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【第3回】遺伝子治療の世界最先端を切り拓く・ときわバイオ株式会社(三品取締役COO&荒木主席研究員インタビュー<前編>)

こんにちは!つくば研究支援センター(Tsukuba Center Inc.)のnote編集部です。6月に入り、空気が湿ったような匂いが漂いつつも、時には心地よい風が吹き抜けるようになり、夏の訪れを感じさせられます。新たな始まりの時期でもあるこの季節に、是非みなさまも思い切って新しいチャレンジを始められてはいかがでしょうか?

note第3回の記事となる今回は、つくば研究支援センターに入居している注目のバイオテック・スタートアップ、ときわバイオ株式会社様のインタビュー記事をお届けいたします。世界唯一のステルス型RNAベクター技術で遺伝子治療に革新をもたらそうとしている同社より、三品聡範取締役COOと荒木健児主席研究員にお越しいただきました。


三品氏&荒木氏 自己紹介

ーこんにちは。今日はお忙しいところお時間を頂きありがとうございます。まず最初に、自己紹介をお願いできますでしょうか?

三品聡範取締役COO(以下、役職略):ときわバイオで取締役COOを務めています三品です。出身は岐阜県、大学から大学院時代までを大阪で過ごしました。大学では薬学部に在籍し、卒業後は神戸の外資系製薬会社に研究開発職として入社し、外部との共同研究プロジェクトなどを担当していました。その後、外資系コンサルティング会社に転職し、新規事業開発や戦略立案などの仕事を経験した後、独立してフリーのコンサルタントをしていましたが、CEOの松崎や、CTOの中西との出会いをきっかけとしてときわバイオに入社しました。

三品取締役COO

趣味はトライアスロンです。8年くらい前からはあまり活動しなくなってしまっていたのですが、最近トレーニングを再開して大会にも出場しました。あとは、子供が一人いますので、オフには子供と過ごす時間を大切にしています。

荒木健児主席研究員(以下、役職略)
:ときわバイオの研究開発部で主席研究員を務めています荒木です。私も関西の出身で、大学院までをずっと大阪で過ごしました。その後、関東の製薬会社に就職し、それから18年間研究員として製薬の研究をしていました。大学の時から製薬の研究がしたかったので、ずっと研究者として仕事をしています。今年(2023年)の3月にときわバイオに入社しました。

荒木主席研究員

昔から体を鍛えるのが好きなので、ボルダリングやパルクールをやっています。あと、自分は昔から宇宙に関心があるので、つくばではJAXAの施設を見学するのが好きですね。今自分が当時あこがれだったJAXAの敷地の隣のラボで仕事をしているなと思うと感慨深いです(笑)


ーお二人がときわバイオで働くことになったきっかけ、ときわバイオとの出会いについて、詳しく教えていただいてもよろしいでしょうか?

三品:フリーのコンサルタントとしてベンチャー企業の支援などを行っていた際に、現在のときわバイオの株主からの紹介で、業務委託として関わったのが最初のきっかけです。

かねてから医薬領域での新規事業の立上げに関わりたい、会社を立ち上げて経営に携わりたいという想いがあり、コンサルタントをしながらそのような機会を模索していました。ですが、素晴らしい研究シーズにはなかなか出会えるものではありません。また、シーズが見つかっても、長期にわたって一緒に働きたいと思える研究者・開発者ともなかなか出会えるものではありません。

当初、ときわバイオにはサポーターの立場として関わっていましたが、関われば関わるほど、ときわバイオが持つ技術の魅力、また、創業者2人の人柄や考え方にも惹かれるようになり、お誘いいただいたこともあって半年後に正式に参画しました。

荒木:私は前職の製薬会社で長く遺伝子治療の研究をしていました。実はそのころからときわバイオのことは認識していて、正直なところ、「変わった技術を持っている会社だな」と思っていたのですが、当時は自分がここで働くとは思ってもいませんでした。

その後、当時在籍していた会社の方針転換があり、遺伝子治療に関する研究を継続することが難しくなってきました。別の研究に切り替えるという選択肢もあったのですが、自分は、長く携わってきた遺伝子治療の研究で得たノウハウだったり知識を社会で活かせるような場所があればと思ったんです。自分のやりたい研究を進めるのであれば、やはりスタートアップでやってみたいという気持ちもあったところ、ときわバイオに入社しました。


ときわバイオの開発した世界唯一の遺伝子導入技術「ステルス型RNAベクター」とは?

