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平行世界

朝焼けを背に山へ入る
近道のために藪を掴んで急登
程なく汗が吹く
切られることが無くなった
杉の木々を眺める
古い切り株は苔むして
そこから新たに
更新しようとしている芽
クロツグミのやさしく
問うようなさえずり

ラベンダー色の素敵な服を着て
子供たちに囲まれて暮らす
川辺を歩けば
夕焼けは明日の天気を約束し
昼間の熱を冷ますような
おだやかな風が抜けていく
永遠ではないけれど
時は穏やかに
家族の声と共に

人の踏みあとと思った道は
獣道だった
あの分岐でまちがえたんだろう
道に迷ったが
尾根に出れば問題はない
大きな動物がつけた傷が
広葉樹の太い幹にあった
足を進めるだけで
しばらく一人の対話
汗からは寒い国の酒の匂いが
かすかに立ち込める

どしゃぶりの湾岸線は渋滞だ
閉じ込められた僕ら
君はラクダの話をリクエスト
僕が前にてきとうに作ったやつ
砂漠を長蛇のキャラバンはいく
一番後ろはラクダの上の
ベールをまとった君と
口をとって歩く僕
昼間のように明るい月の元
僕らは空港に向かっている

やがて頂が見えてくる
あそこまで行く人はほぼいない
そこは僕の席だ
誰も知らない僕の岩
頂上にて遥か遠方まで望む
左向こうの山に隠れた町があって
さらに先は海
海の先には彫刻が施された墓
太陽は雲のベールで
あやふやな光を投げる
山の色がすうっと抜けていく
僕らが見渡す世界は有限だ
僕らが見ぬことになる世界こそ無限

極寒の外の風を遮って
暖炉に唐松をくべよう
二人その前によりそう
ウォッカを少しだけ
どこかに君と静かに暮らす
そんな世界もあるかもしれない

歩き疲れた僕を
待っていてくれる静かな闇
誰も置き去りにされない世界
どこかで鳴いてる
ふくろう


******

写真は以前、山梨の雪頭ヶ岳に登ってるところから。
急登で息切れする山だけど頂上からのビューはかなりの圧巻。
まだ雪の残る季節だったので難儀した。

通らなかった、通れなかった人生について考えたことは誰にでもあると思う。
平行世界としてたしかにあるのだと思えば少しだけ救いに感じた日もありました。だいぶ時間が過ぎてからですが。
今を疎んじるのではなく、ただそういう世界もあるだろうと。

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