜ脱落してきたのか。唯一完走したのはハナちゃんのエッセイである。
気になる店を取り上げる『プロジェクト松』とは逆に、エッセイではその鋭い切込みが自身に向けられるからだと考える。
こちらの胸も抉られるのだ。
その意味で、エッセイとしては優秀というか愚直すぎというか、近いメンタリティの者から順にやられていくものではなかろうか。

そんな松本英子氏の新刊が出た。初老を迎えた氏が老いて病気がちになった母と同居する話でる。
氏とは1年違い。自分の母も大病したり骨折したりしているので、身につまされる。
氏の母は「ハナちゃん」や「荒呼吸」でも度々登場しているヒロコさん。パワフルで個性的に描かれていた。

若い時にはパワフルだったヒロコさんも老いて丸くなり、氏も母に反発する力も弱くなり、同居も案外できるじゃないか……とは簡単にいかない。母は娘のためにと少しだけ無理をして、娘も母との違和感を見逃そうと無理をする。若い頃の母の強い自我も健在だし、娘は娘で家の雑事で仕事の時間を奪われつつある。
うまくいく部分と行かない部分が交差する同居生活と同時進行する連載。この後の展開は、果たして。
今度こそ完走できるか。

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