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首なしライダーの呪い

好きなもの、体験して良かったもののランキングを考えるのが好きだ。
温泉宿に泊まることを趣味にしているので、1年間に泊まった温泉宿の中から「部屋」「風呂」「食事」が良かった宿ランキングを決めてブログで発表する、ということを2017年から毎年やっていたりもする。
2022年に泊まった宿のランキングも、先日公開した。

「今まで泊まったすべての宿で良かったランキングを決めろ」と言われると、数も多いし何を基準にすればいいかわからなくなるので「今年1年間泊まった宿で」とか「宿泊料金2万円以下の宿で」とか、自分の中でルールを決めてランク付けするのが楽しいのだ。

今回「#好きな番組」というテーマで書いているが、「テレビ番組」「ラジオ番組」「配信番組」ひっくるめて、私の中で最も思い入れがあるのは「日本国内で制作されているテレビドラマ」だ。

ランク付けをするのが好きなので
「1990年代に放送された好きなドラマベスト3」
「2000年代に放送された好きなドラマベスト3」
「2010年代に放送された好きなドラマベスト3」
を、どこにも公開したことはないけれど自分の中でこっそりと考えてExcelにまとめ
「2000年代は、90年代の謎の勢いがちょっと衰えてきた野島伸司脚本のドラマがいいんだよなあ」
などと、1人でにやにやしていたりする。

タイトルでお気づきの方もいるかもしれないが本稿は「1990年代に放送されたドラマ」の中で私が最も好きな「銀狼怪奇ファイル」というドラマについての文章である。


人気なのに再放送もDVD化も難しい、幻のドラマ

90年代は私にとって、10代の多くを過ごした年代だ。
90年代が始まったタイミングでは小学生だったが、90年の1~3月に放送していた「想い出に変わるまで」というドラマを見ていたら「姉の婚約者を妹が寝取る」というストーリーの大人っぽいドラマだったので、親に嫌な顔をされたことをよく覚えている。
さらに、実家のあった山形県は当時テレビのチャンネルが少なくて放送されないドラマがあったり、受験が近いときは長時間テレビを見ていると文句を言われたり、いろいろと自由度が低かったのが私の90年代だ。

そんな不自由な時代だったけど「銀狼怪奇ファイル」は、土曜日の21時からという放送時間がちょうど良かったのと、いかにも若年層向けの学園ドラマという体を装っていたことで、文句を言われることもなくリアルタイムで視聴できた。

CDデビュー前だったのに既に人気絶頂だったKinKi Kidsの堂本光一さんを主役に据え、同級生役に三宅健さん、新聞部の先輩役に井ノ原快彦さん、木村佳乃さんと今思えば脇役も豪華な顔ぶれで、当時から人気も高かった。1990年代以降に同枠で放送されたドラマの中では、平均視聴率で7位、最高視聴率でも10位の記録を持っているという。

しかし、このドラマは再放送されることがないし、DVDも発売されていない。
作品中で最初に起こる「首なしライダー」事件が「被害者の首が切断される」連続殺人事件だったことが問題視されたためだ。
実際には、放送当時は特に問題にされていなかったと思う。首が飛ぶ映像も一目で人形とわかる子供だましなものだったし、放送後まもなく発売されたVHSソフトには「首なしライダー」の回もそのまま収録されている。
しかし、放送から約1年後に「被害者の首が切断される殺人事件」が起こったため、事件を彷彿させるということでお蔵入りになったのだ。
事件の犯人が首なしライダーに影響されたというわけではないと思うのに、とばっちりではないか……?と個人的には思っていた。

しかし、2023年に堂本光一さんがラジオで「首なしライダーというのが表現的に再放送がなかなか難しい」と発言するなど、未だに首なしライダーの呪いは解けていないようだ。
物語の始まりである第1話が「首なしライダー」の回なので、その回だけスキップすることもできない。
きょうび「ドラマの再放送ができなかったり配信が停止になる」と言えば、出演者が不祥事を起こして逮捕されたりということが多いと思う。銀狼怪奇ファイルの演者の多くは今も一線で活躍していて、みな品行方正な方たちばかりだというのに……なんてもったいないことだろう。

なぜ、90年代のドラマで1番「銀狼怪奇ファイル」が好きなのか

90年代と言えば「高校教師」「人間・失格」をはじめとした野島伸司脚本のドラマが旋風を起こしていた時代だ。また「あすなろ白書」「ロングバケーション」など北川悦吏子脚本のドラマが人気を博し始めた頃でもある。
学園が舞台のドラマでは「GTO」や「金田一少年の事件簿」も人気で、視聴していたしどちらも好きだった。KinKi Kidsが共演した「若葉のころ」なんてドラマも見ていた。

