つむぐ

沖縄・石垣島を含む八重山諸島を舞台に、小説を書いています。小説好き、本好きな人と繋がり…

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沖縄・石垣島を含む八重山諸島を舞台に、小説を書いています。小説好き、本好きな人と繋がりたいです。 自著『星空の下で』発売中! https://www.gentosha-book.com/products/9784344940659/

マガジン

  • 逆時の住人

    児童文学を書いてみました。「面白いな」「続きが気になる」などあれば、「スキ」や「コメント」をしていただけると大変嬉しいです!よろしくお願いします。

  • Rinbow

    現在、プロットなしで執筆中! 作者自身も1話書き終わる毎に、次のストーリー展開が分かるという。キャラクター任せの展開です。どんな終わりになるのか、作者自身も楽しみです! 一緒に伴走していただけたら嬉しいです。コメントやスキも、これからの励みになります! よろしくお願いします。

最近の記事

逆時の住人(7)

 「ふぁ」大きな口を開けて貴音は電車の中で欠伸をした。 「何だよ、昨日は寝られなかったのか? さっきから何回目の欠伸だよ」隣に座る洋平が心配した顔で貴音を見た。 「ごめん。気になることがあって、昨日は書斎で朝まで調べものしてたの」  貴音と洋平は、電車で祖父の研究仲間であり物理学者の識名学教授がいる大学に向かっていた。彼は祖父亡き後、日本でのワームホール研究者の筆頭であり現在は大学で研究の傍ら、次世代の後継者を育成するために若手を指導している。と大学のホームページで見たことを

    • 逆時の住人(6)

       ――かぐや姫は、どうして月に還ってしまうの?  ――かぐや姫は、この世界に希望を抱いていた。しかし、現実にはそれが間違っていたことに気づいたのかもしれない。  貴音は、幼い頃の夢を見た。祖父は、かぐや姫の絵本を読み聞かせするときに貴音が疑問に思ったことを一つ一つ丁寧に教えてくれた。  貴音はベッドから起きると、祖父の書斎に行った。窓の外はまだ夜中だった。貴音の脳裡に、ふと一つの疑念が生じてそれが思考の大部分を占めていた。――なぜ、祖父はかぐや姫の月への帰還を「かぐや姫が間違

      • 逆時の住人(5)

         青空に飛行機雲が走る昼休み。校庭のベンチに座り、貴音は洋平に昨夜書斎で起きたことを話した。そして、祖父が遺した日記と腕時計を貴音は洋平に見せた。 「なんだこれ? 時計の針が逆に進んでいる!」洋平は目を丸くして腕時計を手に取った。 「そうなの。『逆時の世界』に行ったときに、そこから持ち帰ったものだって。おじいちゃんの日記に書かれてた」貴音は祖父の日記を開いて洋平に渡した。洋平は日記に書かれている冒頭文を声に出して読んだ。  ――この世界は、時針が逆に時を刻んでいる。「逆時の

        • 逆時の住人(4)

           星たちは、いつも決まった場所に現れる。貴音には、それが心地よく感じられ、魅力的にも感じていた。   ――貴音、星はバランスを保ちながら宇宙に存在している。宇宙では、それぞれの位置が重要な意味を持っている。この星、地球だってそうさ。星たちは、秩序を守って今日も明日も存在し続けていくんだ。  幼い頃に祖父が話していた言葉を貴音はふいに思い出した。書斎の窓辺で、夜空を見上げる天体望遠鏡を貴音の手が優しく撫でる。三年間分の埃が貴音の指に付いた。祖父が大切にしていた天体望遠鏡――もう

        逆時の住人(7)

        マガジン

        • 逆時の住人
          7本
        • Rinbow
          40本

        記事

          逆時の住人(3)

           澄みきった二月の空を見上げると、桜の香が鼻腔をくすぐった。貴音はふとした拍子に冬の空気の中に春の訪れを感じ、思わず深呼吸をした。桜の蕾はまだ固く、花開く日はもう少し先だろう。彼女はこの通学路を何度も歩いてきたが、今朝の空気は何かが違うように感じられた。 「貴音、おはよう!」  後ろから元気のいい声が貴音を呼ぶ。振り返ると洋平が手を挙げて歩いて来た。 「おはよう、洋平。ねえ、今日の放課後ウチに来ない?」貴音の言葉に洋平が不思議がった。 「どうしたの? 貴音からウチに誘われるの

          逆時の住人(3)

          逆時の住人(2)

           貴音が窓辺のクッションに腰掛けるとお尻からひんやりとした感覚が伝わってきた。それは窓外がニ月であることを貴音に知らしめた。貴音が書斎に入ってからは、止まっていた時が少しずつ貴音の体温を受け入れ、主人を見つけた忠実な犬のように、その懐かしい匂いや空気を貴音の体に擦り寄せてくるような感覚を覚えた。  三日月の掛かる夜空を見上げ、貴音は深呼吸を一つした。すると、座っているクッションの下に何か本のようなものがあることに気づいた。 「何だろう? 」と、貴音はその本を手に取った。その本

          逆時の住人(2)

          逆時の住人(1)

           寝付けない中学二年の今村貴音(いまむら きね)は、祖父の書斎のドアを押し開いた。 三年前に亡くなった祖父の書斎は、手つかずのまま残されている。生前、祖父が貴音の両親に遺した手紙には、「貴音に書斎の全てを譲る」と書かれていたそうだ。貴音も含めて、祖父の真意が全く分からないまま、三年もの間そのままにしている。  主を失った書斎は、時間が止まっているよう。ウィンドウベンチの窓から月明かりが書斎へと差し込んでいる。ドアを開けた時に舞った埃が月明かりに照らされて、キラキラ光って見える

