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Rainbow㉔


渇望①

 白保海岸に、朝陽が昇り水平線から光が溢れ出す。遠くから聞こえてくる漁船のエンジン音。寄せては返す波音や樹々の葉を震わせる風の音葉音。磯の香りと髪の香りが混ざり合い鼻腔をくすぐる。
 砂浜を二つの影が寄り添うように歩いている。それは真里と千夏だった。
「お母さん、私ね。高校を卒業したら、ダンスの道に進もうと思う。咲人さんのダンスを見たとき、『この人のダンス、なんて美しいんだろう』って思った。私もあんな風に踊りたい。……練習中も、試験中もずっとそればかり考えてた。だから、ダンスの道に進んで、いつかあいつをぐうの音も出せないようにしてやるんだから!」真里はサンダルを片足で垂直近くに傾けて、そこに乗っている砂を砂浜に滑らせた。
「真里。……あなたがやりたいのならお母さんも、お父さんも反対しない。でも、……本当は納得してないんじゃない? 一次審査の結果を」千夏はサンダルを脱いで、片手に持ち裸足のまま波打ち際に立った。
「ううん。……いや、そうかも。初めは、『何で?』って思った。けど、だんだんとエリーシャが私に何を望んでいるのか分かってきたような気がして。今はまだ、上手く言葉にできないけど、きっとそうなんじゃないか!って。……」千夏は、真里の元へと近づき抱きしめた。真里もそれに応えるように千夏を抱きしめた。
「ねえ、お母さん。少し太った?」真里は千夏の横腹を指でつまんだ。
「ちょっと! 失礼な子ね。当分、お菓子禁止令出すわよ!」千夏は腰の両側に手の甲を置き仁王立ちした姿勢で、真里を優しく睨んだ。
「おお~、どうか、それだけはご勘弁を。女王様」真里は顔の前で手を合わせ、祈るようなしぐさで千夏に頭を下げた。
「いいや、私はこうと決めたら曲げないわよ! ここでは私が女王で、あなたは僕。お分かり?」千夏はエリーシャの真似をして真里を喜ばせた。
 二人は、姉妹のように声を上げて笑い合った。落選した選考合宿から帰宅して、二日目の朝だった。
(つづく)

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