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たまには山へ恩返し

ただいま山小屋を離れて北海道の大雪山で働いています。

いずれ記事にしようと考えていますが、
大雪山の登山道を巡視する仕事をしています。

勤務先


その会社が関わっているイベントが

「たまには山へ恩返し」

という登山道整備のイベント。

今回私が関係者として参加して、
登山における新しい視点になると思ったため
記事にしてみました。


登山道の問題

人は山から多くの恩恵を受けています。
特に登山者は言うまでもなく。

登山者は登山道を歩きます。

そして登山道は人が歩けば歩くほど崩れます。

人が歩いて削れた場所に、
水が流れ込みさらにそこをえぐる。


えぐれた部分は歩きづらくなって、人はその脇を歩く。

そうするとさらに山は削られていき、
その場所は草花が育たなくなる。


貴重な生態系が失われていきます。


元の登山道は右側、浸食が進み登山者は避けて左側を歩いていたため、新たに植生が失われてしまっている


これらの崩れた場所を補修するのは
登山道の管理者であるのですが、
それが行政であっても、

実際のところは整備に回す予算もなく、
専門の整備人もおらず放置されているのが現状です。

放置された結果として、どんどん荒廃が進み、
取り返しがつかないほど登山道が荒れ、植生が失われていくのです。


たまには山へ恩返し
というイベントは
そんな登山道を整備人の指導のもと、
行政と一般の登山者が協働で整備しようというイベントです。

一般の登山者はボランティアとして参加を募ります。

ここで私が実際に参加したイベントを2つ紹介します。

たまには山へ恩返しin裾合平

大雪山の裾合平で行われたイベントでは、
放置されて荒れた木道の撤去と新たな木道などの敷設を行いました。

裾合平の荒れた木道、
登山者は木道を避けて植物帯を歩いてしまいます。
この日の参加者は40名以上!
それぞれ荷物を分担して整備箇所まで登ります。
ここでは木道を撤去してグレーチングを敷設

ここでは登山者はボロボロの木道を避けて植物帯を歩くため、どんどん植生が失われ、土も削られていきます…。

そこでボロボロの木道を撤去して新しい木道やグレーチングを敷設することで、
浸食の進行を止め、植生を復元させやすくします。もちろん登山者も歩きやすくなります。

参加者は40名ほど。200mほど進みました。
これを公共工事として企業に依頼した場合、数千万円になるんだとか…

ちなみにここで使用した資材は、
冬の間にスノーモービルで荷上げしたとのこと。
山における資材の荷上げは人力orヘリコプターが一般的ですが、
人力ではもちろん大変な労力が必要ですし、
ヘリコプターでは莫大な費用がかかります。

その点スノーモービルは費用を抑えた上で、
人力を遥かに上回る成果が得られます。
今後はもっと色々なところで取り組んでいくとのことです。


たまには山へ恩返しinトムラウシ


トムラウシ山では木材を参加者で荷上げして
ぬかるみに木道を敷設することで、

登山者が歩きやすくなるだけでなく、
ぬかるみを避けて歩くことで生じる更なる浸食を防ぎます。


木材は1本3.5〜4kg
参加者で持てる分だけ担ぎ上げます
背負い上げた木材で木道を作成します。
限りある予算で行うため木道は簡素なものですが、しばらくは浸食の進行を抑え、植生復元が進みます。

トムラウシのイベントでは3日間で約1.2トンもの木材を荷上げして、100基以上の木道が敷設されました。

これもヘリコプターで荷上げしたり、業者に依頼して行えば大変な金額になることは容易に想像できるでしょう。

(トムラウシではスノーモービルはまだ導入できていません)


登山者自身で登山道を整備すること

このイベントを通して登山道を整備することで、浸食を防ぎ植生を復元させるだけでなく、人が歩きやすくなります。

いずれも少数の登山道整備人がやるには大変な日数が必要になりますし、かと言って業者に依頼してヘリコプターで荷上げをして作業をしていれば、費用が大変なことになります。


それを普段登山道を利用している登山者自身が「たまには山へ恩返ししよう」
そういった感覚で行うことで、
少ない費用で登山道を整備でき、
山の植生の復元に繋げることができるのです。

私は今回関係者として参加しましたが、
一般の登山者の方は何度も来ている人もいれば、はじめましての人もいます。
いずれもその山に愛着がある方ばかり。


その参加者への恩恵としては、

整備を行うことで登山者自身が崩れの加害者であることを知ると同時に、それを自身の力で直すことができることも学べます。

登山道を歩きやすくすることで、登山者には感謝されますし、
自分自身が関わって良くなった登山道そしてその山には、より愛着が湧くため、やりがいもあります。

ここでの経験により、もっと登山道に目が向くようになるでしょうし、周りの方への登山道の利用の仕方の周知にも繋がるでしょう。


このイベントが行われているのは北海道の大雪山周辺のため、本州の方が参加するにはハードルが高いですが、
最近は様々な地域で登山道整備のイベントが行われています。

山に関わる方はぜひ一度はそういったイベントに参加して、登山道や山との関わりについて考えてみてはいかがでしょうか?

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