          逆時の住人(1)

          Rainbow㊵

           おまけ②  メアリー・ポピンズを待ちわびていた。  東の空から傘を差しながら降りてくる、不思議な力を持つ子守り、メアリー・ポピンズ。  幼い頃の朋樹は、風が窓を叩くたびに、いつも窓辺へ駆け寄り、東の空を眺めた。 「僕のところにも、早くメアリー・ポピンズが来ないかな」  朋樹の言葉は、両親をいつも笑顔にした。  両親を失った朋樹は、悲しみに暮れ、重しのように体をソファーに沈め、泣いていた。  外は台風の雨風が吹き荒れている。先ほどから、カツンカツンカツンと東の窓を風が叩い

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          おまけ①  12月某日。石垣子ども劇団の公演会が開催された。 「改新 オヤケアカハチ」と銘打って、脚本から演出までを子どもたちだけで作り上げた。歌あり踊りあり笑いありのステージとなっている。  真里は主役のオヤケアカハチの妻「クイツ」を演じた。クイツは、踊りで願い(にんがい)をする。その踊りは神秘的で美しく、人々の心を魅了した。  主役のオヤケアカハチはちょっとクセのある男で、重税に苦しみ助けを乞う村人たちにこう言うのだ。 「救われたいのなら、覚悟を決めなさい!」  それは

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           帰る場所  石垣島ドラァグクイーンショーの翌朝から、それぞれが帰路に着き始めた。エリーシャと真里と千夏は、空港へと見送りに行った。みんなはエリーシャの引退を惜しみながらも、治療に専念してまた元気な姿を見せてほしいと伝えていた。  九月に入り、エリーシャと咲人は帰って行った。エリーシャと咲人は、せっかく沖縄まで来たのだからと、エリーシャの両親が眠る墓へ墓参りに寄ってからアメリカに行くと言っていた。  エリーシャは、ロサンゼルスの医療設備が整ったヘルスセンターに戻るそうだ。咲

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           熱帯夜⑤  夜は、ライブ会場でジャズライブを行なう。会場の中は特別券を購入された方とドラァグクイーンたちのために席が確保されている。サポートメンバーたちは、会場の外に設けられたBBQエリアから今夜のライブを観る。  真里はエリーシャの歌のときに踊る予定だったが、エリーシャの声の調子が戻らないことを考慮して、事前に咲人が踊る予定だったいくつかの曲を真里に分けていた。真里は昨夜までにその曲の振り付けを咲人から習い練習していた。 「咲人も真里も、次はあなたたちの番よ! 楽しんで

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           熱帯夜④  陽が沈み、夕闇が興奮冷めやらぬ観客たちを急かすように辺りに迫ってきていた。日中のステージは、予想以上の大盛り上がりで幕を閉じた。サポートメンバーとスタッフで会場や控室の後片付けをしていた。真里と琴美はメインステージの控室を片付けしながら、あれこれ話しをしていた。 「私ね、実は真里に内緒にしてたことがあるんだ」琴美は、テーブルを丁寧に拭きながら話した。 「真里が劇団休み出して、先輩とかにも頼れない状態になってさ。私一人ではもうどうにもならない状況だったとき、千夏

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           熱帯夜③  いよいよメインステージでのショーが始まる。世界でも著名なドラァグクイーンによるショーとあって、観客たちも国際色豊かだ。  ステージは、ビーチに向けて作られている。観客は、海を背中に砂浜で立ち見をしている。  エリーシャと真里は、メインステージ裏の控室に到着した。すると、史が真里の所へ駆け寄ってきた。 「おいおい、時間ギリギリだぞ!……それと、お母さんを見なかったか? もうすぐ着くって言ってたんだけどな」真里は史の恰好を見てびっくりした。  黒のパンツに白Tシャ

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           熱帯夜②  開場と同時に一万人を超える観客が会場に流れ込んだ。入り口で配布したマップや特設サイトを通じてお目当てのドラァグクイーンやプログラムが行われる各サブステージに散らばっていった。あっという間に全てのステージ席が埋まり立ち見の観客まで出ている。ドラァグクイーンショーを初めて実際に観る人々は、その迫力と痛快なパフォーマンスに皆、心を奪われた。  エリーシャは、ショーだけでなくドラァグクイーンをより深く理解してほしいという思いで、「クイーンのお悩み相談室」や「クイーンの

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           熱帯夜①  八月某日、カンカン照りに空は晴れ、熱中症予防のため会場全体にミストが設置された。  午後一時から開催される石垣島ドラァグクイーンショーに向け、各サブステージやメインステージでは最終確認が行われていた。五千枚の前売り券は既に完売しており、当日券を求めてホテルの外壁沿いに長蛇の列を作っていた。  そんな中、咲人はトラブルの渦中にいた。開始まであと二時間を切っていた。 「ジャスミンが来ないのは、昨日あなたが『本当にブスね』とか言うから傷ついて来られないんじゃない? 

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           月光④  咲人は、エリーシャに変わって舞台演出の指揮を執ることになった。年間十以上も大規模なイベントを開催していたエリーシャ。咲人は十五歳の頃からそのサポート役としてエリーシャの側で彼女の仕事を見てきた。舞台演出や出演者との微細な打ち合わせまで。エリーシャは、その全てを咲人に教え込んでいた。――病気のことも。  石垣島ドラァグクイーンショーを明日に迎え、エリーシャから頼まれたことは全てやり終えた。しかし、不安なことはまだまだある。当日に豪雨や機材トラブルなどが起きた場合の