エアバスA350の中の白い夜

(2019/8/20)成田からヘルシンキへ向かう飛行機の中で書いた即興詩

エアバスA350の中の白い夜
日本国標準時を発ち、雲海の上、無時間の国に浮かび上がる
たまたま、1.5億キロの頭上に太陽があろうと、
なかろうと、
そこはいつも夜
8月はベルトコンベアの中に預けたので、雲の原にさわるとつめたい

夜、地表は幾何学で覆われる
全てが記号になる
だからコラージュできる
トキオでも、タリンでも多雨林でも
任意のdepartureとarrivalの隙間に、どんな音楽でも

もし、エアバスの中につめこまれるのが我々でなく(ΦωΦ)だったら、
雲の上の夜も寒くはない
1本のネジが誰かのいたずらで吹っ飛び、
エアバスが高度10000メートルでサバ折りになったとしても、
(ΦωΦ)たちはよろこび雲海を駆け回る

いや、それをいうなら、大気のこたつの中で
丸くなるのか

我々には毛皮も
吐き出すべき毛玉すらもないので
仕方なく糸くずとコットンに包まれて明るい夜を眠る

いつもこんなふうに軽率に詩を書く
無免許運転
パスポート不保持
だけど軽率さだけが取り柄だった

軽率に眠る
(ΦωΦ)たちは決してそんなヘマをしない

軽率に打たれた一語が
いつかパスポート番号や「日本国旅券」の文字よりも誰かの役に立つと信じていた
または、いまも?
と傍らの(ΦωΦ)が語りかけてくるので
手を振って追い払うと、
(ΦωΦ)は時差の中へ消える

エアバスの中では、国籍の違うふたりの女が密会している
一人はウラジオストクで、もう一人はモスクワで
非常口から飛び降りる

それを別の女が見ている
あなたたちは地上で
呪われているので

白い夜の下、
あまりに眩しいので、目を閉じ、
散らかったまぶたの裏を強引に片付けて
文字を書く
ペンもキーボードもないから
自然
暗闇に散らかった物事をくっつけて、つなぎ合わせて書く
そこからはあの人への好意も
彼らへの失望もでも
ほとんど何でも書くことができる
だからずいぶん長く
自分に向けられたものが、まぶたの裏にしかないことを知らなかった
でも書き換える方法は
さらに長いこと
知らなかった

within cells interlinked.

きみは知っているか
まぶたの裏は脳裏にそのままつながってる
だから裏道を行くものにとって
どんな明るい昼でも
宇宙でも
行くときは夜だ

まぶたの裏に書かれたものに基づかない
あらゆる文書と
まぶたの裏死海文書

まぶたの裏を共有せよと(ΦωΦ)がいう
彼らは人のまぶたからまぶたへと渡り
拡散していく
拡散されていく生き物なので
それを拒否して、
機内モードに入る

music for every airport

高度を保て、子どもたち
まだなんとかなる大人たち
君たちの国より
機内食が近くなる高度を

そこでwifiや(ΦωΦ)の手を離れて
ようやく何か
これまでに一度もうまくいかなかった冴えた一言を
ようやく何か、書くことができるから

そうして、エアバスの中に人工的な
大いなる眠気がひたひたと満ちて
(ΦωΦ)も我々も
君たちの中の、まだ希望がある人たちも
グッドナイト
ホワイトナイト

空をかける白騎士の夢を見る

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