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Rainbow㊳

 帰る場所

 石垣島ドラァグクイーンショーの翌朝から、それぞれが帰路に着き始めた。エリーシャと真里と千夏は、空港へと見送りに行った。みんなはエリーシャの引退を惜しみながらも、治療に専念してまた元気な姿を見せてほしいと伝えていた。
 九月に入り、エリーシャと咲人は帰って行った。エリーシャと咲人は、せっかく沖縄まで来たのだからと、エリーシャの両親が眠る墓へ墓参りに寄ってからアメリカに行くと言っていた。
 エリーシャは、ロサンゼルスの医療設備が整ったヘルスセンターに戻るそうだ。咲人は、エリーシャがいくつか持っているダンススクールを全て譲り受けた。今後はその運営や自身のダンスパフォーマンスの向上に力を注ぐと意気込んでいた。
 立花さんは?……やはり謎多き人だが、エリーシャによると、既に帰路に着いたらしい。不思議なことは、ジャズライブの夜から、誰も彼の姿を見た者はいない。
「ねえ、立花さんの名前はなんて言うの?」真里はエリーシャが帰る前に聞いた。
「立花朋樹。朋樹は私の名前をあげたの。本名は、立花伊代。トランスジェンダーなの」史も千夏も真里も驚いた。そして、やはり謎多き立花朋樹に、また会いたいなと思うのだった。
 南乃花は、咲人よりも千夏との別れを惜しんで泣いていた。このまま石垣島に移住して千夏と定食屋をしたいと何度も千夏に懇願していた。どうしようもないので、信州そばを作れるようになったら考えてもいいと史が適当に言うと、南乃花はそれを真に受けて帰って行った。
近いうちに、定食屋のメニューで「信州そばセット」が加わるかもしれない。

 それぞれに帰る場所があり、それぞれに帰りを待っていてくれる家族や仲間がいる。真里はそれが幸せなことのように思った。どうしてかって? そこには笑顔があるから。あなたの帰りを心待ちにしている笑顔に会えるから。
 真里は晴れ渡る空を見た。どんなに遠く離れていても、名前を呼べばまた会える気がする。
――エリーシャ。(完)

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