そんな中でなぜ「銀狼怪奇ファイル」が1番好きかと言うと、自分の境遇と重ね合わせて見てしまったからだと思う。

堂本光一さんが演じる主人公の不破耕助は、幼い頃に両親を亡くし、父親の親友の蟹江敬三さんに引き取られ、蟹江敬三さんの娘である宝生舞さん演じる冴子と共に、姉弟のように育った。
高校1年のある日、同級生の赤間くんと共に事件に巻き込まれて赤間くんは亡くなり、耕助も生死の境をさまようが生還する。その一件をきっかけに耕助が精神的に追い詰められたりパニックに陥ると「銀狼」という別人格が現れるようになる。
実は耕助は生まれつき2つの脳を持っており、これまでは不器用だが心優しく穏やかな「耕助」が表に出ていたが、事件以降、頭脳明晰・冷静沈着だがプライドが高く冷血漢の「銀狼」が時折現れるようになったのだ。
しかも「首なしライダー」事件以降、耕助の周りには不可解な事件が立て続けに起こり、頻繁に銀狼が表に出てくるようになってしまう。

事件が起こる→耕助パニック→銀狼にチェンジして事件解決→元に戻る

ということを繰り返しながらドラマは回を重ねていくが、後半になり
「入れ替わりが脳に大きな負担をかけていて、次に銀狼に入れ替わったらもう耕助には戻れないかもしれない」
という事態に陥る。
それで「耕助を入院させて、銀狼の脳を外科的に取り除いてしまおう!」ということになるのだが、そのタイミングでこれまでの一連の事件の黒幕である人物に、冴子が誘拐されてしまう。
耕助は手術のために入院していた病院を抜けだし、冴子を救出に向かうが返り討ちにされ、絶対絶命のピンチに陥る。
「自分の力では姉を救うことができない!」
「あいつなら!銀狼なら救うことができるはずなのに!」
耕助は「次に入れ替わったらもう戻れない」ことを覚悟したうえで
「この体はおまえにやるから姉ちゃんを助けてくれ」
と銀狼に助けを求め、入れ替わる。

入れ替わった銀狼は持ち前の頭脳で黒幕を倒し、冴子の救出に成功するがその過程でケガを負い、瀕死の黒幕は2人を道連れにしようと建物を爆破。
ケガで動けない銀狼は冴子に、自分を置いて逃げるように促すが冴子は
「あんたみたいなやつでも置いて逃げるなんてできない」
と言って肩を貸して2人でなんとか逃げる。
実はこの日は冴子の誕生日だった。耕助が残してくれた誕生日プレゼントを握りしめて涙を流す冴子に銀狼は
「冴子……おまえの耕助、返してやるよ。俺からの最初で最後の誕生日プレゼントだ」
と言い、冴子の手を握って微笑みを浮かべて静かに目を閉じ、眠りについた。

ざっくりこういう話なのだが、私はこの最終回を、涙なしに見ることができない。
ポイントは2つあって、1つは、堂本光一さんと宝生舞さんの美しい姉弟愛だ。
私にも弟がいた。生まれつき体が弱く生まれて、90年代が始まったときには生きていたが、96年1月に銀狼怪奇ファイルが始まったときには亡くなっていた。もう30年も経つのでさすがに古傷だが、当時は「弟の死」という現実そのものがまだ生傷だった。
生まれつき虚弱な子だったので普通の姉弟関係とは少し違ったと思う。私にも人並みに弟を愛する気持ちはあったはずだが、実際のところあんまりいい姉ではなかっただろう。
ドラマの中で描かれた、血のつながりのない姉弟の美しい関係に私は憧れと後悔の念を抱き
「私もこういう風にできたら良かったのに、もう何もしてやれない」
と涙を流した。

もう1つのポイントは、銀狼である。
耕助よりもあらゆる面で優れているはずなのに、冴子に疎まれ、愛されない。
物語の後半「入れ替わりが脳に負担をかけていて命が危ない」ことがわかった後、冴子は銀狼に
「あんたなんか大嫌い!耕ちゃん返してよ!」
とナイフを向けようとする。
事件の黒幕から脅迫状が届き、自身が命を狙われている状況だというのにだ。
「なぜだ。あんな役立たずのどこがいい?今お前に必要なのは、耕助じゃなく、この俺だろう!」
「なぜ俺を認めようとしない。なぜ自分の命より、耕助のほうが大切なんだ!おまえを救えるのは、俺しかいないんだぞ!」
悲痛な叫びを残して、銀狼は「自分の存在が認められない」ショックから、耕助に入れ替わってしまう。