ーときわバイオが研究開発を行っている技術について、分かりやすく教えてください。

つくば研究支援センター施設内、ときわバイオのラボにて撮影

三品:まずはじめに、遺伝子治療について簡単にご説明させてください。

例えば、遺伝性疾患を持つ患者さんでは、ある特定の遺伝子に異常が見られます。代表的な遺伝子治療は、そのような異常がみられる患者さんに対して、正常な遺伝子配列を導入することで、病気を治す方法です。例えば、遺伝子に異常がみられる場合、そもそも細胞の中で本来であれば生成されるタンパク質が作られずに病気が発生することがありますが、このようなケースでは、投薬等を継続しても病気の根治には至りません。遺伝子そのものを導入することで細胞の本来の働きを回復するという点に遺伝子治療の特徴があります。

荒木:この遺伝子治療で重要な働きを担っているのがベクターです。ベクターは、「遺伝子情報の運び屋」と言い換えられます。正常な遺伝子配列を導入するには、このベクターが不可欠です。従来の技術では、ここに課題がありました。

まず、従来のウイルス型ベクター技術は安全性の面で課題があります。既存の技術では、導入先の細胞をがん化させてしまうようなリスクが指摘されています。

また、遺伝子治療のために特定の遺伝子情報をベクターで運ぼうとしても、ベクターに搭載できる遺伝子情報の量や大きさが限られていたため、従来の治療対象となる疾患は限定されています。ベクターに搭載できる遺伝情報の大小は、遺伝子治療の有効性に直結する問題です。

これらの課題を解決するのが、我々が研究開発を行っている「ステルス型RNAベクター(SRV)」です。

SRVは、遺伝子の存在する細胞内の核にDNAとして直接情報を挿入するのではなく、核の外の細胞質にRNAとして安定化して、安全に遺伝子情報をタンパク質として発現させることができます。この特性により、SRVは、理論的にがん化のリスクのない安全なベクターと言えます。

また、SRVは、従来のベクターと比較して、大きな遺伝子情報を運ぶことができます。これによって、遺伝子治療の成功確率を飛躍的に高めることが可能になります。

ステルス型RNAベクターは、その他のベクター(レンチウイルス、
AAV)と異なり、長期間細胞質内で安定した遺伝子発現することを可能にする
(ときわバイオ株式会社提供資料)

三品:さらに、SRVは、再生医療の分野でも活用することができます。再生医療では多くの場合、例えば、山中伸弥教授がノーベル生理学・医学賞を受賞したiPS細胞など、様々な機能を持つ細胞を作製することが必要です。この際にも遺伝子情報を導入するためのベクターが必須となりますが、例えばiPS細胞を作るには4つの因子を同時に発現する必要があり、従来のベクター技術では安定的・効率的な作製ができないという課題がありました。

一方SRVは、大きな遺伝子だけでなく多くの遺伝子情報を安全に運ぶことができるため、iPS細胞の作製においても製造コストの低廉化や生産性向上にも貢献できます。

多機能性幹細胞の作製においても、ときわバイオのステルス型RNAベクターは重要な役割を果たす(ときわバイオ株式会社提供資料)

荒木:ところで、先ほどときわバイオの持っている技術を「変わった技術」とお話ししましたが、これは、ステルス型RNAベクター(SRV)という技術が世界的なベクター技術研究のメインストリームから外れたところから誕生したことが理由です。

当時、業界では「アデノ随伴ウイルスベクター(AAV)」というのが、ベクター技術のデファクト・スタンダードだったんですね。ときわバイオは、日本で発見されたセンダイウイルスから生成されるセンダイウイルスベクターを発展させてSRV技術を開発しました。

センダイウイルスベクターは、日本発の技術であるものの、これを研究する研究者も少なく、あまり注目されていなかったんです。ですが、当社のCTOでSRV技術の発明者である中西が地道な研究を積み重ね、その結果、当社の技術が誕生しました。「イノベーションは辺境から」という言葉がありますが、仮に自分に踏み込めたかと言われると、そこまでの勇気がなかったというのが正直なところですね。そういった研究に対する中西の姿勢や考え方にも強く共感し、研究者としても尊敬しています。


ー遺伝子治療や再生医療が実用化される鍵となる世界最先端の技術を持っているんですね!ときわバイオの技術が社会実装されたら、どんな未来が実現可能になるのでしょうか。

ときわバイオのラボ内では、日夜ステルス型ウイルスベクターの実用化に向けて研究活動が行われている。

三品:ときわバイオの最大のミッションは、これまで治療ができなかった病気に対して、安全で安価な遺伝子治療・細胞治療を実現することです。ときわバイオの創業者である松崎・中西がここまで育ててきたステルス型RNAベクター(SRV)が社会実装されれば、これまで治療が困難だった病気が治療できるようになるだけでなく、世界中でより安全・かつ身近に遺伝子治療・細胞治療を受けることができるようになります。

また、我々のもう一つのミッションは、日本発の技術を世界に普及させることで、日本における遺伝子治療・細胞治療の産業振興を図ることです。日本経済への貢献として、SRVが実用化されて海外に製品が輸出されて外貨を獲得するというのみならず、例えばSRVの製造拠点を作ることなどを通じて、雇用の創出にも貢献していきたいと考えています。


<後編に続く>


次回予告

今回は、つくば研究支援センターの施設内に入居している注目のバイオテック・スタートアップ、ときわバイオ株式会社様のインタビュー<前編>をお届けしました。

次回は、三品さん&荒木さんに、お二人の具体的なお仕事の内容や、ときわバイオが更なる成長をとげるための課題などについてお伺いするインタビュー<後編>をお届けします。お楽しみに!


取材:つくば研究支援センター ベンチャー・産業支援部 大塚和慶

※本記事は、個人的見解・意見を述べるものであり、つくば研究支援センターの組織的・統一的見解ではなく、それらを代表するものでもありません。