見出し画像

期待感をコントロールする

今回は宿業の話です。​

テレビや雑誌などでホテルや旅館が紹介されることはよくあります。
美しい写真や映像、テレビであれば芸能人が感動している様子が映し出されたりして魅力的に発信されていますよね。

そういったものを見て、いざ自分が泊まるとなると期待に胸膨らむのではないでしょうか。

でも実際に行ってみると映像で見たほど綺麗でなかったり、映っていなかった部分は汚かったり。スタッフの愛想が悪かったり。そうなると期待した分、損した気持ちになってしまいますよね。

この「損した気持ち」が満足度を下げてしまうことが往々にしてあります。

今回はそんな「期待感」を上手くコントロールしようとしていた私の前職の会社の考え方や、私が働いてきた施設での経験を中心に書きたいと思います。


1.あえて感動するポイントはホームページに載せない

私が最初に勤めた宿を運営する会社は、メディアにも度々紹介される知名度の高いホテルを展開する会社でした。

知名度が高いので宿泊予約はたくさん入ります。正確な数字は忘れましたが年間客室稼働率も80%くらいだったかと。
ただ知名度が高い反面、お客様の期待が高くなりすぎてその期待を超えにくい部分もありました。毎回口コミを確認する度に「期待していた割に」といった文言が目につきました。

そんな宿の系列で新規施設がオープンした時のこと。
そこでは一番の目玉である、客室からの「とある絶景」をあえてホームページに載せない、メディアに映させない、ということが行われました。(私も実際に宿泊して見ているのですが、社割利用だったのでSNS投稿禁止でした)

「とある絶景」は全ての客室から見え、目玉といっても過言ではないのですが自社ホームページには一切出ていません。
また開業当初は何度かTVなどで取り上げられていましたがその絶景は放映されませんでした。

その理由は「天気が悪いと見えないから」とのこと。

確かに絶景を期待して、いざ当日に雨が降って期待外れというのはよくあります。
それは別にスタッフや施設が悪いわけではありませんが、顧客満足度は下がってしまいます。そもそも知らなければ、その点において「期待外れ」ということは起きないのです。

結果としてその施設は系列内でも高い顧客満足度を維持しており、雨が多い梅雨時も満足度が下がることはありませんでした。

もちろん「絶景」が無くても高い顧客満足度を維持できる要素がある前提ではありますが。



2.一般の人が撮れない写真は載せない


新潟県の「里山十帖」や神奈川県の「箱根本箱」といった話題の宿を運営する「自遊人」のクリエイティブディレクター、岩佐さんの講演を聞いた時のこと。

自遊人のホテルはホテル好きなら大体の方が知っているようなホテルですが、テレビに映ることはほぼなく広告も打たないため、世間的にはそれほど有名ではない施設です。
情報発信は基本的に自社ホームページとSNSのみで発信しますし、外部の予約サイトは「一休」しか扱っていません。(最近はわかりませんが)

岩佐さんがおっしゃっていたのは「一般の人が撮れないような写真は載せない」ということ。カメラを駆使すればどんな凡庸な光景でも魅力的に写すことができ、それによって集客を図ることができます。ただし集客ができたとして期待外れであればその人自身がリピーターとして再び泊まることもなければ、口コミによって広がることもありません。

ここで私が経験した例を上げますと、以前勤めていた松本の宿泊施設のホームページでも「これどうやって撮ったの?」というくらい北アルプスが大きく写っている写真が掲載されていたことがあります。しかしその景色を期待してきたお客様から苦言をいただいたことが何度もあります。北アルプスが見えるのは事実なのですが、実際は遠くにあるので写真ほど大きく見えませんし、それよりも写っていなかった住宅街のほうが目立ってしまっているからです。


逆に窓から見た景色そのものであったり、一般の人でも「これなら撮れる」くらいのそこそこ綺麗な写真を載せていれば、実際にお客様自身が撮影して満足したうえで、さらにSNSにアップしてくれる可能性が高くなります。SNSにアップしてもらえればそれを見た人が次のお客様として来るという連鎖に繋がるかもしれないのです。

実際に「里山十帖」ではそのようにして集客ができたと岩佐さんはおっしゃっていました。



3.知名度の低いホテルは元の期待感が低い分、満足度が上がりやすい

最後に私の経験談からです。
私が働いてきた宿は最初の施設を除いて、全てが最寄りの高速道路のインターから1時間以上かかる不便な山の中にあります。そして知名度はそれほど高くはありません。客室も特段豪華ではないのですが、料理に対する評価が高いです。じゃらんの口コミ総合評価ではどこも5点満点中4.5以上なのです。

料理に対する評価が高い、と言っても高級なものや珍しい食材は使っていないですし、凄腕のシェフが特別な技巧を使って調理しているわけでもありません。

ただ料理の量があり、地元食材を適度に使いつつ、なおかつ出汁など料理の基本がしっかり押さえられている、というだけです。
そのためホームページに掲載されている料理も派手にならず、期待感もそれほど上がる内容ではありません。

そんな宿ではありますが、私が実際にお客様から言われたことの一例を挙げると、奥飛騨では「私は有名な料亭なんかにも行くけど、ここは出汁もしっかりとっているし本当に美味しいわよ」とおっしゃっていただく機会がありました。

また美ケ原のホテルでは『「ウィンザーホテル洞爺」(サミットでも使われた5つ星ホテル)よりも料理がイイね』と言われたことも。

もちろんお客様の嗜好もあるので真に受けてはいけませんが、美味しいと言われることは多々あれど、「不味い」と言われたことは上記の旅館・ホテルでは一度もありません。

ここでは料理についての例となりましたが、別に料理は普通でも部屋が綺麗だとか、温泉が立派だとか、そういった基本は抑えつつ一部の要素が秀でていれば満足度は上がるのではないか、と思います。

ちなみにこのような宿はネットに書かれる口コミだけでなく、宿泊したお客様がさらに知人に直接おススメしてくださることがあり、さらなる集客に繋がっています。




以上の3点から、
こだわるところはしっかりこだわりつつも、集客のためにお客様の期待感を無理に上げるような過剰な演出をしないこと
これこそが顧客満足度の上昇、ひいてはリピーターや新規顧客の獲得に繋がっていくのではないか、と思います。



蛇足ですが、
そういった面で「山小屋」って期待感が高くなりにくい場所だと考えています。お客様が期待していないので少しでもサービスや施設面で工夫すれば満足度が上がって、お客様がリピートしてくださるんじゃないかな、ということを思いながら山小屋の満足度向上を目指して働いています。


つの


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?