そこから「この機に緊急手術だ!→冴子誘拐→救出→エンディング」となるのだが。
冴子に対する銀狼の「なぜ、自分を認めないのか」という思いが、私が幼少期に親に対して持っていた思いにシンクロして、強く心を揺すぶられた。

障害児や病弱なきょうだいを持つ子のことを「きょうだい児」と呼び、幼少期に親にかまってもらえず寂しい思いや我慢を重ねることで、親の愛情を疑ってしまうことがあるそうだ。

きょうだい児の特徴として「不満を感じつつも聞き分けの良い子を演じてしまう」ことがあるらしい。
私も、頭では事情はわかっているつもりだったし、不満を漏らすことはあっても「仕方ないことなんだ」と思おうとしていた気がする。

しかし「なぜ俺を認めようとしない!」と叫ぶ銀狼の姿に、ああ、私もそんな風に思っていたと記憶が呼び戻され、胸を締めつけられた。
そしてそれでも冴子を救い、冴子に存在を認められたことで、あっさりと肉体を手放してしまった銀狼。
どんな未来でも手に入れられる優秀な頭脳を持っていたのに、ただ認めてほしかっただけなんだな……という思いに共鳴し、涙を流した。

この作品に思い入れが強いのは、自分の境遇と重ね合わせてしまったからかもしれないが「なぜ自分は愛されないのか」「認められないのか」と思い悩むことは、程度の差こそあれ多くの人が経験することではないだろうか。
若い若い堂本光一さんの演技、真に迫っていてすばらしいから、再放送はともかく、せめてDVD出してくれないかなー、配信でもいいんだけどな……。
そう思いながら、もうずいぶん時間が経ってしまった。

2013年、雪山で首なしライダーに遭遇する

ここで終わるかと思いきや、この話にはまだ続きがある。

大人になった私は一人旅が趣味になり、それから間もなくして登山を始めた。
登山も大抵は1人で登っているが、少ないけれど山仲間もできて、1人では泊まれない宿に泊まるときや、タクシー代を割り勘したいときなどに誘い合って出かけることもある。

2013年の2月に、八ヶ岳山麓の「夏沢鉱泉」という宿に泊まり、硫黄岳に登る計画を立てた。夏沢鉱泉は「温泉宿」と「山小屋」の中間のような宿だが、基本的に個室利用なので休前日は1人で泊まることができない。それで山仲間のL氏を誘って出かけたのだ。

宿に着いた当日はあまり天気が良くなかったが、翌朝からは良く晴れ、朝焼けに染まる山々が美しかった。

夏沢鉱泉から登る硫黄岳は、無雪期ならそんなにレベルの高い山ではないが、厳冬期に登るのは初めてだったし、一緒に登る相手がいるのはやはり心強い。

たどり着いた硫黄岳山頂は、雲一つない晴天だが、爆風が吹き荒れていた。

風の強さが写真には写らないのが残念だが……。

エビの尻尾の長さが、強風地帯であることを物語っているかもしれない。

無雪期とはまったく様相の異なる、硫黄岳の爆裂火口跡も眺められて満足。風に飛ばされそうになりながらもすばらしい景色を満喫し、こんないい天気の日に登ることができた幸せを噛みしめつつ、夏沢鉱泉に戻ってきた。

下山後は夏沢鉱泉で入浴させてもらい、宿の送迎車で茅野駅まで送ってもらう。宿の玄関で男湯から出てきたL氏と合流すると、ふいに彼はこう言った。

「どうしても名前が出てこないんだけど……さっき男湯に俳優さんがいたんだよ」

登山では歩く場所、休憩する場所、泊まれる場所が限定されているので、登山好きな有名人と出会うことは実はそう珍しくはない。過去に私も、南アルプスの仙丈ヶ岳登山の休憩中に、おしんの子役だった小林綾子さんを見かけたことがある。山小屋の前で「一緒に写真撮っていいですか?」という人の列ができていたので、誰か有名人がいるんだなと思ってそちらを見たら、小林綾子さんだったのだ。

「見たらわかるような有名な人なの?」
「僕が顔を知ってるぐらいだからそれなりに有名だと思うよ。名前が……あー出てこない」
「えー。もしそのへんにいたら教えてよ」
「うん……あ!玄関出たところにいるよ」

L氏が示す方向に、ガン見しないようにそっと視線を回すと、そこにいたのは……。

「赤間くんのお父さんだ!」
「は?え?俳優じゃなくて誰かのお父さんなの?」
「あ、いやごめん。ネタバレになっちゃうけどつまり、首なしライダーっていうことなんだけど」
「ネタバレの意味がわからない……」

