発掘された昔の文章その1

空間に顔を書くこと――フリオ・ゴンサレス展 世田谷美術館 2015年

 人間は確かに平面ではない。では、人間は果たして量塊(マッス)だろうか。私と向き合っているのは革張りの密実な頭蓋だろうか。あのひとの顔が私をつかまえて離さない力は、あのひとの三次元的な充実体によるものなのだろうか。ゴンサレスが彫刻を「空間に描く」とき、頭部や手足はその物理的な延長からはみ出し、空間をつかまえている。つかまえられた空間はもはや均質ではなく、正面があり裏があり、異方的に歪んでいる。首をかしげた花、胸につけたブローチ、サボテンの棘、向けられた銃口やナイフ、叫ぶ人間の顔。それぞれのかたちがこちらに向けて空間を歪ませてくる。正面に集中した存在感に反し、裏側に抱き込まれた空間の驚くべき不注意。そうだ、いつもこんなふうにして、私は人間のつくる空間の渦に巻き込まれている。人間は平面でも量塊でもなく、歪んだ空間そのものだ。ゴンサレスは正面性の力を知る画家であり、空間の歪みを知る彫刻家だった。

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