そこにいたのは、銀狼怪奇ファイルで「首なしライダー」役を演じた石丸謙二郎さんだったのだ。
私はL氏に、かつて「銀狼怪奇ファイル」というドラマで、息子を殺害された復讐と、息子を生き返らせたいという思いから首なしライダーとなって連続殺人を犯した役を演じていた人なのだよという話をした。

「あー、銀狼怪奇ファイルってなんかあったような気がするけど、思い出せないや」
「いや、普通は覚えてないと思うよ……15年以上前のドラマだし。
石丸謙二郎さんだね。SASUKEとかによく出てたし、体鍛えてる人なんだろうね。登山もするんだね」
「あーそうだ。石丸謙二郎さんか。というか、最初からそう言ってよ笑」

誰なのかわかってすっきりし、私たちは宿の送迎で茅野駅に戻ってきて解散した。石丸謙二郎さんも同じ送迎車に乗っていたように思うのだが、私もL氏もコミュ力が低い2人なので、お声がけすることもなかった。

しかし、私と首なしライダーの縁は、まだ終わらないのである。

2020年、著書を出し、山カフェに出演

2016年ごろから登山と温泉に関するブログを書き始め、それが思ったより多くの人に読んでいただけるところとなり、2019年の秋に書籍化のお話をいただいた。
執筆中にコロナ禍に突入して「こんなタイミングで旅の本を出して大丈夫なのだろうか?」と悩んだりもしたが、2020年の10月末に著書が発売されることが決定した。

Amazonに書影が出るまで何の告知もせずに来たのだが、発売日10日前に初めてこのツイートをした後、ラジオ番組の制作をされている方から連絡があったのだ。

石丸謙二郎さんがパーソナリティの登山をテーマとしたラジオ番組「石丸謙二郎の山カフェ」への電話出演依頼だった。

著書発売の告知をした直後のタイミングだったので、それを見てご連絡くださったのかなと思ったら違って、番組宛てに「月山ももさんに出演してほしい」というリクエストが複数あったのだという。ありがたいことだ。

土曜日の朝の番組だが、提示された出演日時はちょうど、出張先でビジネスホテルに滞在している時間帯だった。電話出演ならできるだろう、ということで、お受けすることにした。「山の中の秘湯」というようなテーマの回だった。

どんな話題について話すかを事前に担当者の方と電話で打ち合わせた際「実は、石丸謙二郎さんに山の温泉宿で出会ったことがあるんですよ」という話をしたところ「ぜひ、それについて話しましょう!」ということになり、電話出演時は、2013年2月の夏沢鉱泉での出会いについても話すことになった。

ラジオでは「夏沢鉱泉に泊まって硫黄岳に登った後、送迎車に乗る前に石丸さんをお見かけしたんです」という話をしたら「あの送迎車はなかなか揺れて、すごかったよねえ」というお話をいただいたりした。

こういう車だったのだ。たしかにすごかった。

電話出演ということで、いきなりスタジオと電話がつながって
「月山ももですよろしくお願いします」
という感じで始まり、出演者の方とオンエア前・オンエア後などにお話する機会があったわけではない。

でも、番組の中でも「次に僕を見かけたときはぜひ、声をかけてくださいね」と言ってもらえたし、またどこかの山で偶然お会いするようなことがあれば
「以前、ラジオでお話させていただいた月山ももです」
とご挨拶できるかもしれない。

そのときは「首なしライダーすごい良かったです!」などと口走ってしまわないように、気をつけないといけないね……。

数日前、三宅健さんのYouTube生配信で

そんなわけで、銀狼怪奇ファイルにまつわるエピソードをつらつらと書いてきて、本当はこれで終わるつもりだったのだが、数日前、三宅健さんのYouTubeの生配信を見ていたら「過去に演じた役でもう1度やり直したい、リベンジしたい役はありますか?」という質問に対して「銀狼怪奇ファイル」と答えていたのである。

20分ごろからです。

私は2001年の「ネバーランド」というドラマを見て以来三宅さんのファンなのだけど、たしかに、銀狼怪奇ファイルのときは、贔屓目に見てもちょっと荷が重そうだったよね……。
きっと今ならもっといい金狼(一連の事件の黒幕)がやれるはず!
「最終回で実は死んでませんでした」
という体で「僕らの勇気 未満都市2017」みたいな感じで、銀狼怪奇ファイルのスペシャルドラマ、いかがでしょうか……。
そして未満都市のときと同様に、オリジナル版のDVD発売を!

イノッチも、木村佳乃さん(の旦那)も、堂本光一さんも大変なときだと思うけど、出演者の記憶にも残り続けている銀狼怪奇ファイル。
いつかすべての呪いが解けて、配信やDVDで気軽に見れる日が来ることを、願ってやまない。


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